アート三昧 箱根旅 1日目 芸術の秋に、すすきの原の自然と、佐伯祐三、藤田嗣治の芸術に触れる。

(2008.10.24)

秋です! 
秋って、何かを楽しまなくちゃ、という気になります。
スポーツ? う~ん、体がなまりまくっているし…。
読書? 秋に限らず、ここのところひたすら黙々と読み続ける日々。ちょっと休んでも良いかも。
ということで、今年の秋は、芸術の秋に決定。ここ10年ほどで、アートスポットに大変身を遂げたという、箱根の仙石原へ足を運ぶことにしました。

箱根峠より芦ノ湖をのぞむ観光バス/
昭和初期


まず目指したのは、2002年にオープンした『ポーラ美術館』。

それは、深い森の中に佇む美術館でした。県道から延びるエントランスへと続く歩道。一見しただけでは、それほど大きな施設があるようには見えません。それもそのはず、そのほとんどを地下に埋没させて、この美術館は建てられているのです。

この美術館が建築計画されたとき、反対の声も少なくなかったと聞きました。ヒメシャラを始めとする原生林の生態系が崩されるのではないかとの懸念は、想像に難くありません。そこで、この美術館を作るにあたり、まず成されたことは、広大な敷地内の動植物、水流などの調査。その結果、元々この地が有していた植物生態系を損なうことなく、建築が実現されたそうです。2004年の建築学会作品賞を受賞しているこの美術館、建築ウォッチャーも必見の建物です。

さてさて、地上部分の高さは、たったの8m。周囲の木々の中にひっそりと身を隠しています。うっそうとした木々のアーチをくぐり抜けエントランスホールへ入ると、その明るさと傾斜したガラス屋根の向こうに広がる景色に、思わずため息。ここ地上2階から、地下2階まで吹き抜けのアトリウムになっており、とにかく明るい。緑に抱かれた美術館に、いきなり圧倒されてしまいました。

さっそく地下1階の企画展示室へ。現在『佐伯祐三とフランス』展が行われています。

東京美術学校(現・東京藝術大学)を卒業後フランスへ渡り(1924年)、画家として製作を続けた佐伯。彼がフランス滞在中に深く影響を受けた、ブラマンクやユトリロの作品などと共に、わずか6年という短い画家人生をたどる展示でした。堀の深い顔立ちを描いた自画像に始まり、パリのどんよりとした空気をすぐそこに感じられるような風景画の数々。佐伯が30歳という若さで亡くなったことも、そのときに精神を病んでいたことも、その前に自殺未遂を図っていたことも、佐伯を追うようにしてまだ幼い長女が亡くなったことも、初めて知りました。2人の遺骨を胸に一人帰国した妻・米子の気持ちを思うとちょっと切なくなります。

そういうことを知った上で、改めて佐伯の作品を眺めてみると、「生き急ぐ」という言葉が浮かんできます。あまりにも情熱的で、濃厚で。日本とフランスの芸術を巡る状況の違いや、自分を襲った病魔や、あれやこれやに焦りを感じていたのかもしれません。あとで知ったことですが、佐伯はパリにいる間、1日に少なくとも1、2点。多いときには4点もの作品を仕上げていたそうです。

次は地下2階へ。ここは常設展示に加え小企画展が催されていました。常設展のほうは、ルノワール、モネ、セザンヌ、ピカソ、ダリ……。西洋絵画を中心にコレクションされていると聞いていましたが、黒田清輝、東山魁夷、平山郁夫など日本の巨匠の作品も充実しています。近・現代の絵画史が、ぐるっと見回せちゃうような、そんなコレクションでした。

小企画展は『レオナール・フジタ 小さな職人たち』と題し、フジタ画伯(藤田嗣治)が描いた子どもたちの絵を集めた展覧会。佐伯と同じく、日本よりもフランスでの活動のほうがずっと長かったフジタですが、こちらは思わず微笑んでしまうような表情の子どもたちの絵が並んでいます。フジタのユーモアと愛情あふれる絵の数々に、気持ちが和みます。

さて、広い館内を歩き回ったあとは、1階にある『レストラン アレイ』へ。『佐伯祐三とフランス』展に合わせて創られたという〈レンズ豆のスープ仕立て 季節のフルーツとアイスクリーム〉がお目当てです。フランスの定番食材、レンズ豆を使ったデザートは、西洋版おしるこのような感じ。レンズ豆の食感と甘さがすごくマッチしています。甘く煮たレンズ豆もいけますね。豆好きにはたまらないスイーツでした。

ポーラ美術館

神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
0460-84-2111
『佐伯祐三とフランス』は2009年3月8日まで

 

 
 

見頃は、10月中〜11月中旬

 

ホテルに入る前に、今が旬のすすきの原へ。

実はそれほど期待していませんでした。高速バスからも、風に揺れるススキがたくさん見えたし……、なんて思っていたのですが、ここへついた途端に驚きの声を上げてしまいそうなほど、見事なススキの群生でした。

数年前まで、このススキの群生地に人の手が入ることはなかったのだとか。そうしたところ、湿生植物が徐々に幅を利かせるようになり、ススキが押され気味に。これではいけないと毎年、春先に野焼きが行われるようになったということです。以来、ススキたちは一層美しい穂をつけるようになったそうです。

風が渡る様子を目で追いながら秋を実感。「かながわの花の見所100選」「かながわ景勝50選」に数えられているこのすすきの原、秋ならではの絶景です。

 

 

仙石原のすすきの原

11月24日まで、湿生花園前から20分おきに「仙石原すすきバス」が出ています。

 

日も暮れかけ、本日の宿、マウントビュー箱根へ。 

ここは「箱根 にごり湯の会」会員の宿。にごり湯と聞くだけで、心がはやります。まずは食前に、ひと風呂。

大涌谷の地中深くで生まれた温泉を引いた露天風呂。多量に含まれる硫黄分、鉄分、その他のミネラルの成分を損なわずに、ここまで送られてくるそうです。効能は、神経痛、筋肉痛、関節痛炎、冷え性、疲労回復、慢性皮膚病などなど。あまりに気持ちよくて、いつまでも浸かっていたい。体を冷ましてはお湯に浸かり、のぼせそうになってはまたお湯から上がる、ということを繰り返していましたが……。本来ならば、最初の数日は、1日当たり1度の入浴、それも3分から5分程度が好ましいそうです。次から気をつけます。

お湯から出た後はしばらく、暑くて汗をかくくらいに体の芯から温まりました。絶えず荷物を担いでいるかのようにず~んと凝っていた肩が、心なしか軽くなったような……。気分がすっごくよくなったところで、夕食の時間です。

刺身盛り合わせ、海老だんご、カニ爪などのフライ、茶碗蒸し、ごま豆腐、煮物、酢の物。どれも手がかけられていて、おいしい。中でも、目の前でぐつぐつ、ジュージュー音を立てながら出来上がっていく陶板焼肉と、ブイヤベースは絶品でした。

月替わりのこのお食事をお目当てに、毎月いらっしゃるリピーターも多いそうです。箱根野菜や三浦海岸の魚介類など、地場の新鮮な食材をできる限り使われている、とのことでした。食べ切れなかったのが、何とも残念。

 

マウントビュー箱根

さて、食後はもう一度お湯につかってきます!

 

 

2日目に続く

 

 すすきの原、白黒写真提供/強羅 島写真館