from 山形 - 10 - 
畠山美由紀 “rain falls” TOUR in 山形
いくつもの雨の風景が綴られている
畠山美由紀さんの『rain falls』。

(2013.06.20)

中島ノブユキさんの作曲、アレンジ、プロデュースによる雨の音楽。

畠山美由紀さんの通算6枚目のアルバム『rain falls』が6月5日にリリースされた。本作は全編雨にまつわる曲が集められている。「雨」といっても、もちろん様々な表情がある。雨は時に心地良いものであり、また時には憂鬱な、厄介なものでもある。雨には匂いがあり、リズムがあり、それゆえ晴れの日とは違った知覚を刺激して、違った情動を引き起こす。このアルバムにはそんな多様な雨の風景が綴られている。

参加ミュージシャンは、屋敷豪太、おおはた雄一、藤本一馬、石井マサユキ、森俊二、小沼ようすけ、沢田穣治、北村聡、中村潤などなど素晴らしいメンバーが参加しているのだが、プロデューサーとして、そして作曲/共作者、演奏者として支えているのは、中島ノブユキさん。ジェーン・バーキンの世界ツアーのピアニスト、音楽監督として、またNHK大河ドラマ「八重の桜」の音楽の制作など多忙を極めるマエストロである。美由紀さんとは旧知の仲であり、本作では共作者とも言うべき役割を担っている。

アルバムは、嵐のあとの爽やかな雨上がりの風景を描写した「風の栞」で始まる。2曲目「叶えられた願い」は、あのジョアン・ジルベルトの名演「Estate」をイメージして作られたという、帰らぬ夏の日の記憶。メランコリックなストリングスアレンジと美由紀さんの歌声が艶かしい。つづく「夏の懺悔」は、中島さんのソロアルバム『カンチェラーレ』の代表曲に、かしぶち哲郎さんが詩をつけた、哀愁溢れる佳曲。北村聡さんのバンドネオンと美由紀さんの繊細な表現が胸に迫る。4曲目「Mâme Sous La Pluire」はフランソワーズ・アルディーのカバー。雨だれの様にリズミカルな中島さんのピアノと、中村潤さんの端正なチェロのみによる演奏。抑制しつつも狂おしい美由紀さんの歌声。おおはた雄一さん作詞による力強いロック、「光をあつめて」をはさみ、6曲目は再びカバーで、「Rainy Days and Mondays」。カーペンターズでお馴染みの名曲だが、映像的な中島さんのアレンジ、そして語りかけるような美由紀さんの歌。


畠山美由紀さん

後半は中島さんのピアノ・ソロによるインタールードに導かれて、このアルバムの白眉とも言える「夜と雨のワルツ」へと連なる。夜と雨がもたらす幻想、狂おしいまでのメランコリーが、典雅なワルツに託されている。美由紀さんの歌に心が震える。つづく「雨は憶えているでしょう」は美由紀さんのファースト・アルバムからのセルフカバー。穏やかな雨を思わせる小沼ようすけさんのギターが包み込む様に優しい。「Daily Life」では、中島さんによる打ち込みのリズムとシンセ・ベース、美由紀さんの軽やかな歌声が上品なグルーヴを創りだしている。つづく「雨の降る日に」は、オフコースのカバー。雨の日は遠ざかった記憶を呼び起こす。アルバムの最後を飾るのは「Wild Night」。エミリー・ディキンソンの詩に美由紀さんが曲をつけたもの。嵐の夜の激情を静謐の中に封じ込めた。

美由紀さんによれば、「雨の日に、静かに語り合うような作品にしたかった」と言う本作、1曲1曲がとことん練り上げられていて、知的であると同時に感覚的でもある。美由紀さんの歌の生命力と、各々の演奏者の聴かせどころが過不足なく捉えられている。このアルバムを聴いて「癒された」などと、安直なことはどうか言わないでほしい。「雨」を通して綴られる、この美しく穏やかな歌の数々には、貴方を揺さぶり、失われた感情を目覚めさせる、強い力が宿っている。

このアルバムのリリースを記念したツアーが、7月から9月まで全国5カ所で開催される。ここ山形でも昨年に続き、大正ロマン溢れる重要文化財「文翔館議場ホール」で開催されることとなった。それも本アルバムにも参加している、中島ノブユキさん(ピアノ)、藤本一馬さん(ギター)、中村潤さん(チェロ)、そしてヒックスヴィルの真城めぐみさん(コーラス)という、これ以上望むべくも無い豪華なメンバーで。主催者という立場を失念する程、猛烈に楽しみだ。


左:中島ノブユキ(Piano)
右:真城めぐみ(Chorus)

左:藤本一馬(Guitar)
右:中村潤(Cello)

畠山美由紀 “rain falls” TOUR in 山形

開催日:2013年8月4日(日)
開催時間:16:00開場 17:00開演
会場:山形県郷土館「文翔館」議場ホール
出演者:畠山美由紀(Vo)、中島ノブユキ(Piano)、真城めぐみ(Chorus)、藤本一馬(Guitar)、中村潤(Cello)
チケット:前売り¥5,300、当日¥5,800 全席自由。200席限定。
お問い合わせ:山形ブラジル音楽普及協会 bossacur@ma.catvy.ne.jp

主催:山形ブラジル音楽普及協会 

企画制作:MSエンタテインメント / SoL

協力:ランブリング・レコーズ
【Biographoe】
畠山美由紀(はたけやま・みゆき)

宮城県気仙沼市育ちのシンガーソングライター。10人編成の“Double Famous”のヴォーカリストとして活躍する中、 “SOUL BOSSA TRIO”のフューチャリング・ボーカリストとしてCDデビュー。その後、ギタリスト・小島大介とユニット“Port of Notes”を結成。2001年ソロデビュー。松任谷由実、大貫妙子、リリー・フランキー、セルジオ・メンデス、ジェシー・ハリス…、ジャンルや世代、国境を越えて共演を果たし、音楽ファンから圧倒的な支持を受けている。近年は2011年3月、東日本大震災で被害を受けた故郷を想い「わが美しき故郷よ」と題した詩を発表。その詩はテレビ、新聞、雑誌、ラジオで取り上げられ話題に。 同年12月、アルバム「わが美しき故郷よ」を発表。 2013年3月、NHK BS ブレミムドラマ「神様のボード」(原作:江國香織 主演:宮沢りえ)のエンディングテーマ曲「ハレルヤ」を担当。番組終了後、主演の宮沢りえをはじめ多くの賛辞や反響が届き、急遽フル・バージョンをリテイクし「ハレルヤ」をiTMSにて配信。 同年6月5日、大河ドラマ「八重の桜」の音楽を担当している中島ノブユキをプロデューサーに迎え、 アルバム「rain falls」を発表。 その後、全国ツアーを開催予定。

中島ノブユキ(なかじま・のぶゆき)

ピアニスト/作曲家。東京とパリで作曲を学ぶ。ピアニスト、作・編曲家として、映画音楽、POP、JAZZ、広告音楽、クラシックなど幅広いフィールドで活動。
近年(2011年11月~)は ジェーン・バーキン ワールドツアー「Jane Birkin sings Serge Gainsbourg via JAPAN」 に音楽監督・ピアニストとして参加。(27カ国 約80公演)
2010年 映画「人間失格」の音楽を担当。2013年 NHK大河ドラマ「八重の桜」の音楽を担当。ソロアルバムとして「カンチェラーレ」「メランコリア」等がある。