from 北海道(道央) 番外編 《2013夏イタリア》vol.1 レモンの香り漂う
アマルフィ海岸。

(2013.07.24)

「アマルフィ海法」成立の街。

アマルフィと言えば、ユネスコの世界文化遺産にも登録された素晴らしい海岸線を思い描く方が大多数であろう。また、直近では、日本の映画でも取り上げられたことから、一躍日本人観光客が増加した地域でもある。ナポリ中央駅から最速30分の電車でサレルノまで向かい、バスを利用して海岸線をゆったりと歩くことをお奨めしたい。

自分がここアマルフィの存在を初めて知ったのは、建築学者である陣内秀信先生の数々の著書による。11世紀に建造が始まったアラブ・シチリア様式のドゥオーモは、この街の歴史を物語っているかのような存在だ。

839年にナポリ公国から独立した「アマルフィ公国」は、イスラム勢力との抗争を繰り返す中、勢力を拡大し、特に航海に関する「アマルフィ海法」をこの地で成立させたことは、その後の国際海洋法の確立においても重要な役割を果たすことになった。


アラブ・シチリア様式の「ドゥオーモ」が街の入口に配置されたアマルフィ。


アマルフィ海岸では、切り立った崖の上に、よくぞ作ったというお城や家などを多く見ることができる。

磁気コンパスの発祥とフラヴィオ・ジョイア。

ところで、古代中国の四大発明は、「羅針盤、火薬、紙、印刷」と言われている。

古代中国で発明されたと言われる羅針盤は、主に占いにおいて使われていたのではないかと言われているが、この中国で発明された羅針盤を航海技術に応用するため「磁気コンパス」を発明したのは誰なのか、皆さんは承知しているだろうか。

フラヴィオ・ジョイア(Flavio Gioia)。実在の人物だったのかどうかについては、『羅針盤の謎~世界を変えた偉大な発明とその壮大な歴史』(角川書店発売)において、著名な数学者でもあるアミール・D・アクゼル氏が推論を語られている。

アマルフィに存在したと言われるジョイア。磁気コンパスがその後ヨーロッパにおける航海技術の格段の進歩、そして船舶の大型化による植民地支配への時代の幕開けには欠かせなかった技術であることは間違いなく、アマルフィの人々にとっては、フラヴィオ・ジョイアこそがその発明者であると信じて疑ってはいないのだ。
 


磁気コンパス「羅針盤」の産みの親、フラヴィオ・ジョイアの像。
日常と非日常との境界の中で。

また、紙に関しても、紙漉きに必要な清流がアマルフィには存在したことから、イタリア半島で最初に製紙法が伝わった場所でもあり、現在も「アマルフィ紙の博物館(Museo della Carta Amalfitan)」が存在し、当時の紙製造技術の説明を英語又はイタリア語で聞くことができる。

とかくアマルフィ海岸の絶景にばかり目が行きがちだが、このアマルフィという街には、このように今日の我々の生活を支えている貴重な技術や知識の礎が痕跡として残されている。その一方で、アマルフィの街中を歩いていると、当時と今も変わらないであろう素朴な生活が営まれ、子供たちの屈託のない笑顔が印象に残り、この街の現実と触れ合うことにより、日常と非日常との境界が次第に薄れていく。


ドゥオーモを正面に左へ左へと歩いて約20分。「アマルフィ紙の博物館」に辿り着く。
アマルフィ海岸にはレモンの香りが溢れている。

アマルフィ海岸(Costiera amalfitana)には、ラヴェッロ、アマルフィ、ポジターノという街が点在しているが、この時期、バカンスでヨーロッパ各地からこの海岸に人々が押し寄せている。

フローレの入江には、エメラルドの洞窟があり、カプリ島の青の洞窟と並び称される美しい色彩を放ち、我々を確実に非日常へと誘ってくれる。

広がる海岸沿いには、レモン(イタリアの発音ではリモーネ)畑が棚状に広がり、年3回程度の収穫が行われ、レモンケーキやリモンチェッロの材料としても現地で消費されている。そのレモンのサイズの大きいこと!

魚介のパスタが新鮮で美味しいことはもちろんだが、ラム酒のシロップに浸された「ババ」も、デザートとしては最高に美味しい。

イタリアにおける海洋都市の歴史を学ぶためには、さながら一か月程度は、この土地に腰を落ち着けたい。そう思わせてくれるに十分なアマルフィ海岸である。


左:エメラルドの海が印象的なポジターノの街。
右:棚上に綺麗に整備されたレモン畑。

左:フローレの入江にある「エメラルドの洞窟」。
右:お婆ちゃんと遊んでいた女の子。「写真撮ってもいい?」と聞くと、はにかんだ笑顔がまた可愛い。

左:イタリアの海岸沿いの街では、新鮮な魚介類が豊富。地元で作られたオリーブオイルを利用したパスタは、深く印象に残る。
右:「ババ」。ラム酒に浸してあるところが、酒飲みにはまた格別。

左:デザートには、もちろんレモンケーキ。
右:フローレの入江でいただいたレモンのジェラート。真夏の太陽が降り注ぐ地中海では、宝物のような一品に感じる。