from 鳥取 – 9 - 民芸王国・鳥取から自慢のおひなさまをご紹介。

(2009.02.09)

郷土玩具はふるさとに伝わるおもちゃのこと。昔から全国各地で個性あふれる玩具が作られてきました。ライフスタイルの変化などにより、近年どんどん姿を消しつつあり、玩具好きな私には寂しい限りです。

ところが、民芸運動の影響が今も色濃く残る鳥取は、実は知る人ぞ知る「郷土玩具の宝庫」なんです。今回は、鳥取の郷土玩具の中から、桃の節句を先取りして「おひなさま」にまつわるものをご紹介します。

まずは、鳥取砂丘から続く砂丘地で、「砂丘長いも」の特産地でも知られる鳥取県中部・東伯郡北栄町で作られている「北條土人形(ほうじょうつちにんぎょう)」の内裏雛(だいりびな)。なんともとぼけた味わいのある人形です。材料はもちろん土。窯で低温焼成してから彩色されます。お内裏様とお雛様のほか、三人官女と五人囃子もちゃんとラインナップされており、揃えて飾ると、小さいながらもけっこうな迫力です。

94歳になる製作者の加藤廉兵衛(かとうれんべえ)さんは、やわらかい物腰のいつまでもお話を聞いていたくなる和み系の翁。鳥取市内から車で1時間弱、天神川にほど近いこの地でずっと製作活動をしてこられ、今でも石膏型作りから箱詰めまでの工程を全てひとりでこなしておられます。廉兵衛さんの名前から、北條土人形は親しみを込めて「れんべい人形」とも呼ばれます。

ひな人形以外にも、民話や神話を題材に作られる土人形の種類は200あまり。量産できないためたくさんは出回っていませんが、全国に熱心な愛好家、コレクターがおられます。
いずれも5~10cmくらいの小型のもので、凹凸の少ないゆるやかな曲線で構成されています。シンプルなデザインなのに、表情豊かでユーモラス。眺めていると、その可愛らしさに心がほっこりと温かくなるような気がします。

加藤廉兵衛さん作「内裏雛」
「三人官女」。左の彼女のちょっと媚を含んだような目つきがイイです
研究熱心な廉兵衛さんの工房の本棚には「古事記」などの古い書物がぎっしり
最新作は、今年の干支を題材にした「牛のり天神」

お次は、柳屋(鳥取市茶町)の田中勤二(きんじ)さん、宮子(みやこ)さんが作るおひなさまを紹介します。

柳屋では、鳥取の伝統行事「流し雛」で使われるさん俵が評判ですが、今回の私のお勧めは、あえてレアものをセレクト。まずは、頭部と体、どの角度から眺めても、キューブ(立方体)型の木製のおひなさま。その名も「かくびな」と言います。

おもちゃのブロックで作られた人形を彷彿とさせますが、「かくびな」の方がもっと角ばっています。地元に古くから伝わる玩具を先代の田中達之助氏が復興させたものなのですが、とてもモダンで洒落たデザインですよね。かくびなの「かく」は四角の「角」ではなく「嘉久」と言う字をあてます。めでたく喜ばしいことが、末永く続きますように・・・という思いを込めて飾るおひなさまだとか。

もうひとつは同じく柳屋さんの「神代雛(じんだいびな)」。有名な因幡の白兎を助けた大国主命の伝承は、鳥取市にある白兎海岸(はくとかいがん)が舞台ですが、その大国主命には、鳥取市河原町に住んでいたという八神姫とのロマンスの物語があります。「神代雛」は、このロマンスをモチーフにしたひな人形です。こちらはロシアの木地玩具・マトリョーシカに形が似ていますが、入れ子人形ではなく、からだは張り子、お尻は土でできている起き上がり小法師です。

「嘉久雛」と「神代雛」は、ともに高さ約5cmの手のひらに載るサイズ。どちらも丁寧な絵付けが施されていて、愛らしさの中に、どこか風雅さの漂う表情を持っています。

私は「嘉久雛」を職場のデスクでパソコンの横に置いています。小さくて安定が良いので、邪魔になりません。おまけに丈夫だし。

人形用ケースの中で鎮座されることも多いのですが、こうした何気ない飾り方をするとあんばいが良いのが郷土玩具の魅力ですよね。

上下左右、どこから見ても角ばっている「嘉久雛」
「体に錘が入っていて、倒しても起き上がる「神代雛」
散らかった机の上でも収まりの良いおひなさま
布と紙でできた「田舎雛」も紹介したいのですが、これはまた別の機会に。

加藤廉兵衛さんと柳屋さんの工房ではいま、おひなさま製作のピークを迎えています。今年のひな祭りは、鳥取の郷土玩具であなたの身のまわりに彩りを添えてみませんか?