from 福岡 - 8 - 旦過市場で見つけたのは、活気、笑顔、会話に、優しさ。

(2010.12.28)

勝山通りから旦過(たんが)方面に向けて魚町銀天街を抜けると見えてくるのは旦過市場。豊前や関門らの山の幸、海の幸が集まる市場、北九州の「台所」と言われています。お昼ごろに来たからか、年末に近づいてきたからか、いつもよりさらに人通りも多いよう。

北九州市小倉北区金田の切り絵作家・講師、小菅績憲さんの切り絵作品。「旦過市場、北九州の台所ともよばれ、鮮魚・青果・精肉・惣菜などを扱う店が多い。さらに、郷土料理の『じんだ煮』や鯨肉を扱う店もある。福岡市の柳橋連合市場と並んで福岡二大市場と称される」ウィキペディア じんだ煮 より

旦過市場は大正時代、隣接する神嶽川を行き交う船が魚介類などの荷を揚げ、商売されるようになったのが始まり。現在は鮮魚、青果店など木造の約150店舗が軒を連ね、昭和30年代の姿で、レトロな雰囲気満載です。「庶民の市場」であると同時に、近年では、テレビ番組や旅番組で紹介され、観光客も訪れる観光スポットとしても着目されています。

市場に並ぶ鮮魚の数々。ふぐ、鯖に、あんこう。

「いらっしゃーい!」の元気な声につられてやってきたのは、“ちりんちりん豆”(?)の『みやじま食品』。女将さんが、黒豆を丁寧に混ぜていました。「数年前に旦過に移ってきたんよ。1978年ぐらいまで北九州市の若松で、リヤカーを引いてハンドベルを鳴らしながら煮豆を売りよったんよね。その当時の鈴の音から“ちりんちりん豆”と呼ばれるようになったの。豆は体にいいけんね~。お正月でも、豆はまめまめしくってお正月料理のひとつやけんね」と話しながらも豆を混ぜる手を止めない。さすがに、まめまめしい。

お客さんが近くを通ると大きな声で突然「ありがとう!!!」。流石に驚きましたが、まだ買ってくれていなくても「(来てくれて)ありがとう」「(これから、買ってくれて)ありがとう」なのだと。感心してしまいました。カメラを向けるとつけていたマスクをそそくさととろうとするので、「とっても、とらんでも、美人よ」と声をかけましたが、それでも、恥ずかしそうにマスクをとり、帽子をきちんとかぶり直し、それでも、豆を袋に入れる手は止めてはいませんでした。
 

 

ちりんちりん豆。『みやじま食品』リヤカーを引いてハンドベルを鳴らしながら煮豆売っていたのが名前の由来。

 

旦過市場を通り抜けて、平和通りのほうへ向かっていく途中。歩く人の声が聞こえました。「これで600円よ。安いよね。」なんのことか気になりあたりを見回すと、『かしわ屋 くろせ』に行列が。揚げたての唐揚が店頭に並べられるところでした。並べるのは、白髪を綺麗に整えた店主。真っ白な制服をきちんと着て、手際よく唐揚を並べていく姿がなんとも凛々しい。ふむふむと話を聞いていると、揚げたての唐揚げを食べるように薦められました。旦過市場の歴史を聞こうかと声をかけたのですが、ご主人は、「詳しい話はお向かいに聞いたほうがよかろう」と私を連れて向かいの、『フルーツショップ やぎ』さんへ。

市場には居酒屋や料亭の方も買い付けに来ます。
『かしわ屋 くろせ』鶏専門店。創業50年。「黒瀬のスパイス」は万能調味料として知られている。
『フルーツショップ やぎ』季節の新鮮なフルーツを取り揃えています。

私を笑顔で迎えてくれたのは、果物屋さん『フルーツショップ やぎ』。「旦過市場は戦後すぐに川沿いの魚市場として栄えたんよ。市場の一部は、馬小屋だったの」。現在の小倉北区の中心商店街は昔の「魚町筋」を軸に出来ていますが、江戸時代には城下町の商店街として商屋が軒を連ねていたという。明治20年代、小倉で最も華やかだった通りは、当時の国道であり、中津口から入り、紺屋町、そして鳥町に折れ、京町に突き当たり、左に折れ、京町から常磐橋を渡り室町に出て、戸畑に続いていたので、鳥町筋が本筋でした。また大正24年(1891)の九州鉄道小倉停留場の開業を契機として、室町から常磐橋を渡って、京町に入る道筋などはますます人の往来が激しくなり、小倉の中心を形成していきました。その頃の魚町は、いわば裏通りであって、現在の一丁目のうちの京町寄りの一町だけを錦町といって、そこらには一流の店舗があったが、二丁目あたりで商屋は途絶えて、飛んで旦過橋、馬借あたりに商店があり、魚町三、四丁目(現在の旦過市場付近)のあたりには、牛や馬がつないであり道路も田舎道とさして変わらない有様だったと言われています。

