田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》横浜、たそがれ、マリンタワー、
さんばし、灯台、一羽のかもめ

(2015.05.01)
氷川丸、マリンタワー、ホテルニューグランド、横浜の三役そろい踏み
氷川丸、マリンタワー、ホテルニューグランド、横浜の三役そろい踏み
 
♪港が見える丘

私は生まれてから高校卒業までの18年間、長崎で育った。大学生活を送った東京でそのまま仕事を始め、30代後半から20年以上を横浜で暮らしたので、人生の大半を長崎・横浜の港町で過ごしたことになる。二つの港町には共通点が多い。よく歌になる坂や丘の町であること、中華街があり中華料理が旨い、幕末に開港され真っ先に外国文化を吸収した、外国人居留地跡に洋館が残っている、山手という地名がある、などなど。グラバー園がある長崎南山手あたりから眺める港の風景は素晴らしい。横浜山手にも古い洋館や教会、女学院、外国人墓地などが残り、異国情緒では互角だ。山手の南端には『港の見える丘公園』もあり、この公園からの眺めはキリンのようなクレーンが並ぶ本牧埠頭と横浜ベイブリッジが正面間近に広がり、港湾マニアにはお勧めだ。夜景が美しいみなとみらい方面の、新しいミナトヨコハマを象徴する風景は残念ながらよく見えない。ローズガーデンが素敵な公園なので、バラの季節におすすめ。ここは終戦直後に流行った曲『港が見える丘』のモデルになったという説もある。

  • 元町のユニオン、モダンになったなあ。
    元町のユニオン、モダンになったなあ。
  • 石畳の道路をクルマが通るとヨーロッパの音がする。
    石畳の道路をクルマが通るとヨーロッパの音がする。
  • 元町で会ったバス『あかいくつ』にはNHK朝ドラのステッカーが。
    元町で会ったバス『あかいくつ』にはNHK朝ドラのステッカーが。
  • 元町の裏通りは首都高速下の運河沿い、橋を渡ると中華街だ。
    元町の裏通りは首都高速下の運河沿い、橋を渡ると中華街だ。
  • 中華街の朱雀門がある南門通りは、ヒメリンゴの並木が美しい。
    中華街の朱雀門がある南門通りは、ヒメリンゴの並木が美しい。
♪港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ

初夏を思わせるような晴れた朝、思い立って横浜マリンタワーへ出かけた。この展望台からはミナトヨコハマが一望できるはずだ。タワーの存在は昔から知ってはいたが、東京の住人が東京タワーに登らない(?)のと同じで、横浜に暮らしていた時も地上から眺めるだけの存在だったので、今回がタワー初登頂だ。JR根岸線の石川町駅で電車を降りて、久しぶりに元町商店街を歩く。遊歩道が整備され、商店もきれいになった。初めて元町に来た時(もう50年!も前)、ユニオン(スーパーマーケット)で珍しい輸入食材を見た時の驚きは今でも忘れない。洋菓子の喜久屋を左に折れて運河沿いの裏道へ出ると、記憶の風景がよみがえる。かつて港湾で資材運搬をして働いた木造ダルマ船が役目を終え、まるで廃船置き場の様相だった運河に、きれいさっぱり船が見当たらない。船上で生演奏や演劇をしたり、船上カフェが賑わった時代もあったのだが。『ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず』都市が整備さると消え去る文化もあるのだ。橋を渡ると中華街の南、朱雀門。左に見ながら山下公園方面へ歩道橋を登ると、いきなり眼前にマリンタワーが聳え立つ。

  • マリンタワーは10角形の鉄塔、シルバーに輝く基地のよう。
    マリンタワーは10角形の鉄塔、シルバーに輝く基地のよう。
  • もと灯台だけあって海のそば、山下公園のベンチも海を向いて並ぶ。
    もと灯台だけあって海のそば、山下公園のベンチも海を向いて並ぶ。
  • 展望台は20角形、山下公園の氷川丸を上から見たのは初めて。
    展望台は20角形、山下公園の氷川丸を上から見たのは初めて。
  • 山下公園、氷川丸、大さん橋、赤レンガ倉庫、みなとみらい
    山下公園、氷川丸、大さん橋、赤レンガ倉庫、みなとみらい
  • 本牧埠頭を蛇行する首都高速、左にベイブリッジ。
    本牧埠頭を蛇行する首都高速、左にベイブリッジ。
♪横浜の埠頭から汽船に乗って

横浜マリンタワーは開港100年の記念事業として1961年に完成した。全長106mの10角形の鉄塔で、どの角度からも展望台が付いた円形の灯台のように見える。2008年までは世界一高い灯台として現役だったそう。展望タワーは一時休業後、横浜市が開港150年に向けてリノベーションし、2009年に再オープン。鉄塔のカラーも紅白の縞模様からシルバーに変わった。夜間の照明光は藤色から赤に変化する。94mの展望台まではエレベーターで60秒。学生の頃に名画座で観た中平康監督の日活映画『砂の上の植物群』では、主人公の男女がマリンタワーのエレベーターで出会う。原作は吉行淳之介の小説だが、さらにタイトルの出典を辿るとパウル・クレーの水彩画だ。モノクロームの映画と淡い色調の抽象的なクレーの絵、そしてマリンタワーと、連想ゲームを楽しむ。

