from パリ(石黒) – 7 - パリ、アート散歩。《4》コンテンポラリーアート・ウィーク

(2009.10.30)

10月第3週目のパリは、コンテンポラリーアート尽し。グランパレとルーブル中庭を会場とするFIACを中心に、4つのOffフェアがパリ中で開催。1週間前にロンドンで行なわれたFreize Art Fairを引き継ぎ、コンテンポラリーアートの波がパリへ押し寄せてきます。

今年で36回目を迎えるFIACは、21カ国から198のアートギャラリーが参加する、世界トップレベルのフェア。グランパレでは、20世紀初頭から半ば頃までのモダンアートと、まさに現代作家のコンテンポラリーなインスタレーションが半分ずつくらいの割合で展示。ルーブル中庭の方は、もっと現代に近い作家をメインにギャラリーが作品を紹介しています。

招待客に先駆けて公開される水曜日のヴェルニサージュですら、「人を掻き分けて進む」勢いなのですが、木曜日から日曜日までの4日間の一般公開では、毎日入場待ちの列ができていたとか。週末は、2時間待ち覚悟。そもそもこの規模で、4日間の開催は、短すぎるのでは?との疑問も。

FIACの周りを巡る衛星のように、今年は4つのOffフェアが開催。グランパレのすぐ横、アレクサンドル3世橋のふもとに、FIACに対して最初のOffフェアであるShow off 。グランパレからシャンゼリゼ沿いには、Art Elysées 。新たな複合的文化施設として注目を集める104(Cent Quatre)で、Slick 。そして、今年始めて開催されるCutlog は、1区のBourse du Commerceにて。FIACだけでも、かなりの量にのぼる上に、Offフェア4つ全部を回るには、時間が足りません。ということで、今年は、FIAC、Slick、Art Elyséesと、3つのフェアを見てきました。

客層で語ると、FIACはbling bling(もう死語な感じもしますが)な雰囲気。英語でいうと、glitter(ギラギラ)。世界的レベルのアートギャラリーが軒を連ねるこのサロンは、観客ウォッチングも結構楽しい。2008年は、6万5千人の入場者を数え、2007年と比べ、9パーセント増。今年の数字をまだ目にしていませんが、2009年は、前年をさらに上回っているような気がします。

パリ・コンテンポラリーアート業界のbling blingトップスターといえば、エマニュエル・ペロタン(Emmanuel Perrotin) 。現在ヴェルサイユ宮殿に展示中のグザヴィエ・ヴェイランの作品をどどーんと展示。ヴェルサイユの展覧会もペロタンが協賛しています。ちなみに来年は、これまたペロタン・ギャラクシーのスター、村上隆がヴェルサイユを飾るのだとか。
とあるスタンドの床に突然、積み重ねられた小箱たち。気をつけないと、思わず踏んでしまいそうです。
左(奥)からぶら下がった手は、指で1、2、3と数えています。思わず触りたくなってしまうのは、私だけでしょうか……。
こちらは、イギリス人彫刻家、トニー・クラッグ(Tony Cragg)のガラス作品。彫刻はジャンルとして、あまり良くわからないのですが、このくらいの大きさの作品は、好きです。

世界的不況の影響が危ぶまれた2008年にも、なんとか持ち堪えた2008年のパリ、ヨーロッパのコンテンポラリーアート市場。その理由として、イギリスとアメリカでの市場減少を指摘するのは、FIACのアートディレクターであるジェニファー・フレイ氏。2009年のトレンドは、「ノーマルなものへの回帰。コンスタントな売買と、確かな論拠に裏付けられた市場の安定」とのこと。確かに、FIACを見た印象としては、ギャラリーの多くが「確かな価値」ある作品を展示している傾向にありました。

シャンゼリゼ通りに、クレマンソー広場からコンコルド広場へ向かって設営された、長細い仮設会場。中は、うなぎの寝床のよう。

Art Elyséesは、約70のアートギャラリーを集めるフェア。FIACの目と鼻の先にあり、また今年で3回目という新しいフェアなだけに、FIACの影に隠れてしまいがち…。あまり期待していなかったけれど、コンテンポラリーアートよりも、両大戦間から60年代までのモダンアートが頑張っていて、意外に楽しめました。とんがったコンテンポラリーを期待している人には、ちょっと物足りないかも。いずれにしても、今後に期待。

セルジュ・マンジィスキ(Serge Mendjisky)というアーティストの作品。写真を縦方向に裁断して、組み立てなおす手法。写真の被写体にもよりますが、この作家は私好み。ニューヨークを写したシリーズは、フェア2日目にして、ほぼ完売のシールがついてました。
ハンガーと、椅子の背のような、両開きする扉のような木材を組み合わせた作品。ちょっとツボにはいってしまいました。

私の好みから言うと、内容的には、全くボツな作品群なのですが、このページに色が欲しいなぁと思って、撮ってみました。内容がなくても、色に助けられるってこと、ありますね…って、抽象画はまさにこの発想から生まれているんですが、そう捉えなおすと、これらの完全物質主義的作品にも、違った面が見えるのかも???

アーティストレジデンスも提供している複合文化施設の104(Le CENTQUATRE) では、今年4回目となるSlickが、61のアートギャラリーを集めて開催。Offフェアの中では、若いアーティスト達の、出来立てホヤホヤな、とがった作品が見られる場所。コンテンポラリーアートシーンにおいて、ますます重要な位置を占めるSlickは、今年からArte/Slick賞を創設したりと、その勢いは留まるところを知りません。

2008年にパリ市の文化施設として開設した104 CENTQUATREは、建物の面しているオーベルヴィリエ通り104番地から、その名をとっています。複合的な芸術文化活動の発信基地として、創意に富んだプログラムが展開されています。

どうも最近、写真に興味が魅かれて、写真の写真ばかり撮ってしまっています。それにしても、中国人フォトグラファーの活躍は(も)目覚しいですね。右の写真は、フォトグラファー、トム・レイトン(Tom Leighton)の、渋谷とパリの風物をうまくミックスしたもの。Slick/Arte賞ノミネート作品です。

家庭でよく見かけるIKEAのマグネット式ナイフラック。日常の光景ですが、ナイフが多すぎ。ナイフの刃の部分に、Hit me baby one more time(もう一度、あなたの虜にして、ダーリン)とかNe me quitte pas(私を捨てないで)とか、有名なポップスのタイトル、歌詞が刻まれています。無邪気なフレーズも、ナイフに刻まれると、思わぬ奥行きがでてしまいます…。
パフォーマンス中のアーティストさん? パリ市清掃局の作業服を着て、ヘンデルの四季の音楽に合わせて、床に散らばった紙くずを、床に寝転がり、ラッパを鳴らしながら、そのラッパでかき集めていました。

コンテンポラリーアートは、模範的な「美術」の枠組みを飛び出したところで、何ができるのか、そして何を表現したいのか、を問う活動。時には、とっても哲学的な作品もあったりするんですが、理論的な事は抜きで、好き、嫌い、の直感で語っていいものだと私は思っています。そして、作品を体験したり、作品と対話したりする、「今」の要素を楽しむのが、コンテンポラリーアートの醍醐味。怒涛のコンテンポラリーアートフェア週間は、そんな事を感じながら、あっという間に過ぎていきました。来年は、どんな作品に出会えるのでしょうか。