from 鳥取 – 12 - 鳥取県は新しい工芸の宝庫(その1)。~本池秀夫さんの革人形と革工芸~

(2009.03.17)

鳥取県には、因州和紙、弓浜絣など、広く知られた伝統工芸品があります。一方、近年、鳥取県の西部地域では、新しい工芸が次々に生まれ、人々を魅了しています。しかし、歴史のある工芸品に比べるとまだ知る人が少ないのが現状です。私が仕事で県内を歩き回る中で出会った方々の中から、今回は本池秀夫さんとその作品をご紹介させていただきたいと思います。

独創の革人形と革工芸 本池秀夫さんの『アトリエMOTO』

本池さんの工房にある人形や動物の作品を見ると、「えっ!こんなところまで革で作ってあるの?」と思ってしまいます。細部にわたる作品のリアルさ、表情の豊かさにいつまで見ても飽きることがありません。

このように革で人形を作るというアイディアは、本池さんの独創によるもので、「世界でただ一人の革人形師」とも言われています。

本池さんが革人形づくりを初めたのは、学生時代にヨーロッパの陶人形に魅せられたことがきっかけでした。誰を真似するでもなく、誰に習うでもなく、まず歯科医の使う器具などを改良した道具を自作され、木型に水を含ませた革を押し付け自分の手の暖かさだけで乾かしていく技法をはじめ、革であらゆるものを表現する数々の独創の技法により独自の革人形の世界を創り出されました。

「ひととき(読書)」毛1本1本まですべて革で手作りされている。読み聞かせしているおじいさんはどことなく作者に(が?)似てきているような気が…… 構想20年、制作1年。昨年末に完成したできたてほやほやの『TOYS MUSEUM』の一部。革と彫金の技法で細部までリアルに形づくられていて、特に木の表情は何度説明されても「革」だとは信じられないリアルさ。中に組み込まれたというメリーゴーランドと汽車に注目……どうなるか?は美術館で実際にご覧ください。 会場の米子市美術館前に仮設置された実物大の「キリン」(もちろん総革製で漆塗り仕上げ)。高さ6メートルもある。どうやって館内に入れるのだろうか?

また、本池さんの革製品も独自の製造技術によるもので、米子と東京青山にある直営店のほか、現在ではパリ、ミラノのコレクションへの出展や、アメリカなど欧米の市場にも進出されています。

もともと東京で活動されていた本池さんは、昭和55年に、故郷の米子市大篠津に拠点を移されました。日本海や名峰大山(だいせん)に近く、また作業場所が確保しやすく空港も近いという今の環境は「創作に最適な場所」と言っておられます。

このような本池さんの活動は高く評価されていて、地元の米子市美術館で『本池秀夫 ―革の世界―』が開催されます。今回の展覧会では、初期からの革人形作品、1990年代から始められた等身大の動物の作品に加え、今回初公開となる革に色を塗り重ねることにより創作した「革絵」、これまで本池さんが使用した3,500種類もの革素材を重ねたタペストリー、アトリエ再現コーナーなどが美術館全体を使って展開され、本池さんのこれまでの活動の集大成と言える展覧会で、まさに必見の催しです。なお、会期中は本池さんの仕事場がこのアトリエ再現コーナーに移され、実際にここで作品づくりされます。

LEATHER&SILVER MOTO 米子店
(鳥取県米子市四日市町96 TEL 0859-32-9332)
MOTOのバッグ LEATHER&SILVER MOTO 青山店
(東京都港区北青山3-10-2 TEL / FAX 03-3407-5836)

【本池秀夫 ―革の世界―】
会期 2月22日(日)〜3月29日(日) 水曜日休館
会場 米子市美術館(鳥取県米子市中町12 Tel : 0859-34-2424)
開館時間 10:00〜18:00
*会期中の毎週土曜日午後2時からは本池さんによる実演・解説が行われます。

観覧料 一般 高校・大学生 小・中学生
当日 800円 500円 300円
前売り・団体 600円 400円 200円

 
<詳細は以下のホームページでご覧ください。>

米子市美術館開館25周年特別企画展 本池秀夫 -革の世界-(米子市美術館)

米子市美術館

アトリエMOTO

筆者プロフィール

渡邉比呂志(わたなべ・ひろし)

「さかなと鬼太郎のまち」境港市に生まれ、大阪で学生時代を過ごし、今は鳥取県市場開拓室で地元の弓浜絣を初めとした伝統産業の後継者育成や販路開拓を担当。一方で新しもの好きでもあり、「古き良き鳥取県」と「新しき素晴らしき鳥取県」を共にPR中。新幹線と同い年で年代的にはパンク第1世代。「好きです!パンク!(本当です。)」
写真は、弓浜絣の原材料にもなる弓浜半島(米子市・境港市)特産の伯州綿(はくしゅうめん)の種繰り(綿から種を取る作業)をする筆者