旦過市場一部が馬小屋だったとは誰が想像するでしょうか。私を旦過市場内の脇道へ連れて行ってくれました。見上げるとそこは馬小屋の面影がなおも残る別世界。天井柱に馬を留める金具がついています。空気が通る様に屋根には窓があります。旦過市場のメイン通りではない、ほんの少し奥まったところに、こんなところがあるとは。時の流れが止まっているかのような一角。隠れ家を見つけたような少し得したような気分です。
 

 

旦過の一部は馬小屋であったという。

古い木の看板がいくつもついた乾物屋の『岡本商店』。写真を撮る私に、話しかけてきてくれたのは、岡本商店の岡本美智子さん。創業してから52年。私は早速写真を撮らせてもらおうとカメラを構えると人物は撮らないと思っていたようですぐに脇にそれようとしていました。「看板娘がはいらんと~」というと、74歳の看板娘は「看板おばあちゃんやね」とにっこりとレンズに微笑みかけてくれました。可愛らしい白髪交じりのおかっぱにピンをとめています。お薦めを尋ねると、「お正月ものやね。数の子に、タラやね。大きいのがあるからね」と箱から出てきた鱈は、オススメだけあって80センチもある姿そのままの鱈。店の中をのぞくと黒電話が。「使えるけんね~」とにこにこ。確かにそうだ。使える。そうだよなぁと必要以上にアップデートされていく世の中の流れを感じました。

『岡山商店』創業52年。看板娘の岡本美智子さん。

 

 

『岩田屋』では、つきたてのお餅が食べられる。丁度『大学堂』の隣にある肉の『勉強屋』の前に行列ができていました。たくさんの店員が忙しそうに肉を計りお客さんの対応をしている様子。並んでいるお母さんにお尋ねしてみると「毎月“9”が付く日“9、19、29”は『肉の日』で全品半額なのよ。19日が日曜日で休みだから、代わりに今日半額にするってよ」。お肉屋さんを囲むようにしてできた列は耐えることなく続いています。誰に言うわけでもなく、心の中で、“9”日ねとつぶやいてみるのでした。

 

ぬか炊き『たちばな』。小倉発祥のぬかみそ炊きはぬか床で鯖、鰯などを炊いたもの。食べたことがない方は是非試していただきたい一品です。

 

道をひきかえすとそこには、ぬかみそ炊きが並んでいました。女将さんによると、ぬかみそ炊きは江戸時代から庶民にひろがった小倉発祥のものといわれています。ぬか床には、乳酸菌・ビタミンB群が豊富で体にもよく、鯖などと炊くことにより、中性脂肪を抑制するとのこと。我が家でもよく食卓に並びます。なんでもネットでも販売をしているとのこと。食べたことがない方にはぜひ試して頂きたい一品です。

『小倉かまぼこ』さん。サーファーでもある若旦那、三代目森尾泰之さん。自己紹介をしながら焼きたての小倉カナッペが気になり、私は、焼きたての小倉カナッペ(元祖小倉かまぼこ)を一気に食べて、焼きたてがやっぱり一番だなと思いながら話を聞かせてもらいました。今回ツイッターを通じてお知り合いになりそのご縁で旦過市場を取り上げさせていただいたのです。市場でも自分たちの青年部がやっとできあがったのだそう。跡継ぎ問題や水害問題(毎年台風の時期になるとひどいところでは胸までが水につかる。今年も、腰まで水につかりながらも魚をさばく魚屋さんの様子が全国放送で流された)、ネットでのマーケティングや宣伝と、旦過市場には課題があります。特に、青年部では、ツイッターやホームページなどを充実させて旦過市場をより盛り上げてきたいと話されていました。

 

『小倉かまぼこ』。小倉カナッペは焼きたてが最高です。最高級の魚のすり身に野菜を入れパンで包んだ商品で、昭和34年から製造している。

 

お気に入りの味や気の合う親父さんや女将さん。会話から生まれる親近感。お話した方の共通点は、テンポよい言葉のはしばしに、商売人として長年やってきた自信のようなものを感じるということです。どのお店の前を通っても会話が聞こえます。お客とお店。名前を知らなくてもはずむ会話。そうだ、そうだ、「お客さんは、ただモノを買うのではなく、人を買う」のだと母がいっていたのを思い出しました。商品には、売り手の息吹が、人となりが、表れるということです。お店では、人と人が出会い、ちょっとした会話をかわすことで、心が温かくなり、満たされる。そして、また、お店の人の笑顔に励まされたり、笑い合ったりして、行きつけのお店へと足を運ぶのでしょう。

年末の鱈を買いに、いやいや、おかっぱ頭にピンをつけたおかみさんの笑顔に励まされに、また足を運びましょう。

 

今年中旬から福岡担当をさせていただきました林田です。このような機会をいただけて本当にうれしいです。担当させていただいてから、どんなことを皆様にご紹介しようかといろいろなことを考え、調べるようになりました。住んでいながら知らないことが多く、本当に驚いてしまう次第です。楽しくあったかい地域の情報を福岡よりお届けしたいと思います。特集してほしいこと、知りたいこと、また、感想などコメントいただければ幸いです。

2011年度も引き続きよろしくお願い致します。

  

旦過市場

JR小倉駅より徒歩10分
モノレール旦過駅より徒歩1分
都市高速小倉駅前ICより車で5分