from 山梨 – 4 - 山梨のぶどうで日本のワイン その2 ~シャルドネ収穫~

(2009.10.16)

ワインがぶどうから作られていることは、ワインを飲むようになる以前の私でも知っていました。
では、どうやって作るのかと聞かれると、そこはなんとなく、いや、だいぶ怪しい。
「ぶどうの果汁を発酵させるとワインになるんだよね?」とまあこんな程度で、しかも語尾が上がってしまう。

ワインの製造工程を、限りなくシンプルにざっくり書くと

ぶどうを作る

収穫して実を潰す

発酵させる

ということになります。
ですが、このシンプル工程をもう少しだけ詳しく書こうとすると、「赤ワイン」と「白ワイン」に分ける必要が出てきます。

「赤ワイン」 「白ワイン」
赤ワイン用のぶどうを作る 白ワイン用のぶどうを作る
収穫して実を潰す 収穫して実を潰す
発酵させる 搾る
搾る 発酵させる

(1)「ぶどうの種類による違い」
赤ワインの原料になるぶどうは、果皮に十分な色素を含んだ黒ぶどう。
白ワインの原料になるぶどうは、黄緑や薄紫など果皮の色が薄い白ぶどう。

(2)「製造工程による違い」
赤ワインはぶどうをつぶして果皮ごと発酵。
白ワインはぶどうをつぶして果皮を取り除き、果汁だけを発酵。

先日、白ワイン用のぶどう品種であるシャルドネ収穫のお手伝いをさせていただく機会がありました。

一粒一粒がゴールドを包み込んだようなシャルドネ。

山梨のワインと言えば、日本固有のぶどう品種である「甲州」が有名ですが、その他のヨーロッパ系品種の栽培も積極的に行われています。
この日伺った場所は、山梨県北杜市明野にある中央葡萄酒株式会社明野農場。
標高1,704mの茅が岳山麓にある明野は、日本一を誇る日照時間の長さから「太陽の村」と言われるほど。
7月から8月にかけては、あたり一面がひまわり畑になる「北杜市明野サンフラワーフェス」が開催されています。

北杜市明野サンフラワーフェスのひまわり畑。

 

日照時間の長いこの場所はぶどうの栽培にも適していて、あちらを見てもこちらを見てもぶどう畑。
……とっても広大なぶどう畑。
……たくさんのぶどうが実っているぶどう畑。

 

全貌が収まりきらない、広大なぶどう畑。

収穫用のハサミを手渡され、収穫の仕方の説明を受け、「じゃあこの列をお願いしますね」と言われ、ぶどうの垣根の中にひとり残された瞬間、「…ほんとに全部手作業?」という一抹の不安が頭をよぎりました。
しかし、一抹の不安も何も、黙々と収穫作業をしていらっしゃるワイナリーの皆さんの姿を見れば、それ以外の選択肢がないことは一目瞭然、ああこれはぶどう狩りじゃなくてぶどうの収穫なんだなと、その言葉の違いをかみしめ…ている暇などなく、速やかに収穫作業スタート。

垣根の下に実ったぶどうを、ひと房ずつ手作業で収穫します。

ぶどうは垣根式で栽培されていて、房は垣根の下方についています。
ここからぶどうの房をひと房ずつ、ハサミを使って収穫していくのです。
そして、収穫したぶどうには病気になっているところやカビが生えているところがあるかもしれないので、それらをチェックして、見つけたら取り除いていきます。
一緒に、ぶどうについている虫も取り除きます。

ひと房ずつ採って……。
ダメなところを取り除きます。

そして、ダメな部分を取り除いたぶどうをカゴに入れていきます。
収穫は、ただひたすらこの作業の繰り返しです。

収穫したぶどうと、収穫用のハサミ。

「(いろんな意味で)大丈夫なのかな?」と思っていた収穫作業ですが、ダメなところを取り除くというあたりが私のA型魂を刺激したようで、ハサミがぶどうの枝を切る「パチン、パチン」という心地よい音を聞きながら、あっという間に作業に没頭。

