池田美樹, 池田美樹のLOVE♥ CITY WALK昔の人の知恵に習って、
日本的涼を求める週末。

(2008.07.22)
 暑い日が続き、冷房嫌いの私も仕方なくエアコンを効かせる日々。地球温暖化防止のためにエネルギーも節約したいし、体が冷えるのは美容や健康にもよくないし、ということで、ここはひとつ、日本の昔ながらのやりかたに従ってみようと、週末、涼を求めるツアーを敢行することにした。

 まずは東京・入谷の朝顔市に出かけてみる。
 入谷の朝顔が有名になったのは江戸末期の文化・文政の頃。最初は御徒町の下級武士の間で栽培されていたものが、入谷にあった十数件の植木屋が作るようになり、その出来が素晴らしかったためだという。
 しかし、すべての植木屋の廃業に伴い、一度姿を消したものが、戦後の昭和23年、世の中を明るくしようと地元有志の手で復活。現在に見る朝顔市になったのだとか。
 入谷といえば「恐れ入谷の鬼子母神」の文句で知られる入谷鬼子母神のあるところ。この境内前の通りにずらりと朝顔市が立ち並んでいるというわけ。

 朝顔の品種について詳しくは知らないけれど、歩いていると、どうやら「4色咲き」というのがこの市ではスタンダードなよう。どこで買おうか品定めをしていると、「5色咲きはここだけ!」という手書きの看板に出くわした。
 売り子のお兄さんの威勢もいいし、たくさんの人だかりで次々に売れているので、これを買うことにした。一鉢2000円なり。

入谷・朝顔市の元気な朝顔売り娘たち。

 

 水やりは葉がしぼんでいる日中。週に一回は米のとぎ汁を与えるように。9月中旬までは、しぼんだ花と大きくなった葉は容赦なく取り除くこと。その後の種を来年のために取っておくこと、とアドバイスを受けた。翌朝から我が家のベランダで咲くであろう花を楽しみに、大切に抱えて帰った。

 そして次の日は、神奈川・川崎大師の風鈴市である。全国47都道府県の風鈴が820種類、2万8000個も揃う夏の風物詩だ。さぞかし歴史も古いのだろう、と思ったら、今年でまだ13回目と、まだ新しい行事なのだった。

 境内に足を踏み入れると、涼しげな音、音、音。今年の最高気温を記録するほど暑い日だったが、一陣の風が吹き抜けるたびに鳴り響く風鈴の音は、そんなことを一瞬にして忘れさせてくれるほどだった。

 さまざまな風鈴のうち、この日私が買い求めたのはガラスの江戸風鈴と鉄の南部風鈴。音も見た目の雰囲気も少し違うけれど、どちらも素晴らしい歴史のあるものだ。特に、岩手県奥州市のJR水沢駅に毎年6月から8月まで飾られる多くの南部風鈴は、「日本の音風景100選」にも選ばれているほどだ。
 ちなみに、江戸風鈴は1470円、南部風鈴はもっともシンプルなもので420円だった。家に帰って、さっそく、軒先に並べて釣り下げてみた。

川崎大師・風鈴市の江戸風鈴売り場。下の部分(鳴り口)がギザギザなのは、滑らかにしてしまうと滑って音がしないからだとか。江戸風鈴の作り手は現在3名しかいないのだそう。

 

 朝顔の花が咲いたって、風鈴が鳴ったって、本当に涼しくなるわけではないし気温が下がるわけでもない。しかし、暑さの中にもこうやって心理的な涼を求めることで、エアコンのない長い時代を昔の人々は生きてきたのだ。空調の効いた室内に閉じこもることで、すっかり忘れてしまったことだって多そうだ。

 そう、私達にはかき氷だって打ち水だって花ござだってある。籠枕で昼寝をしてもいいし、氷水を飲みながら夕涼みをしたっていい。浴衣で花火を見に行くこともできる。こうやって、気持ちの上で涼しく過ごす方法を思い出していると、なんだか、忘れていた夏休みのようでワクワクしてくる。

 翌朝、朝顔はきれいに咲き、開け放した窓を風が通り抜けると風鈴がちりんちりんと音を立てる。私は団扇で自分をあおぎながら大の字になって昼寝をした。果てしなく長い時間に感じた、小学生の時の夏休みを久しぶりに思い出した。

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私が5色咲きを買った店。

翌朝我が家のベランダで咲いていた花。これが「團十郎」という名の茶色の花らしい。

津軽びいどろ風鈴。

鹿児島の卍風鈴。竹で編んだ部分が上から見ると卍の形をしているところからついた名。

川崎大師オリジナルの厄除だるま風鈴。

奈良風鈴。

特別出店されていた金の風鈴100万円なり。

圧倒的な数のお客さんを集めていた南部風鈴。

沖縄びいどろ風鈴。コーラの瓶を溶かしたりして作り始めたのが始まりだそう。

(2008年7月22日 anan編集部 池田美樹)