from ヘルシンキ - 7 - 「小さな積み重ねが社会を動かす力になる」by Tea

(2010.03.24)

「フィンランド女性に学ぶ 幸せ力」
File.06 Tea Tetri(35歳)

Teaさんには4つの顔があります。
移民向け職業訓練プログラムの
「講師」として働きながら、
「大学院生」として学び、
「妻」として「母」として家庭を支えています。
この4つの役割に辿り着いた経緯と、
今の思いをお話いただきました。

 
Work:残りの人生を捧げたいと思える仕事。

昨年までは、労働省管轄の職業紹介所で、移民への対応を担当していました。
当時は、毎日同じ席に座り、オフィスでの事務作業がほとんど。
困っている移民の人たちが目の前にいても、
事務的に「法律上はこうです」と答えることしかできませんでした。
あるとき、「これは、残りの人生を捧げたいと思える仕事だろうか」と自分に問いかけました。
答えは、「No」でした。私は、もっと「現場」にいきたい。
それで、移民向け職業訓練プログラムを提供する会社に移りました。
政府が予算を出しており、移民の人々は無料でプログラムを受講できます。
移民の人々がフィンランド社会に適応し、仕事を得るために必要な知識、
フィンランド語、フィンランドの歴史、文化、習慣、制度などを教えています。
プログラム終盤では、各自の適性や希望に合った職業研修の機会を見つけ、
仕事を獲得できるよう支援します。

研修生は、世界各国からの移民なので、それぞれ文化的背景が異なります。
研修生とのコミュニケーションを通じて、全く違う考え方や価値観を知ることができます。
一方で、意外な共通点を見出すこともあり、刺激になっています。
また、職業研修(飲食業、清掃業、溶接工など様々)に同行することで、
私自身が多様な働き方を学ばせてもらっています。
移民の受け入れについては賛否両論、議論がありますが、
移り住んできた人が、1日も早く社会に適応し自立できるよう支援するのが、私の役割です。
 

職場での写真。

 
Turning Point:3度の転機。

1度目の転機
人生最初の転機は、大学に入学したことです。
首都ヘルシンキから遠く離れた街で生まれ育ちました。
周りに大学を出た人がいなかったので、学生生活がどのようなものか
想像もつきませんでした。
大学に入学して、出会ったこと学んだことすべてが新鮮でした。
文化人類学を学び、世界中の問題を知りました。途上国の問題に取り組みたいと考え、
在学中2度コスタリカに渡り、ストリートチルドレンのための活動を経験。
この頃、将来は途上国で働きたいと考えていました。

2度目の転機
夫に出会い結婚、出産したこと。特に、出産は「新しい世界」の幕開けでした。
子どもができたことで「自分だけの時間」はなくなりました。
そのかわり、私にとっての人生の意味は大きく、深いものになりました。

3度目の転機
移民支援の仕事に出会えたことです。
以前は、途上国で働くのが夢でしたが、世界各国を飛び回る働き方は
私には向いていないと思うようになりました。家族ができ、それは決定的になりました。
でも、私がしたかったことの本質は、自分と異なる文化の人の役に立つこと。
それは海外でなく、国内でもできることだと気づいたのです。
経験を積み、勉強を続け、移民支援の講師としてもっと貢献できるようになりたいです。

 

Balance:できる範囲で取り組む。

育児と仕事のあいまに、大学院で教育学を学んでいます。
移民支援の講師として、仕事の質を高めるために勉強しています。
5歳ともうすぐ3歳になる子どもの育児、仕事、そして、大学院での勉強。
幼稚園の送り迎えの時間は決まっているので、
それに合わせて、仕事と勉強のスケジュールを組んでいます。
仕事は、週に3日か4日間。常勤ではなく、パートタイム(日給制)で働いています。
キャリアアップや給料を増やすことには、興味はありません。
それまで手に入れようと考えたら、この生活は成り立たなかったと思います。
今のペースで、無理なく続けられることを目指しています。

 

Happiness and Dream:家族の調和と自己研鑽。

家族が健康で、調和のとれた生活を送れることが第一です。
子どもがもう少し大きくなったら、旅行にもでかけたいです。
そして、好きな仕事を続けられること。
大学院で教育学の知識を深めて、今の仕事の質を上げていきたいです。
将来的には、ジャーナリストの勉強もしたいと考えています。
世界各国を飛び回ることができなくても、身近にある問題を伝えていくことはできる。
そんな風に考えています。

家族との時間。

Message:小さな積み重ねが社会を動かす力になる。

日本とフィンランドでは、文化も社会も違います。
ただ、社会をより良くするためにやるべきことは、同じかもしれません。
自ら声をあげて、動くこと。
政治家のような力がないと、社会を変えるのは難しいという気がします。
でも、例えば、選挙のとき必ず投票すること、政治家に意見を伝えることはできるはず。
小さな積み重ねが、少しずつ社会を動かす力になるのだと思います。

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家庭を守りながら、堅実に自己研鑽を積むTeaさん。
仕事に求めるのは、地位や給料ではなく、「残りの人生を捧げたいと思えるかどうか」。
移民支援の現場で、より良い社会の実現のため奮闘されています。

 
この内容は、2010年3月11日取材当時の情報です。