暑く長い夏が終わった。９月になって鎌倉材木座海岸に並んだ海の家の解体作業が始まると、例年のことながらそれはそれで寂しい気分になるものだ。季節が目に見える形で変わり、普段の静かな海が戻る。朝夕、砂浜へ犬の散歩に繰り出す地元の人も気兼ねなく歩けるようになったし、波打ち際で尻尾を振って元気に駆け回る犬の姿を見るのは気分がいい。そんな、夏休みも終わり新学期が始まった気分の９月、東京の友人が大挙して逗子の我が家へ遊びにやって来た。アラカン男女合わせて総勢６人、彼らの目的はもう海水浴でもサーフィンでもなく、小坪漁港の定食屋の安くて美味しい魚ランチと、魚市場で新鮮な魚介を買い求め、私の家で料理して食べること、昼も夜も魚三昧で食べ尽くすこと、なのでした。

いちばん小坪漁港に近い定食屋へ昼前に全員で押し掛け、サバ寿司や刺身定食などいただく。この時期は肉厚のアジフライとか、なめろうも旨いのだが、夜の宴会も控えているし、ここは腹八分で余裕をみながら。私が好きな小坪の定食屋は漁港のまわりに４軒ほどあり、人気のしらす料理や海鮮丼はどこで食べても美味しい。刺身は新鮮だし、安くて旨くて分厚い。今回行った『丸正魚店』には大勢で座れる座敷があるし、若者に人気の『ゆうき食堂』はなかでも威勢と盛りが良い。逗子駅前に魚屋もあり、南蛮漬けなどテイクアウトも出来る『魚佐治』、丼ものと定食が人気の『めしやっちゃん』、休日にはどの店も行列ができるほどの人気だ。地元の私はその日の気分でこの４軒の中から贅沢に選んでいる。ランチで腹ごしらえをしたら、すぐ隣りにある魚市場へ直行。漁港の前のこじんまりした市場だが、台の上には近海ものの生きのいい魚が並ぶ。タコやアワビは動いているし、今では貴重な昔の魚屋の風情がそのまま残っていて、見ているだけでも楽しくなる。

この日、市場で買った魚は、丸々太ったマイワシ４尾、大きめのアジ４尾、カマス２尾、50~60センチはあるスズキ半身を刺身用におろしてもらい、アラも入れてもらう。そしてホタテ７枚。タコの刺身が食べたい、アワビも買おうよと叫ぶ男子がいたが料理長が却下。そんなにたくさん食べられないよ。家に持ち帰ったらすぐに解体作業。イワシ、アジは三枚におろして軽く酢でしめ冷蔵庫へ。カマスはウロコを落とし腸を抜く。フライパンにオリーブ油とハーブで焼いて食べるか。ホタテは刺身もいいが、あつあつのバター焼きだな。

さて、秋の夕暮れお腹もすいて、約２名の女子が料理の支度にかかる。家主の私はキッチンで料理長、兼下働き。夏のスズキは脂が乗って旨いので、カルパッチョにでもと思ったが、やっぱり手っ取り早く醤油にしよう。イワシの刺身は脂の乗りが最高、口の中でとろけるに違いない。アジも下ろし生姜を効かせれば負ないはず。大根がなくて刺身のツマに困ったが、オニオンスライスで代用する。その間、私はクレソンとマッシュルームのサラダ、拍子木に切って塩揉みしたキュウリを千切りショウガと胡麻油で和えたもの、女子が持参したシシトウとちりめんじゃこを甘辛く醤油で煮たの、などを用意する。野菜もしっかり食べないとね。そうそう、赤ワインも忘れずに。スズキの刺身はあっという間になくなった。アラ（頭と鎌）は潮にして、ちょっと醤油を足すと美味しいスープに。頭の骨の身をちゅうちゅう吸って、最高！レアっぽく焼いたホタテはバターとレモンでちゅるりと一口。カマスはみんなに箸でつつかれ、細い骨だけになるし。７人でテーブルを囲み、いい大人が競争状態で食べたので、写真を撮る余裕がなかった。残念と言おうか、見苦しいと言おうか、反省。