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年次休業 7月30日・金曜夜から、8月29日・日曜まで よいバカンスを!だってさ。6区、ヴォージラール通りのカフェ。 |
遠い昔、大学生だった頃に学校よりも名画座によく通った時期がある。池袋文芸座や飯田橋佳作座、新宿3丁目の日活名画座など、ずいぶんお世話になった思い出が今でも残っている。当時見たフランス映画に、『かくも長き不在』というマルグリッド・デュラス脚本の静かな反戦映画があった。パリ郊外にあるカフェの女主人(アリダ・ヴァリ)の、一夏の出来事を淡々と綴ったものだ。
彼女は戦争未亡人(というか、夫は終戦後も行方不明)で、女手一つでカフェを切り盛りしてきた。暑い季節になり、カフェの夏休みの準備を始める。馴染み客でもあるトラック運転手は彼女をバカンスに誘うが、いま一つ乗り気でない。そんな夏のある日、通りで中年の浮浪者を見かける。気になって跡を付けると、その男はセーヌ河畔の掘建て小屋で寝起きし、のんびり古雑誌をめくっては写真を切り抜き、コラージュしている様子。(以下ネタバレ注意)
浮浪者に夫の面影を見た女主人は、ある日彼を自分のカフェに招待する。夏期休業中なので客はいない。窓の戸を閉めた薄暗いカフェに明かりをともして、二人向かい合って食事をする。いつもより念入りに化粧し、ドレスアップした女主人が美しくも悲しい。彼女は浮浪者を夫だと確信するのだが、彼は戦争で過去の記憶を喪失したのか彼女のことが解らない。夫の名を呼んで確認したくても怖くて出来ない。むかし夫と聞いたレコードをかけて、ふたり静かにダンスを踊る。彼女の手が夫の肩から首筋に伸び、後頭部の大きな傷跡に触れる……。1960年制作の映画を40年以上前に東京で見たので、もう記憶も曖昧だ。監督はアンリ・コルピ。名画座で見た時も感動したが、今見ると女主人の仄かな希望や深い悲しみが、大人としてもっと理解できるかも知れない。静かに反ナチズムを訴える名画だ。
で、映画はともかく、前回のブログの続編、パリの店の夏期休業の話だ。この映画の冒頭だったか、フランス空軍のジェット戦闘機が編隊飛行するシーンがあったので、7月14日の革命記念日ころの設定のようだ。昔からフランスでは、この頃から夏休みの計画を実行するものらしい。7月中旬から8月いっぱい、フランス民族は都会(パリ)から田舎へ、バカンスで大移動するものと決まっているらしい。夏のいい季節に都会で仕事なんかしてるのは愚の骨頂、みんなで楽しく遊びましょう。休まないのは罪悪、人生はバカンスの為にあるのだ、なんてラテン気質200%爆発。パリに残った少数派が生活にちょっと不自由するのはしょうがない、今はスーパーだってあるしね、なんとかなるさ。
でもこの時期、パリには外国人観光客も来るのですがねえ? パン屋もカフェも何軒かちゃんと営業しているし、ホテルだって美術館だって開いてる、地下鉄とか空いているし、クルマが少なく街も静かでいいでしょ。そりゃそうだけど、なんだかいつもの混沌としたパリのエネルギーみたいなものを感じないんだけど、これもパリ、か。テンション下げて、のんびり休むのも大切です。
フランスの有給休暇の平均給付日数は37日、そのうち取得日数は35日、消化率は93%の高率だ。それに比べて我が日本国の平均給付日数17日、取得日数が9日(フランスの4分の1)、消化率は56%という。恐れ入谷の鬼子母神、フランスって労働者の天国みたいだ。だけど、休みを取るのはサラリーマンや公務員など都市の生活者で、農業畜産大国フランスの一次産業に関わっている大半の田舎の人たちはどうしているんだろう? 畑仕事や牛乳絞りを休むわけにもいかなさそうだけど。老婆心ながら、フランス国内の休暇格差問題が気になるなあ。遊んでばかりいるとギリシャみたいになりますよ、街のキリギリスさん。
※休暇日数の国別データはエクスペディアレポートより引用 http://www.expedia.co.jp/corporate/holiday-deprivation.aspx