from パリ(石黒) – 20 - パリ・アート散歩(12) リールの骨董市。

(2010.10.04)
9月最初の週末は、何でもありの大骨董市がリールで開催。

夏休みが終わり、新学期を迎える9月。のんびりゆったりバカンスモードから一転、時間に追われる日常生活が戻ってきます。そんな後ろ髪ひかれ気分の9月最初の週末、フランス北部の街リールでは、骨董業界の一大イベント「la Braderie de Lille(ブラドリー・ド・リール)」が行われます。

その昔、炭鉱と繊維業で栄えた街リール。町並みにも、古き時代に華やかな文化が発展していた様子を伺わせます。現在は、パリからはTGVで1時間、自動車で2時間程度と、イギリスやベルギーへの玄関口として必ず通る交通の重要な拠点。また、スーパーマーケットのAuchanや通信販売大手La Redouteといったフランス全土にチェーン展開する大型小売業の多くが、リールと同じ地域圏を発祥の地としていることもあり、炭鉱業、繊維業凋落後も、セクターを変え、相変わらず経済的に重要なポジションを占めています。いまや日本でもお馴染みのパン屋『Paul(ポール)』の本店も、リールにあり。そして、優秀なビジネススクールや大学も数多く、学生の町としても知られています。

そんなリール市内で行われる骨董市は、例年200万人が訪れ、ヨーロッパの蚤の市の中でも最大規模。フランスのみならず、ベルギーやドイツ、オランダ、リュクサンブール、イギリスから、ツアーバスを仕立てて骨董愛好家がやってきます。フランス語以外で街中でよく耳にしたのは、英語、ついでドイツ語。

骨董市の公式開始時刻は、土曜日の午後2時と決まっていますが、金曜日から既に、いち早く掘り出し物を見つけるべく、愛好家たちは行動を開始。この週末は、朝晩が冷え込むものの、日中は降り注ぐ陽射しに25℃を越え、最高の骨董市日和。ジーパン、コットン素材のTシャツ、スニーカー、そしてリュックサックには、軽く羽織る用のブルゾンとペットボトル。骨董市歩きに万全の体制で、いざ市内へと出陣。

100キロ近くに渡り1万を越えるスタンドが出展。全部を見て周りたいものの、さすがに全部は見きれない。とはいえ、ご安心を。市内のそれぞれの界隈によって、ある程度の仕分けがなされています。ポスターや古本、銀製品など専門の骨董商がスタンドを出している場所、屋根裏で長年埃を被っていたようなガラクタがメインの通り、マルシェでもお馴染みの安売り日用品業者が並ぶ地区…。La Voix du Nordという地方日刊紙や、Direct Lilleというリールの無料紙の号外などに、詳細な地図が掲載されているので、それをたよりに、目当ての地域を攻略していきます。
 

蚤の市歩きに、極めて模範的な出立ちのムッシュー。それにしても、この週末は雨が降らずに、快適な蚤の市巡りを楽しめ、ラッキーでした。
パリでも地下鉄やスーパーで無料配布されるお馴染みのフリーペーパーDirectのリール判。ポテトフライが買える場所、公衆トイレ、休憩所、赤ちゃんのオムツ替え場所、カップル向けのロマンティックな通りなどなど、詳細な地図と情報が◎。
市内にある銀行ATMはどこも長蛇の列。各銀行ともあらかじめ、この週末に備えて通常以上の紙幣をATMに用意してあるのでしょうが、万が一ATMが空っぽでお金が引き出せないなんてことにならないためにも、事前に小額紙幣、貨幣の用意がおススメ。
その昔、取引所があったここは、普段でも古本屋が店を出していることが多い。本の他に、1964年オリンピックの様子を伝える当時の日刊紙などもあり、よくもまぁ大事に保管してあるなぁと感心する。

エスプラナード(Esplanade)と呼ばれる地域は、Fonds de greniers(屋根裏の残りもの)メインで、骨董商ではなく一般の人が出すスタンド。狭くて人の量が凄いのでゆっくり見てまわるのが困難な場所もあるが、木陰の下に広げられたガラクタを見ていると、のんびりとした気持ちになる。それにしても、足の踏み場もないほどオブジェで敷き詰められた様は、神業!

 

最近特にアールデコ、インダストリアルデザインのオブジェに心を引かれ、今回の私の戦利品は、1960年代の広告ミニポスター2枚、銀のゴブレ、アールデコスタイルのガラスランプ(傘なし)、アールデコのプレート、そしてキッチンに置くボックス3箱。全部合わせても60ユーロ(7,000円程度)したかしないか。

自分にとっての宝探しと裏腹なんですが、蚤の市でのもう一つの楽しみは、笑いのツボをつかれるオブジェとそのシチュエーション。毎度ながら「こんなものも売りに出してみちゃうのね」と、そのたくましさに脱帽。基本的にはさっぱり捨てていく性格ですが、それでも自分の部屋の押入れの奥に思いを馳せ、実は宝の山が眠ってるのかも、との錯覚に。それにしてもリールの大骨董市は、規模が規模だけに、半端ないボリュームと商品の幅広さ、そして笑いの質が高度でした。
 

