from 東北 – 6 - 桜、幻想、kubono、古典の美しさ。

(2009.04.24)

朝晩の冷え込みはまだ続くが、お日様が昇るとやわらかな陽光が差す。
雪国・東北にも春がやってきた。待ちに待った、春。
春の愉しみといえば、桜、花見である。

ここ自然豊富な東北には桜の名所が点在するが
一際異彩を放つのが天然記念物に指定されている、山形県長井市「伊佐沢の久保桜」だ。
樹齢1200年といわれる、一本の巨大なエドヒガンザクラ。
高さ約16メートル、根回り約10メートルは東北地方最大と称される。
薄い桃色の小さな花びらをたくさん枝につけ、方々に手をのばす。
見上げると、青空を借景に桃色の花々が鏤められ、まるで日本画を見えているかのようだ。
「愛でる」という言葉がよく似合う、慎ましやで可憐な花々。
帳が下りるとライトアップされ、雰囲気は一転し、幻想的な世界を描き出す。

派手さはないが、引きつける荘厳さがある古木。
風が吹くとしなやかにさわめく桜花。
久保桜を眺めていると日本人であることを改めて認識させられる。
和のみが持つ独特の感覚に誘われるからだ。

───日本の文化。もののあはれ。
今、日本は本当の日本を失いつつあるように思う。
それは永い歴を経て築きあげてきた、日本が本来有する文化。
風土、慣習、言葉、伝統、所作…数え上げれば切りがない。
そのひとつひとつにどこの国にも真似することの出来ない、和の世界が宿っている。
それらが海外から伝来される異国文化に押しのけられているように感じる。
文化は心の拠りどころであり、教養の源だ。
情は希薄になり、ビジネスライクな人間関係が普通になる。
隣の子どもを叱ることの出来ない社会。
お年寄りから笑いの少なくなった現代。
日本文化が姿を大きく変え始めているのだ。
───このままで良いのだろうか。

耳を傾けると老桜は言葉なき言葉で話しかけてくれる。
そう「気づき」は古きものの中に眠っているのかもしれない。
古きを温め、新しきを知る。
今こそ古典の持つ美しさを思い出す時ではないだろうか。
歴史あるものを見聞し、本当の日本を取り戻す時がきているのではないだろうか。
日本文化という花木が枯れてしまう前に。

 

【伊佐沢の久保桜】

●山形県長井市上伊佐沢字蜂屋敷
電話:0238-84-2111(長井市商工観光課)
入場料:無料
夜桜鑑賞:18:00~21:00(4月中旬~下旬)
交通:フラワー長井線「長井駅」から車で10分