濃ゆい強羅へ。 その2

(2009.04.14)

燃えるような紅葉が見事な強羅をご紹介したのは昨日のことのようなのに、えーっと、今は桜が満開……かな? ま、強羅はいつ行っても美しい四季を満喫できるので、ここでそれを今さら褒め称えなくてもねぇ。だって強羅の魅力は、自然の美しさだけじゃありませんから!第1回でもお伝えしたように、強羅の魅力はその濃ゆさにもありますから!

 
さて、今回ご紹介する登場いただく“濃ゆい”お方は小野沢力さん。寄木細工とからくり細工という伝統工芸品の発展と普及に努める、箱根強羅物産店・角田屋のご主人です。強羅駅前にあるこの角田屋さんは、一見、ごくフツーのお土産物屋さん。温泉饅頭買っちゃおう、みたいなね。

と・こ・ろ・が・っ!

これがとんでもないお店なんです。もうね、美術館レベルと言っていい品がずらり。そが寄木細工とからくり箱です。仕事を通じて職人さんと知り合ったことで、小野沢さんはこれらに情熱を持つようになったそう。

寄木細工、ご存知ですよね? タンスや小箱、お盆などの表面を、色や木目の異なる数種類の木を組み合わせた幾何学模様で飾った伝統工芸品。まずは、その歴史について小野沢さんがレクチャーしてくださいました。

寄木細工は、江戸時代の末期に、箱根町畑宿に住む石川仁兵衛さんが開発。明治時代の初めに、同じく木材の加工品で有名な静岡からの技法が伝わり、現在の模様のスタイルが確立されたのだそうです。寄木細工を造るには、さまざまな種類の樹木が必要で、標高差がもたらす気温差によって生息できる種類の幅が広い箱根は、まさに適地なのだとか。

樹木の種類に恵まれた箱根での木工芸品の歴史は古く、なんと戦国時代にまでさかのぼるそう。それがブレイクしたのは江戸時代。東海道箱根八里の道が江戸幕府の行動として整備されると交通の要所となり、旗宿の寄木細工は、街道土産として需要が高まりました。また、奈良・鎌倉時代に湯治場として知られていた箱根温泉は、江戸をはじめ南関東一円から湯治客を集め、箱根の木工芸品は湯治土産としても人気を博します。1826年には、オランダ商会の医者として来日したシーボルトも、江戸参府の途中で箱根の旗宿に立ち寄り、寄木細工を購入しているそう。

さて、話はからくり箱へ。からくり箱とは、内部に工夫をこらしてあって、ひと手間かけないと開け閉めができない箱のこと。これは1894年頃に箱根宿出身の職人、大川隆次郎が考案したのが始まりと言われます。彼は7人の弟子をとってこれを世間に広めたとか。

その伝統を守り発展させるべく、1999年に小田原在住の職人が集まって発足したのが「からくり創作研究会」。パズル的な要素を強め、1点1点手作りで仕上げた作品は、知的なアートとして海外でも高い評価を得ているそうです。

実際、小野沢さんに作品をいくつか見せてもらいましたが、いやもう凄過ぎ。形状がすでに箱じゃないのもあるし。どこをどう押せば、引っ張れば、箱が開くのか見当もつかないものばっかり。72回以上動かさないと開かないものまであるし。知恵の輪の箱版とでも言えばいいんでしょーか。とにかく難しい。でも謎解きみたいで楽しいし、見た目もとってもビューティフォー。なにより、その精巧な仕掛けの見事さに脱帽です。これはもう、お土産とか伝統工芸とかのレベルをはるかに超えた芸術品と言っても過言ではありません。しかも、恭しく鑑賞する美術品ではなく、日々の生活に親しんだ品、っていうのがまたイイじゃありませんか。

この濃ゆさ、うーん、やっぱりビバ! 強羅! さあ、あなたも濃ゆい強羅目指してGO!

4月14日(火)〜20日(月)まで、松屋銀座7階遊びのギャラリーにて、からくり創作研究会の新作発表会を開催するそう。今回のテーマは「春」。その“からくり具合”は、一度でも目にしたらとりこになること間違いなし!知的で美しく、ユーモアにあふれたからくり箱、ぜひご覧あれ!

強羅駅前にある角田屋さん。一見、ごくフツウのお土産物屋さんですが、中に入ると……。
寄木細工、からくり箱がどどーんと!
開けるまでに72工程が必要な箱まであります! 来たれ、チャレンジャー!
これなんて卵型!! いったいどうやって開けろと?(ちなみにわたしはできました。ええ、自慢です、わっはっは。)
でもちゃんと開くんです。そして中にはピヨちゃんが!
からくり細工と寄木細工の普及に情熱を注ぐ小野沢さん。
 

 

大人だって、あそびたい からくり×春
会期 4月14日(火)〜20日(月)
会場 松屋 銀座本店7F遊びのギャラリー
時間 10:00〜20:00(最終日〜18:00)
問い合わせ Tel.03-3567-1211(代)