from 山梨 – 14 - 『絆』のこと – 東北地方太平洋沖地震に寄せて。

(2011.03.28)

まず初めに、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震で被災された方々、そしてご家族の皆様にお見舞い申し上げます。

3月11日14時46分、山梨県内では最大震度5強、私が住んでいるところでは震度4でした。
県内の人的被害は、倒壊したブロック塀で怪我をされた方がおひとり。
その他に、建物や道路、ライフラインの損傷やがけ崩れなどがありました。

私の実家は山梨県内ではなく、その実家には母がひとりで住んでいます。
実家周辺では震度5弱。
食器棚の中でグラスが倒れて割れ、棚がひとつ床に落ちて扉のガラスが割れ、オーブントースターが床に落ちたそうです。
幸い母に怪我はありませんでしたが、地震後しばらくは恐怖心から片付けることも近寄ることもできなかったと言っていました。

お隣さんが「大丈夫だった?」と声を掛けにきてくださったそうですが、民生委員さんが様子を尋ねに来てくれることも、町内会として安否確認のような事をしてくれることもなかったそうなのです。
地震後、ほぼ毎日母とは電話で話をしていましたが、この話を母から聞いたのが、地震から数日後。
親族など近しい方がいらっしゃらずに、ひとりで暮している高齢者の方であれば、地震以来誰とも会話をすることなく数日が過ぎていったことになります。
もしそんな事があれば、どれだけ不安だろうと。
また、室内で怪我などされて動くこともままならないとしたら……。
行政の被害報告は通報されたものをまとめているのだろうと思いますが、だとするなら通報されないものは「被害がなかった事」になってしまうのかと非常に不安になりました。

そして始まった計画停電。
私たちはインターネットで東京電力のホームページへアクセスしてグループやスケジュールなどを確認できますが、インターネットを利用しない方々は「詳細は東京電力のホームページなどで」と言われても、詳細を確認することができません。
テレビの画面で流れる『計画停電情報』をじっと見つめることしかできないのです。
これについても、東京電力のホームページに掲載されている『週間計画停電(予定)』を世帯分出力して、町内会の回覧板で回すようなことができないものだろうかと思いました。

地域住民の安否確認と、刻々と移り変わる情報の地域での共有化。
言葉で言うのは簡単ですが、実際には何をどう利用すればいいのかわからない・気付かないものだと思います。
今あるしくみ(町内会、民生委員、回覧板など)を上手く利用できるように、行政からのアナウンスや指示が欲しいところだなと思いました。
また、日頃から地域に暮らす住民のひとりとして、住民自身が役割意識を持っておくことも大切だと思いました。

今回、被災した方々の避難所に関する報道で「コミュニティを優先させて」という言葉を何度か耳にしました。
「避難所はコミュニティごとに振り分けを」「避難所の部屋割りはコミュニティごとに」といった具合です。
全ての避難所で対応できたのかはわかりませんが、被災された方にとっては大変心強く、また安心することのできる配慮だったのではないでしょうか。

今私が住んでいる辺りでは、家から買い物に行く途中ですれ違う人と会釈や挨拶をする事が多くありますし、元気な声で「こんにちは!」と声をかけてくる小学生もいます。
また、公園を走っている時もすれ違う人と会釈をしあったり、散歩中の人から「頑張ってね」と声をかけられることもあるのです。
……「あー、もう疲れた。ここからは歩こうかな」と思っている時に「頑張ってねー」なんて声をかけられると、「ああ、だめだ、歩くわけにはいかない……走ろう……頑張ろう……せめて彼女から私の姿が見えなくなるまでは……」と思ったりすることになるのですけども。
たとえその程度のことであっても、地域の人同士の日頃のコミュニケーションというものは大変ありがたく感じるものですが、今回被災された方々はどれほど地域のコミュニケーションを大切にし、そしてそれを当たり前の事として暮らしていたのかと、報道を見ながらつくづく感じました。

ですが、そういうコミュニケーションは良い事ばかりではないことも事実です。
「鬱陶しい」「干渉される」と感じる事もあるでしょうし、何かと自分の思い通りにならないこともあると思います。
そして、そういったトラブルが元で地元から離れてしまう人もいると聞きます。
それには人それぞれの事情があるのでしょうし、致し方ない事だとも思います。
ただ、人と人の絆というものは自分が満足するだけのものではなく、嫌なこと、納得行かないこと、そういったものを関わる全ての人それぞれが受け入れながら、時間をかけて紡ぎ続けていくものだと思うのです。
人が複数、それも長きに渡って繋がっていく以上、『絆』というものはきれいごとだけではありませんし、目の前の事象が気に入らないからと全部捨ててしまうことで、新たに簡単に構築しなおせるものでもありません。
今回の震災で、『助け合い』とは違う『絆』というものについて、深く深く考えさせられました。

山梨県では県内多数の公営住宅や公共施設で、被災した方の受け入れを行っています。
受け入れ先のひとつ、清里にある『キープ協会』は、関東大震災や第二次世界大戦からの日本の復興に、農村復興、青少年の育成といった方面から尽力してきた協会です。
八ヶ岳山麓の素晴らしい自然に囲まれたこの場所からは、素晴らしい富士山を眺める事ができます。

キープ協会農場から県立まきば公園へ向かう放牧地(2010年7月撮影)

また、ヴァンフォーレ甲府のホームグラウンド『小瀬陸上競技場』がある甲府市内の『小瀬スポーツ公園』は、山梨県内のお花見スポットとしても有名なところで、計画停電の状況によっては夜桜も楽しめるはず。
避難されている方々が、山梨の自然によって少しでも癒され、少しでも元気や希望、勇気を取り戻されることを願って止みません。

末筆になりますが、被災地の一日も早い復興と平安を、心よりお祈りしています。
と同時に、被災地の復興に向けて、私にもできることを頑張って行きたいと思います。
頑張ろう、日本!

山梨県甲州市にある、慈雲寺の樹齢300年を超えるイトザクラ(2010年4月撮影)。県の天然記念物です。