  • 吹き抜けの壁面を飾るモザイクは山下清の山下公園。
    吹き抜けの壁面を飾るモザイクは山下清の山下公園。
  • 灯台は時代遅れだなんて言われたくない、レンズの存在感。
    灯台は時代遅れだなんて言われたくない、レンズの存在感。
  • 山下公園側のテラスにはイタリアン・カフェもある。
    山下公園側のテラスにはイタリアン・カフェもある。
  • 鉄骨の内側はオリーブグリーン、右に見えるのが『港の見える丘公園』
    鉄骨の内側はオリーブグリーン、右に見えるのが『港の見える丘公園』
  • 展望台の覗き窓から10角形の証明。
    展望台の覗き窓から10角形の証明。

エレベーターの窓越しに鉄塔の力強い骨組みを観察しながら、意外と速いスピードで展望台に到着。映画のようなドラマはもちろん起きない。(笑)ガラス張りの明るい20角形の展望台を360度ゆっくり廻ると、修学旅行の中学生らしきグループと、中年のカップル、そして私だけ。高過ぎない程よい高さが展望には心地よく、昨今ではアナログの魅力か?山手側の元町や中華街はビルに隠れて良く見えないが、海側の山下公園方面は抜群の視界が開けている。のんびり静かにヨコハマのパノラマを満喫できた。タワー1階ホールの壁面には、改修前からあったという山下清のタイルモザイク壁画が保存されていて、これは必見。山下公園の花火の絵を見に来るだけでも楽しい。

  • 昔の船のシルエットは流れるように美しいなあ。
    昔の船のシルエットは流れるように美しいなあ。
  • ホテルの小部屋から、山下公園のハナミズキ見えるだろうか。
    ホテルの小部屋から、山下公園のハナミズキ見えるだろうか。
  • ♪赤い靴はいてた女の子、今では青い目になっちゃって。
    ♪赤い靴はいてた女の子、今では青い目になっちゃって。
  • 大さん橋の『くじらのせなか』はいいきもち。
    大さん橋の『くじらのせなか』はいいきもち。
  • みなとみらいの観覧車『コスモクロック21』は6:26、直径100m。
    みなとみらいの観覧車『コスモクロック21』は6:26、直径100m。
♪ブルーライト・ヨコハマ

GW間近の遅い午後に、もう一度マリンタワーへ向かう。『ブルーライト・ヨコハマ』を唄うまでもなく、大人の横浜は黄昏から夜でしょう、やっぱり。ハナミズキが満開の山下公園を、ホテルの小部屋を横目に、『赤い靴はいてた女の子』にも挨拶して、大さん橋まで気持ちよく歩くとうっすら汗ばむ。海からマリンタワーと夜のヨコハマを眺めようという計画だ。『くじらのせなか』と呼ばれるウッドデッキの桟橋は、遠くから見ると低くなだらかに見えるが登ってみると意外に見晴らしが利く。周りは海だし、ここに立つと風も強く肌寒いほどだ。薄暮の午後6時過ぎ、みなとみらいの観覧車のネオンが輝き始め、氷川丸のマストにも灯りがつく。

  • 夜の大さん橋、旅客船、ブルーライト・ヨコハマ
    夜の大さん橋、旅客船、ブルーライト・ヨコハマ
  • 昔の小さな桟橋に来ると、ポルトガルの港の気分。
    昔の小さな桟橋に来ると、ポルトガルの港の気分。
  • 夜になるとお色直し、下に三日月も出てきて。
    夜になるとお色直し、下に三日月も出てきて。
  • 中華街は裏通りが面白い、占いの店が増えて台北のようだ。
    中華街は裏通りが面白い、占いの店が増えて台北のようだ。

海と空が少しずつ濃いブルーに変わり、やがて見分けがつかなくなる。夜空に遠くマリンタワーの照明が薄いピンクから赤、藤色に変化している様子が見える。いつの間にか桟橋には白い客船が到着し、船の周りには白い灯りがこぼれ、乗客が下船し始めた。桟橋のデッキから眺めているだけの私も、俄に船旅をしている気分。いつか行ってみたいなあ、エーゲ海の船旅、と夢が膨らむ。大さん橋からもう一度マリンタワーに戻って、横浜の夜景を俯瞰しようかとも思ったが、もう十分にブルーライト・ヨコハマを堪能した。是枝監督の映画、良かったなあ。長いこと海風に当たってちょっと冷えたし、中華街へ寄って暖かいサンラータンでも食べて帰るか。

 

《ひとくち、ふたくち、みくちメモ》
横浜マリンタワーへのアクセスは、一番近いのがみなとみらい線「元町・中華街」駅4番出口から徒歩1分。JR根岸線「石川町」からは元町経由で徒歩15分くらい。横浜駅東口(そごう百貨店裏)から出航するシーバス(乗合船)で15分「山下公園」下船、徒歩2分、ミナト気分を満喫するのにはオススメ。
展望台フロア入場料は大人750円、私は650円(65歳以上)。マリンタワーの1階ホールは入場無料で、2階との吹き抜け壁面に山下清のモザイク画が2点残されている。灯台として活躍していた時代の巨大なレンズなども保存してある。2階のショップではレトロな缶入りのヨコハマドロップなどオリジナルグッズを販売している。

大さん橋の最寄り駅は「日本大通り駅」2番出口、徒歩7分だが、「くじらのせなか」は長いので見晴らしがいい所まで登ると15分くらい。港の風景を遮らないように低層の設計になっている。屋上は全面ウッドデッキの曲面と天然芝の広場があり夏の夕涼みに最高。
横浜市営バス『あかいくつ』は、桜木町駅→馬車道→万国橋→赤レンガ倉庫→県庁→日本大通り→中華街→元町→港の見える丘公園→マリンタワー→山下公園→大さん橋→などの観光スポットを周遊している。(2コースあるので注意)大人100円均一料金、PASMO使用可。