from パリ(河)- 26 – フランスのワイン事情(1)
勢いを増すビオワイン。

(2013.09.27)
パリ、モンマルトルの丘の小さな葡萄畑もそろそろ収穫の時期です。
パリ、モンマルトルの丘の小さな葡萄畑もそろそろ収穫の時期です。
フランスのヴァンダンジュ(ブドウ収穫)は2週間遅れ。

秋はワイン愛飲家の心が躍る、葡萄の収穫の季節。フランスでは早い地域では8月下旬から始まるのですが、「今年は夏の日照時間が短く、通常よりも2週間ほど遅れる模様」、とニュースで流れていました。夏休みに葡萄の収穫のアルバイトをしようと思っていた学生たちの間では、収穫時期が新学期の開始の後になってしまったので、当てが外れた、と嘆く声も少なくなかったようです。収穫は通常、10月上旬まで続き、各地のワイン村で楽しい収穫祭が開かれます。

パリの街中のワインショップも9月はワインフェアを開催。試飲のイベントも多く、お薦めのワインをディスカウントしてくれるので、ワイン好きには嬉しい季節。2012年のミレジム(ヴィンテージ)もぞくぞくと出てきました。2012年という産年については、ワイン専門家の間では、2012年の気候は、ボルドーにとってはあまり良い成果をもたらさず、ワインは「不均質な出来」と評価されているようです。一方でシャンパーニュやブルゴーニュについては、気象条件は厳しかったけれど、最終的にはとても良い仕上がりになっていると言われています。

ムフタール通りのワインショップ。リーズナブルなワインが揃う。
ムフタール通りのワインショップ。リーズナブルなワインが揃う。
秋のワインフェア♪
秋のワインフェア♪
2つのビオワイン:ビオロジックとビオディナミック
さて、最近のフランスのワイン事情として、もっぱら話題に挙がるのがビオワイン(Vins BIO)。これは、簡単に説明すると、化学物質を極力控える、あるいはほとんど使わない方法で造られたワインのことです。10年ほど前までは、味も品質もまだまだで、評論家から「これはワインと呼べない」、と酷評されることも少なくなかったのですが、ここ数年で、フランス各地でビオの栽培や醸造を熱心に実践する生産者や、ビオワインを取り揃えるワインショップやワインバーが格段に増えています。種類、品質の両方の面から見て、もうマイナーとも一時のブームとも言えない、1つの潮流を築いていることは確かです。

一言でビオ(BIO)と言っても、この言葉には2つの意味があります。ビオロジック(BIOLOGIQUE)と、ビオディナミック(BIODYNAMIQUE)です。ビオロジックはオーガニック、有機栽培と同義で、化学合成農薬や化学肥料を使用しない農法。ビオディナミックは、有機栽培をさらに推し進めたもので、畑から化学物質を一切排除し、さらには天体の動きに合わせて葡萄を栽培するという、オーストリアの人智学者、ルドルフ・シュタイナーの思想に基づく農法です。ビオディナックはより哲学的な側面の強いワインと言えます。今回はまず、ヴァン・ビオロジック(オーガニック・ワイン)について、少し詳しく説明します。

コルシカのヴァン・ビオロジック。ミレジム2012。ABマークはこの写真だと見えにくいですが、euro-leafは見えますか?
コルシカのヴァン・ビオロジック。ミレジム2012。ABマークはこの写真だと見えにくいですが、euro-leafは見えますか?
ビオワインはエチケットも個性的。
ビオワインはエチケットも個性的。
Vin Biologique(ヴァン・ビオロジック)とABロゴ

ビオロジック農法は、野菜、乳製品、卵、穀物など、フランスの農産物全般に昔から定着している有機農法。この農法については、仏農林水産省が管轄する規制があり、この規制に基づいて栽培、生産される農産物、加工品には、公的な有機農法認証ラベルとして、Agriculture Biologiqueの略号である、「AB」ロゴの使用が認められています。さらに、2009年1月からは、欧州連合全体に共通に適用される統一規則が、既存法規に代わって施行されることとなり、フランスではこの欧州規則と、これを補完する国内の特別規制に適合した農産物、食品には、国内の「AB」ロゴと合わせて、「EURO-LEAF」ロゴ(2010年7月から適用)を表示することが義務付けられています。

ヴァン・ビオロジックについては「AB」ロゴの使用は2005年から認められるようになりました。他の農産物ほどにはまだ普及していないものの、「AB」ロゴの付いたワインは、ここ3,4年でかなり増え、特別なワインショップだけでなくスーパーでもよく見かけるようになりました。しかし、つい最近になって、ワインに対するビオロジック規制が大きく変わりました。

* * *

これまでは、ぶどうの栽培にのみ規制が設けられていましたが、2012年のミレジムからは醸造も規制されるようになりました。欧州共通のこの新規制では、醸造の様々な工程で使用される物質の種類が制限されています。かなり専門的な話になるので、ここで詳しく説明することはできませんが、例えば、ビオワインを語るときに良く話題にでる、酸化防止剤として添加されるSO2は、無水亜流酸、亜流酸水素カリウム、メタ重亜流酸カリウムの3種が認められ、原則として赤は最大100mg/l 、白は最大150mg/lと制限されています。「AB」と「EURO-LEAF」 ロゴは、2012年7月31日以降に収穫、生産されるワインから、栽培と醸造の2つの規制をクリアしないと、表示できなくなります。

「AB」ロゴは、フランス一般市民の間では、オーガニック食品を選ぶ際の判断基準として浸透していて、ワインもこのロゴがあればオーガニック、という認識が定着しています。しかし、これは1つの指標に過ぎず、欧州規則を忠実に遵守するまでには行かなくても、「ロゴ」がなくても、それに近いレベルで有機農法を実践している生産者も少なくありません。フランスにはリュット・レゾネ(減化学物質農法)というビオロジックより緩い農法もあり、この方法で作られたワインも多くあります。また、ビオを実践していても規制には縛られない、「ロゴ」は必要ないと考える生産者もいます。もう一つのビオワインである、ビオディナミック農法で作られたワインは、必ずしも公的な認証ラベルで見分けられるわけではありません。何をどこまで実践するかは、各生産者のワインに対する考え方によって様々です。

次回はビオディナミック農法と、パリでビオワインを楽しめるお店を紹介します。

6区のオデオン界隈にある、ビオワインの老舗ショップ、LA DERNIERE GOUTTE。オーナーは近くでレストランを2店経営。美味しいビオワインが飲めます。
6区のオデオン界隈にある、ビオワインの老舗ショップ、LA DERNIERE GOUTTE。オーナーは近くでレストランを2店経営。美味しいビオワインが飲めます。
6区のマルシェ・サンジェルマンの一角にある気さくなワインショップ、Bacchus et  Ariane。ビオワインも充実していて、一杯飲むスペースもあります。グラスワインもありますが、店内で売っているワイン1本を販売価格+6ユーロで、その場で飲むことも可能。おつまみとして、市場のチーズ屋や生牡蠣もオーダーできます。
6区のマルシェ・サンジェルマンの一角にある気さくなワインショップ、Bacchus et Ariane。ビオワインも充実していて、一杯飲むスペースもあります。グラスワインもありますが、店内で売っているワイン1本を販売価格+6ユーロで、その場で飲むことも可能。おつまみとして、市場のチーズ屋や生牡蠣もオーダーできます。
*もっと詳しく知りたい方は『欧州規則№203/2012』 を参照。