from パリ(田中) – 30 - サンジェルマン・デ・プレ裏のジャコブ通り。

(2009.11.23)

パリは狭い。パリ市内20区が東京の山手線の内側くらいだ、ということを何かで読んだ記憶があるが、最近そうだなと実感する。メトロは東京以上の密度で縦横に走っているが、乗り換えとかあると、歩いた方が早いなんてことがしょっちゅうだし、(おかげでパリではよく歩くから運動不足も解消されるかも)私の生活圏である6区の中だったら、ほとんど徒歩圏内だ。

サンジェルマン・デ・プレ教会の、大通り側の壁を見事に覆い尽くしたツタは、毎日刻々と変化している。晴れた日の方が紅葉もきれいだが、11月になって安定した青空はなかなか望めない。

久しぶりにサンジェルマン・デ・プレ教会方面を買い物がてら散歩した。教会の壁を覆うツタがきれいに紅葉している。屋根に近い上の方はすでに落葉している様子で、上から下へグラデーションで紅葉が進んでいるのが時間のスケールみたいで面白い。下の方の、まだ緑が少し残っているような葉っぱも落ちる頃には、寒さも相当厳しくなっているのだろうな、冬はいやだなあ。サンジェルマン大通りの歩道にも、プラタナスの葉っぱがあちこち山盛りに吹き溜まっていて、パリパリと葉っぱを踏んで(蹴散らして)歩くのが楽しい。

ここからジャコブ通り。壁のいちばん上、インベーダーのモザイクが愉快。いろんなパターンがありサイズや色も様々で、パリのあちこちに出没している。原宿あたりまで出張しているらしいが、私は東京ではまだ遭ったことがない。右はセーヌ通りで、真っすぐ行くとすぐセーヌ河。じゃ、インベーダーとピコピコ散歩するか。
表通りから奥がちらっと見えると、つい中に入ってみたくなる。路地にはガクアジサイの花がまだ付いてるし、奥に椿の鉢がいくつか、足元には白いインパチェンスとシクラメンの鉢も見える。なにげに入って行ったら、向こうからマダムが来たので慌てずボンジュール、彼女、タバコ吸いに出て来た様子。入ってはみたものの、なんだか女子専門の店みたいな看板で、困った。

教会の裏(セーヌ側)に、ジャコブ通りRue Jacobという500メートルにも満たない、一見して地味な通りがある。一方通行で、片側にはいつも駐車する車の列があり、石畳の狭い歩道はあるが決して歩きやすいわけでもなく、それもあってか人通りも多くはない。だがこの通りには、画廊や本屋、骨董屋、プチホテル、ブティック、カフェなどがポツポツとあって、ウィンドウを覗きながら散歩するとあっという間に暇を潰せること請け合い。

ガイドブックに出ているような有名店もあるが、私の趣味嗜好で面白いと思った店のみをチェックしてみた。ほとんど(私が)知らない店なので、いちおうわかる範囲でインターネットで調べたが、お薦めの店というか暇つぶしの店でもあるので、念のため。
 

これを見た時、一瞬ギャラリーの作品かと思った。動物の脊椎や肋骨、指や手や足の骨を組み替えてオブジェにしました、みたいな。でもシュールというか、やっぱ悪趣味だなあ、意図は理解できるが、ブラジルの奥地でもないんだし。そういえば先日レヴィ・ストロースが死んだので、彼の追悼作品?かも。タイトルは“悲しき熱帯”なんて、イメージは瞑想ではなく迷走するばかり。
別のウィンドウを見て、バッグ屋だとわかる。青い壁面にJEROME DREYFUSSとYを強調したロゴがある。ジェローム・ドレイフュス? 私には関係ないブランドかな? アクセサリって書いてあったけど。中を覗くと、まあ普通のデザイン?の鞄もあって、少し安心?したけど。勉強になりました。でもなあ、このバッグ、誰が何処で使うのか? ハロウィンは終わったし。
パリのこじんまりしたホテルは、東京のように建物からしてホテルです、ってファサードがないので、慣れないと探すのが大変だ。おまけにこのホテル、表通りの門を入った中庭に面している。パリでよく見かける建築の構造で、中庭には緑があってバラも咲いてたりして、なかなか素敵だ。緑のテントには、オテル・デ・マロニエとある。三ツ星の可愛いホテルだ。
ジアンというフランスの柿右衛門とでもいうのかな、何やら伝統的な陶磁器メーカーのショールーム。ヨーロッパ趣味の古典的絵柄があるかと思うと、シノワやジャポニズムなどエスニックなものもあったりして、歴史が長いせいかコンセプトもいろいろ。好きな皿も2、3枚あったかな、でもやっぱり柿右衛門の方がいいな、私は。
ここのウィンドウは珍しくクリスマスのディスプレイ。花柄も素朴で可愛いのだが、例えばワンポイントにして白地を生かす、みたいなのがフランスは苦手なのか、これでもかと言うくらいの満艦飾になるパターンが多いので、私的にはちょっとなあ。食器というより、絵皿なのかな。
マカロンで有名なラデュレのある四つ角が、ジャコブ通りの真ん中あたり。この写真は直交するボナパルト通りから撮影したもので、右へ行くとメトロのサンジェルマン・デ・プレ。左がセーヌ。
私、マカロンは大好きです。パリで友人からみやげに頂いた、5月のスズランは驚きでした。でも味以上に、香りに凝り過ぎている印象だったなあ。このウィンドウはまるで化粧品の店みたいだし、ファンシーな色使いはちょっと引いちゃいます。2階にサロンがあるらしいけど、なんだかメイド喫茶にでも入る気分で、オジサンなかなか踏み込めません。
ボナパルト通りの交差点を渡ってすぐ、パティスリがある。私にはこういう店の方が落ち着く。最近あまり見かけなくなったタルト・タタンもあったし。パンを買う列に並んでいると、ついケーキも買っちゃう。いや、その逆で、パティスリはそもそもケーキ屋か、まどっちでもいいけど。アンズはアブリコ、リンゴはポム、サクランボはスリーズ、フルーツ(ミックス)はフリュイ、待ってる間もフランス語の勉強。 
棚から取り出したバゲットを紙でくるみ、長いパンをプロペラみたいに手ぎわよく回して、メルシと言って渡してくれた。受け取ってよく見たら、結び目が小さなバラみたいだ。家に帰ったら捨てる紙だけど、手品みたいな粋な遊び心に感心した。もう一度0.95€の手品を見たいと思った。いつも買うパンよりちょっとだけ美味しかった。
ここを通った時、もちろんマネキンだとは思ったが、もしかして生き身の人間じゃないか、なんて思うくらいエロチックな光景だった。看板を見ると、AUTOGRAPHESオートグラフ(自筆サイン)とあった。文字通り、サイン入りの著書や写真の店、ということか。Kafkaカフカ Man Rayマン・レイまではわかったが、あとは読み取れない。
ここは、古物商とも画廊ともつかない、オブジェ屋みたいな。どうやって店内に運んだんだか、見上げるほどの直立したシロクマが圧倒的で、他の商品はみんな霞んで見えて覚えていない。この店は、ジャコブ通りに続くウニヴェルシテ通りだったかな。ジャコブ通りは、パリ第5大学と郵便局がある交差点まで。
そのウニヴェルシテ通りのセーヌ側に、オルセー美術館があって、2階の回廊には私が好きなシロクマがいて、似たような背格好で、あいつとコイツなんか関係あるのかないのか、無いに決まってるけど、パリ7区にシロクマ2頭現る!という、私にとってちょっとしたニュースなのであった。