from 北京 - 33 - 胡同に佇む、こだわりの雑貨店
『失物招領 Lost&Found』

(2012.10.17)

爽やかな北京の秋、街歩きに最適な一押しスポット

ニイハオ。北京はすでに秋から冬に季節が移り掛かっていますが、9月から11月に掛けての北京は、穏やかな陽射しに色づく木々、一年で最も爽やかで美しい季節です。この季節は国内外、各地からの観光客も多く、私の友人も今年は多く訪れてきてくれました。その観光名所巡りの中で見つけた、お気に入りのお店を紹介します。

その場所は、今もなお昔ながらの北京の風情が息づく街、国子監街。中国歴史文化名街に指定され、近くには孔廟や北京最大のチベット仏教の寺「雍和宮」があり、参道らしくお線香を売るお店やお土産屋さんが軒を並べる観光地です。しかし、その小道(胡同)を入ると、北京の庶民の暮らしの残る街。露店で野菜売り、軒先でのんびりと語らう老父の姿、路地に干された洗濯もの、暮らしの温度を感じる光景がなんともノスタルジーを感じさせます。最近では、この古き良き街の魅力に魅せられた欧米人やアーティストが、カフェやバー、センスのいい雑貨屋さんなどを次々にオープンし、新旧の魅力が混在するエリアと姿を変えて来ています。

お店の周りには、赤い壁と木々の緑、伝統的な中国の風情を感じさせます
時代の流れの中で失った、忘れ物を見つけに…“Lost&Found”

そんな国子監街に店を構えるのが、今回紹介する「失物招領 Lost&Found」です。

何度かお店に足を運ぶうちに、オーナーにお話をうかがうことが出来ました。台湾人女性オーナーの李若帆さんは、元ジュエリーデザイナーという経歴の持ち主。1997年、ご主人と共に小さなカフェ『彫刻時光』を北京にオープンしたところ、有名クリエイターが集う話題のお店に。今では、20軒ほど展開する規模になっているそうです。そのカフェ『彫刻時光』で、世界を旅して見つけた小物を販売していたところ、彼女のセンスに多くのファンが共感し、自然のなりゆきで始まったのが『失物招領 Lost&Found』だそう。

お店に並べられる商品のベースは、’50〜’60sの中国のイメージ。ポジティブなエネルギーに満ち溢れ、またモノを大事にしていた時代。その当時の暮らしにあった、シンプルながら丈夫で、温かみのある道具をテーマに、オリジナル家具やセレクト雑貨が並んでいます。急速に進化する消費文化の中で失われた、美意識や精神を再発見し、地に足のついた暮らしを提案する…ショップ名は直訳すれば「忘れ物預かり所」ということもそれらに由来しているのだそう、納得です!

周囲の環境に溶け込むように存在する、素敵なお店です
暖かみのある内装の店内、ここが中国であることを忘れてしまいそうです
胡同に溶け込む素敵な空間、こだわりのオリジナル家具

お店の周りは、街路樹が美しい通りになっています。その中に溶け込むように在る、穏やかな雰囲気に誘われるように、店内へ。ガラス張りの天井から差し込む光に、美しい木目の床。こんな空間が北京にもあったのか!と、正直驚いてしまいました。

店内に入って、まず目に飛び込んでくるのが、オリジナル家具。木の素材感を生かした家具は、すべて職人さんの手仕事によるものだそう。きれいな曲線となめらかな手触りから、丁寧な仕事が伝わってきます。オーナーの李さんは、自らのこだわりのオリジナル家具を実現するために、工場を探し歩いてやっと辿り着いたとのこと。その中でも、難しかったのは、理想とする想いと商品の質感を職人さんに理解してもらうことだったそう。うーん、スゴく分かる。(苦笑)そのこだわりの賜物か、妥協を許さなかったその家具には、削ぎ落された美しさが存在しています。

ちなみに、洋服掛けを探していた私、シンプルなハンガーラックを購入しました。なかなか思うものが見つかりませんでしたが、かなりのピンポイント!でツボを突かれて、衝動買い。本来は注文制作のところ、ちょうど店頭にあった現品を購入。そのまま担いでタクシーに積みこんでお持ち帰りしました。

家具だけではなく、アパレル類なども充実した店内
使った時のイメージが湧きやすいよう、ディスプレイも良く考えられています
日本のブランドもセレクトされ、人気に

その他にも、オーナーがセレクトした雑貨や台湾人作家ものの陶器類がたくさん。デザインランプやオブジェなどのインテリア雑貨、インドの職人さんによるオリジナル手染め布、綿や麻素材の洋服など。そして、びっくり! 日本のブランドもありました。「fog linen work」のリネン製品や雑貨、カリモク家具の「カリモク60」などが並んでいます。どれも息長くに使えそうなものばかり。李オーナーは日本の品質や日本の文化にも造詣が深く、本当に色々詳しい。今気になっているというブランドや作家さんの名前を聞いて、ビックリしてしまいました。ちなみに、過去には『Casa BRUTUS』にも取り上げられたそうで、掲載誌を見せてもらいました。

今の中国は発展ばかりが目立って、ニョキニョキと各地で高層ビルが建設されてゆきますが、足下を見れば、古き良き街並みを残す通りがあり。そこに溶け込むように素敵なショップがあって、新しい価値観が根付き育っていると知って、思わず取り上げたくなったのでした。こういう一面を見ると、やっぱり北京に住んでいて良かったなあと思うのです。