from パリ(田中) – 23 - モンパルナスの墓、モンマルトルの墓。

(2009.10.05)

パリに来てすぐの頃、モンパルナスのエドガー・キネ大通りにあるカフェで待ち合わせをしたことがあった。約束した時間より早く着いたので、暇つぶしに付近を散歩することにした。まだパリの携帯地図も持たず、行き当たりばったり、勘を頼りにして。通りに面した塀の向こう側はどう見ても墓地の雰囲気、これが有名なモンパルナスの墓なのか? 並木道を塀に沿ってしばらく歩くと、墓地の入り口があった。中に入り、広い道を真っすぐ進むと、中央にある円形の花壇にはスミレやチューリップなど春の花が咲き乱れ、天使の像が軽やかに舞い降りている。満開のハナズオウの並木道はピンクの絨毯のよう。墓探検をしたかったが、残念なことに待ち合わせの時間もあるし、カフェへ戻る。来た時には気がつかなかったが、入り口のすぐ脇にサルトルとボーヴォワールの墓を発見した。死んでからも二人一緒って、いいなあ。

墓碑に一言書きたくなるところを、名前と生没年のみ記したところが潔くて、しかも深い。デザインもシンプルだ。遺言でもあったのだろうか?モンパルナス墓地の入り口には著名人の墓の地図があった。ボードレールや、ゲンズブールもここに眠っているらしい。

また別の日に、日本から来た友人の希望でモンマルトルを散歩した。お決まりのサクレ・クールの丘を回った後、墓地へ行きたいと言うので、地図を見ながら坂道を下りる。サン・ヴァンサン墓地は、有名なぶどう畑のはす向かいにあるのだが、周囲を高い塀が囲み、入り口がなかなか見つからない。危うく他所の家に入りそうになりながら、一周まわってようやく発見。暇そうな墓守に挨拶して、中に入る。丘の斜面に連なる墓地は、周囲がなんとか見渡せるほどで、あまり広くはない。墓参り(散歩)しているのは、もちろん私たちだけ。

モンマルトルは坂の町。何カ所か階段の道がある。不便なせいで下町情緒が残っているという噂もあるが、散歩に来るくらいだったらまだしも、ここで暮らすとなると大変だろうな。住めば都とはいえ、階段はきついぞ。
サン・ヴァンサン墓地の向かいの、有名なシャンソン酒場『オ・ラパン・アジル』。外から見ると、ピンクの壁と緑の窓がとってもいい感じ。しかし超有名観光地ということもあり、酒もカラオケもダメな私としては、どうしても入る気がしないのだが、食わず嫌いはよくないことなのかなあ。

長崎で育った私は、犬を連れてお寺の境内や墓をよく散歩したものだ。寺町通りの裏手の斜面には段々畑のように沢山の墓が連なり、坂を少し登ると港の船を望むことも出来た。(今年の春に帰った時、港は高層マンションに隠れて見えなくなっていた)モンマルトルの丘にあるサン・ヴァンサン墓地の階段を上りながら、犬と散歩した長崎の墓のことを思い出した。ここの回りには、屋根に可愛い煙突をいっぱい付けた古いアパルトマンが林立し、海こそ見えないが広い空が頭上いっぱいに広がっている。お墓に入るんだったら、開放的なところがいいなあ、なんて、ジジイ臭いか。

しばらく、この墓に見入ってしまいました。貝殻がなければシンプルな直方体のモダンなモニュメント。その上に誰が置いたのか、小石と貝殻の、何気ない絶妙なレイアウト。花とか生易しいものではなく、無機的な鉱物を飾るなんて、憎いなあ。海が好きなひとだったのか、墓参りに来た人との間に海の記憶があるのか。思わず、私の耳は貝の殻、海の響きをなつかしむ、というコクトーの有名な詩を思い出してしまった。
うーん、誰の墓だか見なかったけど、絡み合う肉体に釘付けとなりました。スゴーい。墓の主はトルソーのモデル? 男性? 女性? 美しい肉体は永遠だ? 死んでも墓の中まで一緒にいたい?それともトルソーの彫刻家の墓?なんか妄想が膨らんで……。しかし落ち着いて見ると、ハーブ系の花壇には花が絶えず、なかなかお洒落な設計ですよ。
墓というよりは、彫刻作品です。左遠方にサクレ・クールの白い尖塔がちょっと見える。雨上がりの夕方、もう一雨来そうな怪しい天気だった。
新しい墓もあれば、古いスタイルの墓もある。なんとなく北青山あたりの墓地のイメージですね。命日に墓参りする習慣とかフランスにもあるのかな?
墓石の上に、焼き物の造花を置くスタイルが一般的。十字架にスミレやバラの花がアレンジされていて、色褪せることがない。プラスチックの香港フラワーよりはずっとましだし、生花が枯れたり、墓参りに来られないことを考えるとなかなか合理的。この花は中でもシックでゴージャス。

地図を見ると、こじんまりしたサン・ヴァンサンより、もっと広いモンマルトル墓地がすぐ近くにある。ガイドブックに依ると、ここにはトリュフォーやニジンスキー、ドガなどの墓があるらしい。墓地好きとしては、ここにも行かなくては。いや、20区のペール・ラシェーズもなかなかの墓地だと別の友人が言ってたし、墓巡りも大変だ。