写真下部、中央あたりに何気なく置かれているリモコン。このリモコンをピンポイントで蚤の市で探そうという人もスゴイけど、売ろうっていう根性にも頭が下がります。
部品が無造作に入った箱。この中から探してた部品が見つかったら感動だろうなぁ…。とはいえ部品本来の使い方とは違う用途で買われるのが大半だと思うけど(もし買われていくのなら)。
砲弾専門のスタンド。ぴかぴかに磨き上げられた砲弾は美しいけど、個人的にはコレクションするにはちょっと…。もちろん需要があるから供給があるんでしょうけど。
牛の首につけていたというプレートも、これだけ集まると確かに可愛いかも。売れれば、1920年代、30年代にこれを捨てずに残しておいてくれたひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんに感謝な品。

戦利品のランプとアールデコのプレート。ランプの傘は、後日購入。丸いフォルムのランプは底の部分に署名らしきものが見えるけれど、作者は不明。アールデコのプレートは、実用ではなくインテリア用に。別の骨董市で購入したリキュール用カラフとグラスを乗せて。

 

リール骨董市のもう一つ楽しみといえば、リール名物のMoules & Frites(ムール貝&ポテトフライ)にビール。歩き疲れてビストロに入ると、メニューがこれしかないことも。骨董市の週末は、ムール専門レストランで、お客さんが食べ終わったムール貝殻を歩道に高く積み重ねていき、高さを競い合うコンテストが開催。毎年優勝するというレストラン『Aux Moules(オームール)』は、骨董市前夜の金曜日に6トンものムールを仕入れるのだとか。私たちも日曜日の昼食を取り、コンテスト勝利に貢献してきました。

また、この大骨董市の週末に合わせて、さまざまなイベントが企画されていました。例えばリール市内では、土曜日午前に開催されたハーフマラソン。1万人の走者が、リールの町中を、駆け抜けました。リール近郊の町や村でも、骨董市にビール祭りやチーズフェアと、まさにフランス北部がお祭り気分に湧き上がる週末です。

界隈によって異なりますが、リール市内の骨董市は土曜日の深夜0時にひとまず閉店。翌日の日曜日もまた朝早くから開店しますが、大半の出展者は、夜間の見張りも兼ねて、キャンピングカーやテントにて休息を取るよう。確かに、あれだけ野放しに陳列した商品を全部また片付けるなんて、大変ですものね。

とはいえ、リールの骨董市に来たからには、土曜の夜を寝て過ごすだけじゃつまらない!ということで、蚤の市スタンドが店じまいをした後も、街は静まりません。リールは学生の街として知られていることもあり、夜遊びスポットが充実。この週末はいつも以上にクラブやバーのライブコンサートなどが企画。私たちは、リール・ユーロップ駅前のフランソワ・ミッテラン広場での無料野外コンサートへ。昨年は開催されなかっただけに、今年のコンサート復活は大歓迎で盛り上がりました。

土曜、日曜と、お昼はムール&ポテトフライを連続で。ふっくらしたムール貝の身は、ほのかに甘みもあって、ポテトフライの塩味と絶妙な組み合わせ。磯の風味がしっかりと出たスープにポテトフライを浸すと、また一層美味しさが増し、止められなくなるのが困りもの…。こんもりと盛り上がったムール貝の山の周りは、バリケードが張り巡らされ、店員が次から次へとバケツに入ったムールの貝殻を上手に積み重ねていきます。記念写真を撮る人で周囲は渋滞。私たちの食べたムールの貝殻もこの中に!

Têtes raidesのコンサートは、アコーデオンのノスタルジックな雰囲気と、サーカス音楽と、ロックとが混ざり、時事問題にも敏感に触れる独特のパフォーマンス。会場には、老若男女が入り混じり、肩車に乗った子供も一緒になって、家族連れでも楽しめる居心地の良いコンサート。
リール市内でのハーフマラソン。土曜日の朝からなんとも健康的。でも、ここはリール。マラソン後のビールはさぞや美味しいことでしょう。走者たちの後ろに見えるのがリール発祥のパン屋『Paul』。

リールの骨董市を数字で見てみると、3,000人の警察官が常時パトロールに回り、場所取りで揉める出展者同士の仲裁や、偽造品販売の業者の摘発、スリの取締りなど、訪れた人たちの安全確保に努めています。そして忘れてはならないのが、この週末の後、覚めやらぬ祭りの後に待っているのは…市内清掃。リール市清掃局が日曜の深夜に、夜を徹して行います。ごみ回収の量は、500トンにも昇るのだとか。翌月曜日には、何事もなかったかのように、普段の街の生活に戻ります。

リール骨董市の原型は、12世紀のリールでの大縁日に遡るといいます。フリーマーケットの様相を呈するようになるのは、16世紀に入ってから。使用人たちが、主人の不用品を、日の入りから日の出までの間、つまり深夜に、軒先で売ることを認められたのだとか。それから数世紀、途絶えることなく続き、今やヨーロッパ全土、世界中から200万人の来場者を誇る蚤の市に。古くから続く縁日といえば、日本にも13世紀初頭から続く東寺の弘法市がありますね。「弘法さん」と呼び習わされるこの縁日は毎月21日開催。

 

ちなみに、フランスでは、パリ北部にあるクリニャンクールの蚤の市など常設のものに加え、一年中を通して、どこかしらで、仮設骨董市、蚤の市が開かれています。今回のリールのように、大規模なものはヨーロッパ全土で抜群の知名度を誇りますが、地方の骨董市となると、そういうわけにもいきません。そんな地方の蚤の市をマニアックに探して回るには、フランス全国の骨董市情報専門誌『アラダン』(Aladin)が必携。また最近はiPhoneのアプリにも骨董市検索ツールがあり、夏のヴァカンス先や週末旅行先などで、周辺にあるオークションや蚤の市を覗いてみるのも、楽しい過ごし方の一つです。