ぶどうの房を2つ3つに切り分けて、房の奥に潜んでいる傷んだ部分までをもかき出して取り除きつつ「こんなにキレイにはねてたら歩留まり悪くてしょうがないんだろうなあ。こんなに楽しい作業、子どもの頃なら、あたし大きくなったらワインを作る人になる! とか言っちゃいそうだけど、大人になると好きなことを仕事にするのがどんなに大変かってことがわかってくるのよねえ。ここで、ワインを作る人になる!なんて言わないのが、大人になった証拠なのかもしれないなあ」なんてことをぼんやり考えてみたり。
気付くと、作業前には「無理かもしれない」と思っていた1列の収穫が終了、その後も場所を移して収穫作業が続きました。

収穫が終わったぶどう畑。
ひとつのカゴに、約10キロのシャルドネが入っています。10キロ×200ケース=2トンの収穫

作業が終盤に近づくと、収穫したぶどうの入ったカゴが順次一箇所に集められていき、計量が行われます。
この日の予定収穫量は2トン。
ぶどうを圧搾するタンクの容量が2トンなんだそうです。

 

収穫作業は、以上で終了。
ここ明野農場では、9月上旬から収穫が始まるシャルドネを皮切りに、遅い時は11月くらいになるカベルネまで、3ヶ月ほどぶどうの収穫が続くそうです。

 
この日案内してくださったのは、中央葡萄酒株式会社のワインメーカー、三澤彩菜さん。
三澤さんは、ボルドー大学ワイン醸造学部DUADを卒業し、フランス栽培醸造上級技術者の資格を持つ女性醸造家です。

収穫作業中の三澤彩菜さん。

中央葡萄酒株式会社は勝沼と明野に農場があり、ここ明野農場では今回収穫したシャルドネの他にメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、ピノ・ノワールを栽培しています。
また、今年の春からは垣根式による甲州の栽培もスタートしました。
明野農場の近くには中央葡萄酒株式会社ミサワワイナリーがあり、ここではミサワワイナリーとしてのオリジナルワインも作っています。

ミサワワイナリーオリジナルワイン。
試飲カウンターもあるミサワワイナリーのショップ。

山梨県に引っ越してきて最初に飲んだ山梨のワインが、実は中央葡萄酒株式会社の「グレイス甲州」で、その後「グレイス甲州鳥居平」「茅が岳(赤)」「茅が岳(白)」と続きました。
たくさんのワイナリー、たくさんのワインがある中で、ワインの選び方も知らない素人がなぜこんな偏った選び方をしたのかというと、近所のスーパーマーケットで一番最初に目に付いた「グレイス甲州」を飲んでみたら美味しかったので、じゃあ同じワイナリーのワインをいくつか飲んでみようかな、という理由からでした。
透明感というのかクリアな感じというのか、上手く表現できないけれどもそういうところが気に入って、特に「茅が岳(赤)」については、実はそれまでどちらかと言えば苦手だった赤ワインを一気に「好き」まで引き上げてくれたその透明感を楽しみつつ、リピートまでして飲んでいたのです。

この日、三澤さんのお話の中に、「(ワイン作りにおいて)色も味も、透明感を大事にしてるんです」という言葉がありました。
「だから、ぶどうの収穫においても、病気にかかっているところなんかは丁寧に取り除くんですよ」と。
なるほど、以前感じた透明感はこういう事だったのかと、これはとっても嬉しいお話でした。
(そして、収穫中に「こんなにキレイにはねてたら歩留まり悪くてしょうがないんだろうなあ」と思いながらも全部はねていた私の仕事は、どうやら正しかったようです)

