from 北海道(道央) 番外編 《2013夏イタリア》vol.7 お伽の世界の街。
アルベロベッロ。

(2013.09.04)

ポポロ広場から眺めた「リオーネ・モンティ地区」の全景。

美しい樹。白く輝く街並み。

アルベロベッロ(Alberobello=美しい樹)は、今回の旅行で訪ねた最南の街である。暑さが厳しいと覚悟していたが、ローマの石畳による照り返しの厳しさと比べ、体感気温は高くなく、過ごしやすい環境であった。

独特の形状をした建物である「トルッロ(トゥルッリは複数形)」は、有史以前からの建築技法を受け継いだという説、15世紀頃に発展した技法という説もあるが、定かなことは分からない。単純に石を何層にも積み上げた構造、かつ、白く塗られた壁は太陽光線を反射。家の中にお邪魔させていただいたが、外気温に比べて涼しく感じられた。

イタリアでは最近、不動産税の廃止が閣議決定された。15世紀にこの地がナポリに支配されていたとき、重税に喘ぐ農民たちの税金逃れの方法として、すぐに屋根を取り外して「これは家ではない」と主張するためこのような形状になったとの話も伝わっている。

1930年代のイタリア。「政府は少し前、全市町村に例外なく平等に適用される法令をつくって、山羊一頭ごとにほぼその値段に相当する税を課すことを決定」したので、山羊税を支払えないイタリアの貧しい南の地域では山羊を殺さざるを得なかったという文章(『カルロ・レーヴィ「キリストはエボリで止まってしまった」を読む』上村忠男・平凡社ライブラリー)を読み、消費税の在り方が議論されている昨今だが、いつの時代・地域にあっても「課税」は難しい問題だと思う。

商店やバールなどとしても使われている「トゥルッリ」。
商店やバールなどとしても使われている「トゥルッリ」。
アンナ・マリア・マタレーゼ家の屋上からの眺め。
アンナ・マリア・マタレーゼ家の屋上からの眺め。
岐阜県白川村と「姉妹友好連携を」結ぶ。

岐阜県白川村の「白川郷」を初めて訪ねたのは、今から10年以上も前になろうか。白川郷が、ユネスコの「世界文化遺産」に登録されたのは1995年。その翌年の1996年に、アルベロベッロのトゥルッリ(The Trulli of Alberobello)も世界文化遺産に登録された。

同じように建物の形状が文化的・歴史的価値のある建築様式であることを認められた縁もあり、2005年、日本とイタリアのこの2つの村と市は「姉妹友好連携」を締結している。

アルベロベッロのリオーネ・モンティ地区は、土産物やバールなどの商店街になっていて、この地区を歩いているだけでも楽しい。街中に飾られている花々も多い。

白川郷との姉妹都市の縁で、日本に過去5回も足を運ばれたという有名な女性がいる。アンナ・マリア・マタレーゼさん。とても陽気かつ親切で、屋根の上に登らせてくれたり、ご自宅の内部にも案内いただき、さらには翌朝のコーヒーにまでお声掛けをいただいた。

時間もないので、さすがにコーヒーはお断りしたのだが、ご自宅にあった果物を袋に詰めてくださり、「アルベロベッロの果物を、道中堪能してください」と。

アンナさんは、アルベロベッロの伝統織物の職人さんだが、アンナさんの他にも多くの伝統織物に携わっている方々がこの街には暮らしている。アンナさんとは正反対であり、ポツリポツリと言葉を吟味しながら、はにかむように話をしてくださる地元の女性にも、地域の実情などをお聞きしたり。もちろん、自分用のポシェットも購入してみた。

小高い丘に上がると壺が並ぶ隣家の生活ぶりが垣間見える。アンナさん手作りのティッシュケース用のトゥルッリがデザインされた織物。
左:小高い丘に上がると壺が並ぶ隣家の生活ぶりが垣間見える。
右:アンナさん手作りのティッシュケース用のトゥルッリがデザインされた織物。
トルッロの中で機織りを実演してくださった女性。女性が機織りして仕上げてくれたポシェット。
左:トルッロの中で機織りを実演してくださった女性。
右:女性が機織りして仕上げてくれたポシェット。
上機嫌かつ友好的な皆さんと対話する。

