from ハワイ – 10 - 長い夏の終わりに。

(2010.10.07)

ハワイの夏は長い。

ふらふら飛んでいたモンシロチョウの姿が消えてゴールデンシャワーの花が咲く4月から、静かに雨が降る9月の朝までを私は夏と呼ぶことにしている。毎年暑さの程度に違いはあるがだいたいその辺りが「夏」である、日本の夏よりやっぱり長い。

すでに遠い昔のような気がするよく晴れた5月の朝、仕事に出かけようと家を出たところ通りの向こうに何やら人が集まっていた。そこには古い墓地があるので誰かハワイアンの年寄りでも亡くなったのだと思ったが、それにしてはこのあたりではみかけない人もいて少し妙だ。ハワイアンの年寄りならかなりの数のハワイアンが集まる。ではこんなところに人垣ができるほどの何があるというのだろう。気にはなったが車は止めなかった。

気持ちよく晴れ渡わたる5月の週末は各地でバザーやクラフトフェアが催される時期。教会のチャリティーやスワップショップ(ユーズドショップ)は掘り出し物捜しが楽しい。新聞やウェブページで情報がみつかる。

翌朝のニュースでクリント・イーストウッド監督が映画撮影の為に船を選ぶためのその墓地の隣にある駐船場に来ていたと知った。

クリント・イーストウッドと言われれば当時モノクロの『ローハイド』を見て育った私である。 車を止めて見物すれば良かったー! 悔やんでも悔やみきれず「ローレン、ローレン、ローレン」とつぶやく。

新しい映画は「HEREAFTER」というタイトルで海辺の街が津波に襲われるシーンの為に3日間に渡ってマウイで撮影が行われたという。主演のマット・デイモンは来なかったそうだからまあよしとするしかない。

 
バケーションの話題が挨拶がわりになる6月、ハワイの場合は「今年はどうするの?」ではなくて「べガスいつ行くの?」である。ハワイのローカルには夏休みはべガスが定番。「べガスはハワイ8つ目の島」と言われるぐらいハワイの人はラスベガスが大好きで家族と友達と、はたまた同窓会や会社の慰安旅行と何かと理由を付けては一年に何度も出かける。夏休みは家族揃って、なかには他州に住む親戚一同と誘い合わせてべガスに集結する人もいる。ハワイからべガスに移住している人もかなりの数にのぼる、べガスにはそれを受け入れるハワイコミュニティが存在する。夜のネオンと言えばダウンタウンかワイキキのスカイスクレーパーしかないハワイの人にとってべガスは夢がはじけまくるサイコーの街なのである。子供から老人までべガス、べガスへと草木もなびく。

VEGAS BABY! 一度でも訪れた事がある人にはこの街の異様な雰囲気がわかると思う。その魅力にとりつかれて帰ってこなくなる人も多い。話の種に一度は行ってみて欲しい、天使と悪魔が住み着いた街ラスベガス。

一方ハワイの学校のほとんどが夏休みに入る7月、 1年ぐらい前からチケットを押さえていた 日本人ママたちが、学校が休みに入るやいなや子連れで凱旋帰国のシーズンを迎える。おじいちゃんおばあちゃんが可愛い子供に会いたい一心で待っている。高いチケット代もなんのその、7〜8時間のフライトさえ我慢すればママたちには実家で上げ膳据え膳のゴロゴロ生活という至福のひとときが待っている。民族大移動という言葉さえ思い出すこの日本人ママたちのご帰還は短くて2週間、長い人で2ヶ月まるまる学校が始まる直前の8月末まで続く。

そして7月、8月、ハワイは帰省と盆ダンスのシーズンを迎える。

この時期アメリカ本土やから夏休みを利用して帰宅するローカルの子供たちで島がにぎやかになる。ハワイの子供たちの実に多くが高校を卒業するとアメリカ本土の大学に進学する。その子供たちが親の臑をかじって(全部ではありませんが)飛行機代を出してもらい一斉に自分の島に帰ってくるのである。

ローカルレストランに行くと懐かしい味を求めて家族と友達と食事しに来た「ちょっとあか抜けた」メインランド帰りの学生たちにおめにかかるのがこのシーズンだ。

日本の盆踊りはここハワイでは「盆ダンス」と呼ばれすっかり地元の文化として定着している。盆ダンスは各地のお寺の境内で行われ、移動遊園地のように櫓や提灯、太鼓などが巡回して行くようになっている。そのためお盆の3日だけにとどまらず7〜8月の週末はいつもどこかで盆ダンスが催されている。

黒髪も金髪も関係なし、老いも若きも「和風」と思える着物に袖を通し踊りに集まるのが盆ダンスだ。英語訛りの民謡は声量があってやけにうまいがあまり聞いた事の無い曲が多い。地方からの移民達が持って来た各地の民謡なのかもしれない。

そして最も強烈なのが必ずトリに歌われる70年代のヒット曲「ビューティフルサンデー」。夕闇に浮かぶ提灯と風に漂う強烈なワキが、英語と日本語が入り乱れさざめき、目眩を呼ぶその摩訶不思議な光景は鮮烈な夏の記憶として一度でも参加したことのある人には一生忘れない思い出となる。
 

夕方7時になると住職のお言葉を合図にいよいよ盆ダンスが始まる。上手に着物を着こなした「盆ダンスマニア」と言われるダンス好きのレギュラーさんもいる。いろいろな人がいるので見ているだけでも楽しい。
今年は選挙の年。2mの巨体で汗かきながら盆ダンスで踊る現役ホノルル市長ムーフィー・ハンネマン氏。ネイバーアイランドの盆ダンスにやってくるなんてさすがハワイの選挙戦、どのカルチャーにもアピールしなければ勝てない。

そんなわけで9月は意外に穏やかに始まる。走り回っていた近所の子供たちもレストランで騒いでいた学生たちもみんなそれぞれの学校に戻り、観光客たちも少なくなる。島が大きくため息をついているかのようだ。そうこうするうちに今年もまたカウンティフェアーの移動遊園地が組み立てられ始める。

春に帰国した時、勇んで買って来た扇風機は結局使わずじまいで夏が終わった。家にはエアコンが無いので窓の開け閉めだけで夏を乗り切ったことになる。どうやら日本の方がよっぽど暑かったようだ。まだまだ、まだまだと思っている間に9月の朝雨が降った。

そして9月26日明け方、今年最初の小さなノーススウェルがハワイのノースショアーにやって来た。ハワイに短い秋が来た。

秋が来たというのに木の葉の色は変わらず同じTシャツを着続けて1年が終わるハワイの生活。コートを着てマフラーをして重ね着をしたい、ブーツを履いて交差点を早足で歩きたい。どこの国でも南の島に流されて来た人はきっと同じ思いに違いない。パリやミラノにお住まいの皆さんにはわからない感覚かもしれない。
 

夏休みが終わるとスポーツクラブのエントリーの時期。フットボールにサッカー、バスケットと、選択肢はいろいろ。スパムムスビとサンドイッチを持ってフィールドにでかければ底抜けに可愛くて笑える5歳児たちのサッカー。
それでもってやっぱりしめくくりは夏の終わりのセール!夏物のセールは独立記念日の前後から7月末にわたって繰り広げられる。続く秋物は9月の末へと続く。夏物しか用が無いハワイゆえクリスマスのギフトショッピング開始。