from 香川 – 5 - 桜の優美な世界から春の贅沢な贈り物。

(2010.05.19)

一年に一度の春の贈り物、桜の季節が今年も過ぎていきました。
春は、出会いと別れの季節。常なき世の中にあって、毎年必ず、春の幕開けを飾るように、冬の寒さで凍えた気持ちを慰めるてくれるように、訪れます。

香川県では、桜の優美な世界は過ぎたけれど、北海道や青森県の弘前城周辺などでは、まだまだ桜色に包まれることができるようです。弘前城には、全国でも最も古い桜として樹齢およそ120年になるソメイヨシノがあるそうです。

桜は“日本人の心”と、良く言われていますが、この季節になると、皆が皆、穏やかな面持ちで、桜を見に集まってきます。
人はあの淡い紅色になぜ惹かれるのか……。自然の中で咲く桜の威力は絶大です。

今回は、香川県の数ある有名な桜の名所の中でも、個人的に推薦する場所を数カ所ご紹介していきたいと思います。

 

高松市西方寺配水池のソメイヨシノ。

まず1箇所目は、平成20年4月1日、高松市文化財天然記念物として指定された「西方寺配水池のソメイヨシノ」をご紹介したいと思います。西方寺配水池のソメイヨシノは、香川県高松市西宝町 3丁目738ー1(アクセス:県道33号郷東橋東詰めを南に入り徒歩10分)にあります。

今から約3年前、高松市から西方寺配水池のソメイヨシノの保存依頼をされ、ソメイヨシノの将来を見越しての保存活動に取り組まれておられるうちの一人である、川西樹木医事務所の樹木医の川西さんに、西方寺配水池のソメイヨシノについて、少しお話を伺ってみました。

西方寺配水池のソメイヨシノは、西方寺配水池が建設された大正10年(1921年)頃に植栽されたと考えられ、樹木医の所見も樹齢80年以上とのこと。配水池と同じ敷地内に植栽された8株のソメイヨシノは、雄大な自然樹形が保たれており、うち1本は臥龍桜に生育するなど、いずれも全国的に貴重な存在です。
また、テングス病の感染も見られず、ソメイヨシノの寿命は50年~60年とされる中
樹齢80年を過ぎた現在も生育が良好であり学術上の価値も高いそうです。

高松市西方寺配水池のソメイヨシノ全景。

なぜ、西方寺配水地のソメイヨシノが良好に育っているのか??
ソメイヨシノに限らず、まずは、樹木が育つ環境と空間が大事である。ここは、1株、1株の間隔が14m~15mずつあき、地中の根の張り出す間隔、枝と枝の間隔も重なることなくあき、十分な空間が保たれていること。後背地の山林に降った雨が除々に染み出し桜に水分が供給されたこと。テングス病に感染がなかったこと。土壌が良好なこと。などの良好な条件があるからだそうです。

地球上の植物も人間も動物も共存という名の生きる上での“競争”をしているんですよね。

今後も樹木医さんの指導の基、適切な管理をしていくことで、樹齢100年以上の名木に育てて行きたいとの将来を見越した考えで木を守り育てていきたいと、優しい笑顔で川西さんは語ってくれました。

しかし、残念なことに今年で、一般開放が終了になるかもしれない西方寺配水池のソメイヨシノ。
もしかしたら、皆の願いが届き、来年も目の前に広がる桜と美しい緑と海の共演を楽しむことができるかもしれません。

 

香川県綾歌郡綾川町西分。県内でも珍しい1本木「枝垂れ桜」

場所は、香川県の中央部を東西に走る国道32号線の陶交差点を、まっすぐ、ひたすらまっすぐに南下すると、まるで1枚の絵のように、山の中腹に、薄紅色の姿が見えてきます。

ここは、民家の庭に育つ大木で、ソメイヨシノより少し早い時期に開花します。
例年3月中旬くらいから咲き始め、最近では新聞や民放で取り上げられるようになったせいもあり、県内・外からもこの素晴らしい絵画のような桜絵を一目観ようと多くの人が訪れます。年々人が増え、今年は近隣に駐車スペースがないので、少し離れた田んぼの横に臨駐車場が設けられたり、出店がでるなどして多くの見物客でにぎわいをみせていました。

香川県綾歌郡綾川町西分の山間にある「枝垂れ桜」です。推定樹齢30年~40年。

この日は、久しぶりの良い天気で、気持ちも爽快。それだけでも、仲間との話しも弾むところですが、そこは春の主人公、枝垂れ桜の見事な姿を目の当たりにして、圧巻で言葉を失うほどです。沢山の桜の花に囲まれたハーレム状態も、もちろんいいものですが、たった1本の姿で人々を虜にしてしまう、そのオーラは、やはり有名な枝垂れ桜。只者(只樹木)ではないのです。