街中のバールでリモンチェッロを注文し、椅子に腰かけると、今回の旅行の中でもなぜだか最も癒されたような雰囲気を味わうことになった。そのバールの玄関では、小学校から高校まで自分と同級生だった友人と、顔がそっくりのイタリア人男性と出くわした。そのことを説明したところ、上機嫌で「一緒に写真を撮影しよう」と自ら進んで言ってくれる。

不思議なのだが、この街の人たちは、とても日本人に対して好意的に接してくださる。

夜、ライトアップされた「サンティ・メディチ・コズマ・エ・ダミアーノの聖所記念堂」界隈を撮影に出かけると、「日本人かい?」と初老の男性にすれ違いざまに声をかけられた。見ず知らずのイタリア人に声をかけられて、少々とまどっていた。

すると、「安心しなさい。わたしはこの街で、子供の頃から写真家として働いている」と、約30分程度かけて、記念堂界隈の撮影のスポットを案内してくださった。

また、その日はちょうど三日月だったのだが、「三日月のときには、教会の前でコインを月に掲げると、幸運が訪れるからやってみるように」と、ホテルの方が外出間際の自分に対して、そっと耳打ちしてくれたり。

アルベロベッロで見つけた自分の友人似のイタリア人男性と記念撮影。アルベロベッロの街の中小路。
左:アルベロベッロで見つけた自分の友人似のイタリア人男性と記念撮影。
右:アルベロベッロの街の中小路。
ポポロ広場にあった像。トルッロでない家がむしろ珍しく感じられる。サンティ・メディチ・コズマ・エ・ダミアーノの聖所記念堂。
左:ポポロ広場にあった像。トルッロでない家がむしろ珍しく感じられる。
右:サンティ・メディチ・コズマ・エ・ダミアーノの聖所記念堂。
プロカメラマンという地元の男性が夜景撮影スポットを案内してくださった。
プロカメラマンという地元の男性が夜景撮影スポットを案内してくださった。
ホテルの窓からは三日月と聖所記念堂のライトアップが見えた。
ホテルの窓からは三日月と聖所記念堂のライトアップが見えた。
時間も止まり、ルネサンスとは無縁のような街。

そういえば、イタリアのとある街のホテルでのチェックアウト時の話。室内にあった冷蔵庫からビールを一缶飲んだので、支払をしたいと伝えたところ、「必要ない」と。なぜなのか理由を聞いてみると、「ある国の人たちは、何も言わずに冷蔵庫の中身をすべて持ち帰るから、あなたたち日本人は、誠実で素晴らしい」と、お世辞も半分以上だとしても、そういう言葉を聞くことができることは嬉しいものだ。

わたしが足を運ぶ前にイタリア各地を訪ね歩いた日本人たちが、総じて行儀がよいということを物語る話なのだろうと、日本人としての誇りを感じた。

イタリア南部地方の料理は、正直に言ってとても美味しい。貧しい地域だったとは聞いていたが、食材も豊富だし、何より味付けが素晴らしい。

アルベロベッロのあるプーリア州のワインは、元々個人的には大好きだったのだが、本場でいただく白ワインの美味しさは、地元の料理にも合うし、実に美味しいものだということを再認識させられた。

様々な文様やギリシア語で「神」を表す文字が書かれているトゥルッリの円錐形の屋根をしばし眺めていると、あたかも時間が止まってしまっているかのような、とても不思議な印象を受ける。まるで、ルネサンスや政治の世界などとは無縁のお伽の世界。

また今度、本当にゆっくりと、時間をかけて滞在してみたい街の一つ。それがアルベロベッロであった。

鶏肉の煮込み。付け合せのジャガイモも含めて味付けが抜群にいい。プーリアの白ワイン。それほど重たくなく鶏肉料理との相性もよい。
左:鶏肉の煮込み。付け合せのジャガイモも含めて味付けが抜群にいい。
右:プーリアの白ワイン。それほど重たくなく鶏肉料理との相性もよい。
トゥルッリの屋根の描かれた文様が、想像力を働かせてくれる。街で出会った猫ちゃん。エジプト系の猫のように品があった。
左:トゥルッリの屋根の描かれた文様が、想像力を働かせてくれる。
右:街で出会った猫ちゃん。エジプト系の猫のように品があった。