三澤さんのお話からは、ぶどう作りに対するとても繊細な気遣いが感じられ、改めて「ワインはぶどうから作られている」ということを実感。
と同時に、創業1923年の中央葡萄酒株式会社の中で、2002年開園のこのミサワワイナリーというのは、その若さとフットワークの軽さ、そして繊細さをもって「ぶどう畑からのワイン作り」に日々挑戦しながら取り組んでいるワイナリーなんだなと感じました。

前述した、甲州ぶどうの垣根式栽培への取り組みもそのひとつ。
フルーツ農園のぶどう狩りでも見られるように、国内の生食用ぶどうは頭上に房がなるぶどう棚での栽培が一般的で、生食とワイン醸造の両方に使われる甲州も通常は棚式で栽培されています。
この甲州から作られたワインは、和食にも合う「繊細でまろやかな味わい」が評価されている反面、白ワイン専用品種のぶどうから作られたワインと比較すると「果実香が乏しく味わいも平板」と評されることにもつながっていて、このどちらも、確かに私自身が甲州ワインを飲んで感じることでもあるのです。

今回ミサワワイナリーが甲州ぶどうに導入した垣根式栽培は、ヨーロッパにおけるワイン用ぶどうの栽培においては一般的な方法で、収穫量は減るもののワイン作りに適した濃厚なぶどうの栽培が期待できるというもの。

今年の6月、中小企業庁による「JAPANブランド育成支援事業」(地域産品の輸出を促進するため、世界に通用する地域産品のブランド力(「JAPANブランド」)の確立を目指し、地域の小規模事業者等と外部から招聘した輸出産品プロデューサー等が一丸となって行う取組に対して支援を行う事業)の中の、「ブランド確立支援事業」に

 

「甲州ワイン」のEU輸出プロジェクト

世界的な和食ブームを背景に品質の高さが認められワイン評論家やジャーナリストから注目されている日本固有の「甲州ぶどう」から造った「甲州ワイン」をワインの本場EU市場に輸出することで「甲州ワイン」の世界的に認知とともに、産地確立や市場拡大をねらう。

が採択されました。http://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/chiiki/japan_brand/index.htm
甲州ワインが「JAPANブランド」としてEU市場へ進出していく中でスタートした、白ワイン専用品種を見据えた甲州ぶどうの栽培は、「和食にはやっぱり甲州が一番」と思っているものとしてもとても楽しみなことです。

(少し話はそれますが、ここ明野農場の開園祭の際には、1966年の映画「男と女」に出演されていた、俳優でありシンガーソングライターでもあるピエール・バルー氏が、なんとこの場所でシャンソンを歌われたんですね!
ブラジル音楽ファンの私にとって、ピエール・バルー氏の制作したドキュメンタリー「ピエール・バルーによるブラジル音楽への私的旅行ドキュメント1969 SARAVAH」は大変興味深く、また、彼の目を通して見た素のままの1960年代ブラジル音楽シーンからは非常に大きな影響を受けたものです。
ピエール・バルーという名前を聞いただけで、このドキュメンタリー映画の映像と音楽が脳内で流れ始めるのは、もはや止める事のできない条件反射。
今回、山梨→ワイン→ピエール・バルー氏というつながりを発見して、心の底から驚きました。)

中央葡萄酒株式会社ミサワワイナリーにはレストランも併設されていて、地元食材を使ったお料理と、そしてもちろんワインを楽しむことができます。
この日はレストランで、「グレイス甲州2001」を頂きました。

グレイス甲州2001

もう市場にはない貴重なワインを味わいながら、長い時間を経た甲州はこんなにもまろやかになるのかと驚くとともに、今から8年前、このワインのために甲州ぶどうを摘んだ人々がいたんだなあなんてことを考えていました。
 

レストラン彩

Tel.0551-25-4487
山梨県北杜市明野町上手11984-1 ミサワワイナリーに併設。
11:30~16:30(L.O.15:30)、17:30~21:00(L.O.20:30)※前日までの予約制(5名様以上は2日前までにご予約ください。)
水休 ※祝日の場合は営業