この桜は、遠目に見ると白っぽいのですが、近くで見ると、紫がかった薄桃色で、花弁は小さめで優しい桜愛で包みこんでくれます。

聞く所によると、今から約40年ほど前、この土地の所有者の方が、移植してこれまで大切に育ててきて今や地域のシンボル、皆に幸福を与えるほど見事に、花を咲かせているのです。植え替えられた当時は、恐らく小さかったのでしょうが、近づいて耳を澄ませてみると、「今年も精一杯頑張ってるよ。人間も、つまんないことでくよくよせず、頑張んなよ。」と語りかけてくるみたいでした。

 

次に紹介したい桜の穴場は、知人の三好さんからのとっておきの桜です。

三好さんのとっておき
源平合戦の壇ノ浦で有名な屋島の、東側の麓にある成田山のソメイヨシノです。
この時期になると、屋島一体のヤマザクラが一斉に開花し、屋島全体が淡い桃色となり、それは幻想的になります。この近くに移り住んで、かなり経ちますが、最近やっと、その美しさが分かる歳になったようです。

少しこの寺院の紹介をさせていただくと、正式名は「成田山聖代寺(しょうだいじ)」であり、四国三十六不動尊霊場の一つだそうです。宗派は真言宗善通寺派で、厄除けに御利益のあるお不動さんが鎮座されています。
お不動さんは、私の好きな仏様(だったか?)で、厳しい顔つきではあるものの、苦しい時には力を与えてくれるオーラがあります。

さて、ここの桜の大部分は、華やかなソメイヨシノですが、珍しいのは、淡黄色のウコンザクラと淡緑色のギョイコウザクラもあるとのことです。また、近くにはモモ畑もあり、春先は、桜とモモの花のコラボも楽しめます。ソメイヨシノは、あまりに有名で、いまさら述べるまでもないので、ここでは説明を割愛することとし、残りの2種類の桜について、ひととおり説明していきましょう。

ウコンザクラは桜の栽培品種であり、花びらに葉緑素を持つとのことですが、意外と緑色が弱く、むしろ黄色の色が目立つようです。数百品種ある桜の中で、唯一黄色の花を咲かせる桜、とのことですが、私が来たときは、まだ蕾であり、残念ながらその珍しい色を堪能できませんでした。

また、ギョイコウザクラは、これまた栽培品種であり、やはり花びらに葉緑素を持っていますが、こちらは緑色が強く、開花すると淡緑色となるようです。

さらに落花時には、赤色になるとのことです。それにしても変り種です。人の手が入ったとはいえ、これほど桜のイメージとかけ離れた品種はないのでしょうか。桜といえば、やはり淡いピンク。それが一番大好きです。この成田山を訪問したときは、まだ春の暖かさが例年より弱かったせいか、八分咲きくらいで、人の姿も、そう多くありませんでした。自分の好みとしては、酔客は少ないほうがよく、じっくり鑑賞できました。

屋島と桜とモモの花。

成田山の桜は、敷地内で間近に鑑賞するのも、もちろんそれはそれで良いのだけれど、ここのベストアングルは、少し離れた場所で、淡い桃色に染まった屋島を背景にして、桜とモモの重なりを楽しむのが、私的には気に入っています。

人により桜の楽しみ方は、千差万別です。桜を肴に飲むのもよし、じっくりと鑑賞するのもよし、ゆったりとした春の雰囲気に心癒されるのも良し、多くの人々を、多くの場面で楽しませ、癒してくれます。そして、あっという間に花びらを散らせ、風に舞う花びらの姿は、まるで春の雪のようで、とても風情があります。

以上、香川県内には多くの桜の名所がありますが、今回は3ヵ所から抜粋させていただきました。ニッポンの色 桜色は失われたくない色ですね。毎年心を和ませてほしいものです。

 
最後に、日本人に生まれて良かったと、しみじみ思わせてくれる瞬間が“春の贅沢な贈り物”なのかもしれませんね。

 

ソメイヨシノ(染井吉野)

明治の初めに新品種として発見された。
和名は、東京の染井の植木屋から世の中に広まったとされている。本種は、竹中要博士がオオシマザクラとエドヒガンとの自然交配種であることを実験的に確認。日本のみならず海外まで広く栽培される落葉高木。(最新園芸大辞典より)