from 秋田 – 1 - 六郷のかまくらは男達が竹で打ち合う戦(いくさ)だった。

(2010.03.05)

秋田県の2月は小正月行事が盛りだくさんである。

秋田の小正月行事では、雪で作った雪洞の中に祭壇を設けて、中で餅を焼いたり甘酒をふるまったりする、「横手のかまくら」が有名だが、秋田県南部美郷町六郷の「六郷のかまくら」はメルヘンチックなかまくらとは趣を異にする。六郷のかまくらは700年の伝統がある秋田諏訪宮の神事で、2月11日から15日にかけて、天筆まつり、鳥追い、そして竹打ちという行事が行われる。昔ながらの小正月行事の姿が保存されているとして重要無形民俗文化財にも指定されているが、「竹打ち」は地元の男達が両軍に分かれて竹で打ち合う奇祭として知られている。

竹打ち会場。多くの人が集まっていた。周囲には天筆が数多く立てられている。
メルヘンチックな横手のかまくら。

今回私はこの「竹打ち」をレポートしようと美郷町に向かった。
2月15日竹打ちが行われる日である。午後6時半頃、六郷の中心部に入り、「湧太郎」という酒蔵を改修したホールや資料館、レストランなどがある施設の駐車場に車を停める。

湧太郎の隣には雪でお堂と鳥追い小屋がつくられていた。この鳥追い小屋は雪で四角く壁をつくり、上に茅のむしろをのせたもので、中には鎌倉大明神が祀られている。子どもたちが互いに鳥追い小屋を訪問し合い、鳥追いの歌を歌ったりして過ごすそうだ。

それとひときわ目をひくのが「天筆」というカラフルな細いのぼりのようなもの。緑、黄、赤、白、青の順に紙を継ぎ合わせ願い事を書き、青竹の先につけて立てられ、ひらひらとなびいている。この天筆は竹打ちの祭に注連縄、お札などとともに焼かれる。

午後7時を過ぎ、湧太郎から歩いて竹打ち会場である秋田諏訪宮に向かう。商店街を通っていくが、人影はまばらで静かだ。その静けさがかえって緊張感を高めていく。

突然私の背後で「ボヘー」という大きな音。振り返ると角笛のようなものを吹きながら男が歩いてくる。これは「木貝」というのだそうだ。戦場で吹かれるホラ貝のようで、ますます雰囲気が高まってくる。

名水市場湧太郎。六郷は名水の郷としても有名。中心部には60を超える清水が湧き出ている。
「湧太郎」内の酒蔵を改修したホール。訪れた時は社交ダンスのレッスンが行われていた。
雪で作られた鳥追い小屋。手前には箱ぞりと雪を踏み固めるための踏み俵。
雪で作られたお堂。カラフルな天筆が目をひく。

秋田諏訪宮の竹打ち会場に到着。先ほどまでの静けさはとはうって変わって、多くの人が集まっていた。四角く開けた会場の周囲には何重もの人垣ができており、先ほどの天筆が何十本と立てられ、さながら戦場ののぼりのような様相を見せている。会場中央には注連縄やお札などがうずたかく積まれたどんど焼きの2つの山。また両サイドには北軍、南軍ののぼりと共に打ち合うための5メートルほどの青竹が何十本と立っている。

なかなか良く見える場所を確保できずにうろうろしている間にも、刻一刻とその時は迫っていた。会場のスピーカーからは「六郷のかまくら」の解説が流れ始めた。続いて参加者への注意事項が。「ヘルメットをかぶらない人は中に入るな」「竹を持たない人は入るな」「折れた竹は使うな」「殴り合いはするな」「始まりはサイレン、終わりは鐘、合図を守れ」などである。

会場の中では、ヘルメット姿の男達がお互い持った長い竹を打ち付けながら気勢をあげている。会場全体が異様な緊張感に包まれる。午後8時。いよいよだ。

と、バリバリガチャガチャと竹のぶつかる音が。スピーカーからは「まだだ、まだ~」という声が。どうやら先走って打ち合いが始まってしまったようだ。追って急かされるように「ウ~ウ~」というサイレンの音。プロレスの試合でゴングが鳴る前に選手同士が始めてしまって、後からゴングが鳴るのに似ている。

竹打ちは数分の打ち合いが計3回行われ勝敗が決まる。北軍が勝てば豊作、南軍が勝てば米の値があがる。

両軍の男達が中央のどんど焼きの山付近に進み出て長い竹で打ち合っている。敵味方の竹が重なり合い、折れてしまう竹も。気持ちが高ぶってか、掴み合いになっている者もいる。
程なくして鐘の音とともに1回戦が終了。

少し間を置いて2回戦が開始。本部スピーカーからは「竹を持たない人は入るな」などの注意が飛ぶ。どうやら竹を持たずに暴れている輩もいるようだ。竹打ちは神社の境内で行われる神事だということを忘れてはいけない。喧噪の中で2回戦も終了。

2回戦と3回戦の間には天筆焼きが行われる。子供達や観光客が天筆を持って会場に入る。会場中央に用意されているどんど焼きの山に火がつけられ、天筆が焼かれる。カラフルな天筆が火柱となって天に昇っていく様は幻想的だ。

そしてどんど焼きの炎の横で最後の3回戦。炎は闘争心をかき立てる。参加者はもちろん、観客の興奮も最高潮に達する。

「カンカンカンカン」と鐘の音が響き、3回戦が終了。今年の竹打ちが終わった。勝敗は引き分けであった。

秋田の冬は雪も多く、寒さも厳しい。だがそんな時期だからこその楽しみ方もある。小正月行事もその一つだ。かまくら以外にも、男鹿市なまはげ柴灯まつり、大館市アメッコ市、仙北市紙風船上げ、大仙市刈和野の大綱引き、にかほ市掛魚まつり、湯沢市犬っこまつりなど。雪国ならではの伝統と風習が受け継がれている。ぜひ一度お訪ねください。

竹打ちが行われる会場。中央にはどんど焼きの2つの山。
北軍と南軍に分かれて竹打ちは行われる。まさに戦の様相。
竹打ち開始。長い竹が敵方に打ち下ろされる。中には味方に後ろから打たれる人も。
2回戦と3回戦の間にはどんど焼きの山に火が点けられ天筆焼きが行われる。
どんど焼きの炎の中で、さあ決戦の3回戦。
3回戦は参加者も観光客も興奮は最高潮に。