from 北海道(道央) – 31 - ぶらりと「小樽」の街中を歩いてみる。《1》

(2010.05.13)
石川啄木の歌集『一握の砂』の歌碑。「かなしきは 小樽の町よ 歌ふこと なき人々の 声の荒さよ」。札幌から一年弱小樽へと通学していた当時の筆者が、まさに感じた小樽の印象が歌われているかのようにさえ感じる。

ガイドブック片手に旅先を歩くことは楽しいことだ。一方、ガイドブックなしに、年に数回、気の向くまま、足の向くまま旅をして歩くことが、自分は好きだ。

「小樽」に住んでから約4年という歳月が流れた。目的があってあちらこちらを歩き回ることがあったとしても、何も考えることなく、ぶらりと街中を歩いてみることもなかったなぁと気が付き、ちょっと街中を歩き回ってみることにした。

 

小樽駅から歩いて「カトリック富岡教会」へ。

出発はJR小樽駅(札幌からJR快速で約32分。1時間に2本運行)。JR小樽駅を一般国道5号沿いに右手へと歩き、大きな歩道橋がある交差点を右折。道なりに駅から20分程度坂道を登っていくと「カトリック富岡教会」がある。

テレビドラマの『相棒』の一場面に登場したりしているのを観ると、地元民として「なぜここで事件が起こるのだ?」とドラマの設定にびっくりさせられるのだが、実は現在自分が住んでいるマンションからは、日々教会の屋根に掲げられた十字架を間近に見ることができるのだ。

小樽でのカトリックの布教は1882(明治15)年頃始まったと聞くが、この「カトリック富岡教会」は1929(昭和4)年に完成し、現在では「小樽市指定歴史的建造物」に指定されている。とてもスリムなスタイルな教会である。時間があれば、自身の過去の過ちを懺悔してくるのもよいだろう(必要なのは、筆者だった。失礼)。なお、あくまで教会なので、入場するには受付できちんと説明を受けてからにしたいものだ。
 

「カトリック富岡教会」。先端に向けた上昇感を強調した構造で、外観はゴシック様式。色ガラスを組み合わせたアーチ窓から内部に降り注ぐ柔らかな光は、素晴らしい。
教会の左手には「マリアさま」が。しばし佇むと、敬虔な心になること間違いない。

 
「小樽公園」を散策する。

小樽は「坂」の街である。歩き慣れていない方には、ここまで徒歩で辿り着くのも一苦労かも知れない。しかし、この「坂道」のさらに上には「小樽商科大学」があるのだ。数十年前に札幌から1年弱通学した道のりの厳しかったこと。特に冬場はあまりの通学の大変さに、「涙」と「鼻水」が凍りつくことさえあった。

ということで、坂道を登ることなく教会から約5分程度平地を歩いてみると、「小樽市公会堂・能楽堂」がある。ここは一般開放されているタイミングを確認した上で、是非足を運んでいただきたい場所でもある。北海道でこの建築物を見ることができるのは、小樽をおいて他では経験できないからだ。

(参考)夏の北海道に「新たな文化」の息吹が!(『WEBダカーポ』より) 

 
また、この界隈は「小樽公園」として、小樽港を含めて小樽の街全体を見下ろすことができる市民の憩いの場所として整備されている。ちょうど今時期には、公園を取り囲むように植えられている「桜」の樹を見ながら、花見を楽しむことができることから、家族連れ、カップルなどで賑わいをみせている。

公園入口付近にある「ひょうたん池」には、水芭蕉が咲いていたり、カルガモたちがゆったりと日向ぼっこをしている姿を見ることができる。
 
さらに、小樽市内の数箇所には歌人・石川啄木(いしかわ・たくぼく。1886-1912)の碑が建っていて、4カ月しか小樽で生活しなかった啄木の小樽に対するモノの見方の一端を知ることができるのだ。

以前紹介した「小樽市能楽堂」は、現存する一定の様式を備えた能楽堂としては関東以北最古のもの。大正天皇が皇太子時代に「行啓」された際に建築された建物である「公会堂」が、能楽堂と一体となって現在地に移築された。季節によって庭の木々の彩りも変るので、いつ訪れても趣がある。
「小樽公園」は市民の憩いの場。春は「桜」、秋には「紅葉」を楽しむことができるとともに、小樽港を含めた小樽の街中を一望できる。
小樽公園入口付近の「ひょうたん池」。ちょうど今の時期、水芭蕉が咲いていて、心も和む。
「こころよく 我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて 死なむと思う」。小樽公園にある石川啄木歌碑には、歌集『一握の砂』からの短歌が碑文として残されている。

 
大評判の「ソフトクリーム」で一休み。

さて、小樽公園を後にして、小樽の繁華街である「花園十字街」方面へと足を向けてみよう。

と、その前に、公園の出入口から歩いて直ぐの場所に「小樽ミルク・プラント」がある。実は、土日、祝日などは車で乗りつけた北海道内外からの観光客の皆さんが列を成しているほど盛況で、一度名物の「ソフトクリーム」を食べてみたいと思っていた地元民の一人としては、なかなかその機会に恵まれなかったというのも事実。

