from 金沢(早川) – 2 - ゆきの花街。

(2009.01.27)

「1月4日にね。8時、『八しげ』でお待ちします」。
毎年暮れに、こんな電話をいただくようになって、10年が経つ。金沢のつくり酒屋の会長さんからである。
『八しげ』は東茶屋街の老舗のお茶屋さんだ。金沢に3ケ所保存されている茶屋街では、置き屋さん、つまり茶屋が、次々としゃれた料理屋やワインバー、土産物店へと改装されていく。そんな中で、『八しげ』は、今日でも昔ながらのたたずまいをしっかり守っている。専属の芸妓たちは、若く、美形で人気者だ。

暮れから楽しみにしていた1月4日、朝から和服の用意にかかる。お茶屋遊びに誘ってくださる会長さんは、着物がお好きなのだ。お正月らしい着物で、しかもおしゃれでなくては。芸妓さんたちは、和服のプロですもの。
夕刻から雪になった。和傘と雪下駄で出かける。茶屋街にはガス灯が灯り、雪はオレンジ色に輝いて降ってくる。通りは静かだ。

『八しげ』の玄関を入ると「あけましておめでとうございます」の華やかな出迎え。2階へ通される。会長さんと友人はもうすっかりくつろいでいる様子。新年の挨拶を交わしていると、酒器が運ばれてくる。三段の酒盃は江戸時代の漆器とか。お女将が屠蘇を注ぐと、鶴亀の金の蒔絵が朱から盛り上がって見える。
芸妓たちの登場である。松の内(1月元旦~15日まで)は黒の紋付きお引きずり、真紅の帯揚げ、稲穂の髪飾り。座敷がいっそう華やぐ。歌と三味線は姉さん芸妓。

会長さんの酒蔵の酒が注がれ、ほろほろと寄っていく。「さわぎ」と呼ばれる群舞が舞われる。「さあさ、浮いた浮いた・・・」舞扇がくるくると回り、重なり、離れ、お引きずりの裾がひるがえる。
舞のあとはお座敷太鼓。「一丁目」「竹に雀」まですこしずつテンポが早くなる。芸妓たちの赤いたすきがなんとも色っぽい。
客たちもお座敷太鼓に参加。「ドンドン・ツクツク・ドン。オーヤ。ドンツクドンツク・・・」外は雪。夢まぼろしの刻が過ぎていく。

 
<茶屋遊び>

通常は「一見さんお断り」といわれるお茶屋で、金沢芸妓による踊り、お座敷太鼓等の体験ができます。
目安:芸妓ひとりにつき1時間2万円。ふつう夕食後8:00~10:00の2時間がおしゃれ。舞を希望の場合は、立ち方(踊り手)である若い芸妓のほかに、お三味線やお歌の人数分の金額が必要。

『蛍屋』

ひがしの茶屋街の入口に立つ格式ある置き屋に『諸江屋』をリノベーションした浅田屋グループの料理屋。
お料理は六千円から。芸妓さんと宴会が体験できる安心価格のプランがあります。

 
『照葉』

もと芸妓のお女将が、ソムリエとしてお茶屋をワインバーにしました。ひがし茶屋街メイン通りの一番奥にあります。

松の内を過ぎると、1月16日から1月31日までは、色紋付でお引きずりになります。
そして、節分の日は「お化け」と呼ばれる特別の茶屋遊びがあります。
芸妓さんたちが変装して楽しませてくれます。
昔は若い芸妓がわざとヒゲの男性になったり、年増芸妓が子供になったりしたそうです。
お茶や遊びの料金を今日でも「一本」「二本」と呼ぶのは、昔お線香をたいてその一本が燃え尽きるまでの時間を一つの単位としていたから。やはり何とも色っぽく、特別の世界なのですね。最近は女性のお客様も歓迎してくれ、うまく楽しませてくれます。

 
『一笑』

置き屋を日本茶のショールームにリノベート。若手建築家、松島健氏の作品。訪れると必ず水出しの加賀棒茶がふるまわれる。
1,000円で加賀棒茶とお菓子、またはお抹茶とお菓子が楽しめ、旅人にとってはほっとできる時間である。