今回、初めてレギュラーサイズのソフトクリームを食べてみたが、確かに評判通りに美味しい。オープン時間直後が狙い目とみた(笑)。店内で食べることもできるし、店外にも長椅子が数組置かれているので、北国の緩やかな太陽光線を浴びながらのソフトクリームもよいものだ。

念願の「バニラ」ではなく「北海道ミルク」のソフトクリームを食べることができて満足し、「花園十字街」へと到着。この間、約10分。ひたすら海が見える方向へと進んで行けばよい。

日中はシャッターを下ろしている店が多いのだが、夕方近くからは一気に活気付く「花園」界隈。

ここにも石川啄木の足跡が残されている。現在も営業を続けているとあるお店は、啄木が小樽で生活をしていた頃の「居住地」であった。夜の小樽の街を散策する際、ちょっとだけ足を止めて、説明文に目を通してみてはいかがでしょう。

休日や観光シーズンには、連日行列ができている「小樽ミルク・プラント」。小樽公園の入口付近にある。
小樽ミルク・プラントで、「北海道ミルク」の「レギュラー」サイズを注文。行列ができる理由がよく分かる。
「花園十字街」は、小樽の夜の繁華街。手前の看板に写る『さかな料理 浜茶屋』さんは、筆者が東京から小樽に転勤してきた4年前、はじめて一人ふらりとお邪魔したお店。「さかな料理」の看板に偽りなしの美味しさ。
当時、南部煎餅屋西沢善太郎方(現在は『た志満』さん)2階に石川啄木は間借りしていた。当時の2階の床柱は、現在も残されているとのこと。

 
小樽にラーメン屋は存在しない??

「花園」からJRにて札幌まで戻るためには、小樽駅よりも南小樽駅の方が若干だが距離的には近い。徒歩にして、約10分。

先日も数人が集まっている会合で「小樽って、美味しいラーメン屋さん、ないんですよね?」と札幌から来られた若い女性に聞かれたのだが、小樽在住者一堂「そんなことはありませんよ!!」と気迫の回答。

「これが「小樽ラーメン」だ、というようなものはなく、むしろそれぞれのお店が個性的であるところが、小樽のラーメン屋さんの特徴とでも言えるのです」と、ラーメンに精通していない筆者だが、解説させていただいた。ちなみに、筆者はイタリアやフランスで料理修行を積んだオーナーがラーメンに目覚めて小樽に出店したという『渡海屋(とかいや)』さんの、「ニンニクチャーシュー」が大好きなのだ。餃子も評判がよい。

時間はちょうど昼下がり。

ぶらりとJR南小樽駅方面へと小さな通りを選んで足を運んでいると、『元祖おたる家本舗』という看板を発見。しかも「新登場「極(きわみ)」」というラーメンを大きく宣伝している。

折角なのでお店に入ってみたが、とても気さくな店長の池田憲治(いけだ・けんじ)さんが「是非このラーメン、食べてみてください」と勧めてくださるので、食べてみた。

塩ラーメンだとは聞いていたが、スープが黒い。まったく塩ラーメンらしくない。恐らく、これが小樽のラーメン屋さんの個性というものなのだろう。素直に美味しかったです。

満腹となり、目指すは福岡県久留米市に総本社があるという小樽の「水天宮」。水と子どもを守護する神であり、漁業、海運を祈って建立されたのだろう。それにしても、ここまで登るにも、小樽の坂道は辛い。

けど、坂道を登り切った先には、とても素晴らしい景観や、またここでも石川啄木の歌碑が待っていてくれると思うと、登り切った満足感で満たされるのであった。(つづく)

JR南小樽駅方面に向かって歩いていると、『元祖おたる家本舗』という大きな赤い看板に惹かれて店内へ。
「新登場『極』(きわみ)」という解説付き写真のとおり、店長一押しのラーメンということでいただいてみた。見た目は醤油ラーメンかとおもうのだが、実は「塩ラーメン」。
スープをすくってみると、黒っぽい。こっそりと聞いてみると、特製マー湯と大蒜、焦がし油を使っているらしい。
そして、さらにスープの上部を飲んだ後は、白っぽい。ベースとなっている「豚骨」スープらしい。これらが合体されて「塩ラーメン」というのだから、ラーメンの世界は「ワイン文化史」同様奥深いのだ。
「小樽のこと色々と教えてあげるから、いつでも立ち寄ったらいいよ」と気さくに声をかけてくださる店長の池田憲治(いけだ・けんじ)さん。
「水天宮」へと登る坂道は、猛烈な急勾配。明治時代に鉄道用のトンネルを掘るにも苦労した理由がよく分かる。
海運で賑わったかつての小樽、そして現在の小樽を守る「水天宮」。ここからの眺望は、一見の価値あり。