from 北海道(道央) – 48 -  「ワインツーリズム」が結ぶ、山梨と北海道との絆。

(2011.03.05)

勝沼ぶどう郷「ぶどうの丘」の地下「ワイン・カーブ」にて。値段の高いワインは無理にせよ、これほど多くの種類のワインを試飲できる施設を作ることができるのは、醸造所や生産量などから考えると、恐らく国内でも山梨以外には難しいだろう。山梨県にとっては、1か所で県産ワインを味わっていただくための大きな「財産」だと、自分は思う。

「山梨」と自分との出会い。

自分が生まれて初めて山梨の地に足を運んだのは、2004(平成16)年7月。記録的な猛暑であり、とてつもない暑さが続いた中での3日間の一人旅でした。

武田信玄公(1521-1573)の足跡を辿ろうと、JR甲府駅からちょうど再現工事が始まった舞鶴(甲府)城公園、長禅寺、能成寺、東光寺を、炎天下に歩いて周りました。

そう。山梨の歴史に触れつつ、「ワイン生産者」の皆さんに直接お会いしてみようと考え、約束をいただいた上でワイナリーごとの生産に対する熱い思いをお聞きすることができたことは、その後の自分自身の人生にとっても、大きな転機となった「旅」でした。

JR勝沼ぶどう郷駅を出て左手に約20分歩けば、718(養老2)年に行基(ぎょうき。668-749)によって建立された「柏尾山大善寺」があります。そこには、葡萄を手にした木彫りの仏像があることを、とあるワイナリーのオーナーに教えていただき、早速歩いてみたことも印象に残る思い出です。

もちろん、「勝沼ぶどう郷」で「ぶどうの丘」に宿泊し、露天風呂、夜のレストラン、そして「タートヴァン」を首からぶらさげ100種類以上常時置かれている山梨県産ワインを楽しむことができたことは、山梨の魅力の一端を堪能できた瞬間でもありました。

ちなみにそのときの「旅日記」は、『歴史とワイン、多様性の意味を考える旅』として取りまとめ、旅でお世話になったワイナリーさんに寄贈させていただきましたが、もう残っていないだろうな(笑)。

(参考)「北海道ワイン街道」へとつながる夢。

2月の勝沼ぶどう郷駅から眺めた「ぶどうの丘」方面。澄み切った空気が、山の稜線をしっかりと浮かび上がらせている。けど、足許から冷える寒さは、北海道人にとっても厳しいもの(苦笑)。
JR甲府駅を県庁側に出ると、右手に「武田信玄公」の像が。山梨県では必ず「信玄公」と「公」を付けて敬うのだと、かつて聞いたことがある。

「宿泊」してこそ理解できる、「街の魅力」。

その後、自分は北海道に異動となり、「『北海道ワインツーリズム』推進協議会」に関わることとなり、その立ち上げに当たって「ワインツーリズム山梨」さんとのコンセプトの共有、またその後も、双方の取組状況について協議会事務局長の阿部眞久(あべ・まさひさ)さんらとともに情報交換を進めてきました。

山梨には東京勤務時代、最初の旅がご縁となり、その後も夏場はワイン用葡萄収穫のために何度も足を運んでいました。ところが、甲府市内に宿泊する機会は残念ながらこれまで一度もありませんでした。

今回、「ワインツーリズム山梨」さんとの意見交換に際し、甲府市でワイン用葡萄の栽培を手がけている奥田大輔(おくだ・だいすけ)さんが、「ワインツーリズム山梨」の活動拠点でもある『Four Hearts Cafe(フォーハーツカフェ)』にて懇親の場を設けてくださったことから、お誘いをお受けして、甲府市に宿泊することに。

朝早くに小樽市を出発し、飛行機、モノレール、JRで新宿から甲府に到着する頃には、16時30分を回ったところでした。

その土地を理解するためには、やはり「宿泊」してみて、「夜」の街を徘徊することが重要であることを、実感!!

というのも、北海道では見かけたことのない「おにぎり」とういう赤提灯や暖簾が目に飛び込んできて、「おにぎりだけを提供するお店なのかなぁ?」と素朴な疑問。懇親会でその話をしたところ、「ワインツーリズム山梨」の仕掛け人でもありフォーハーツカフェのオーナーでもある大木貴之(おおき・たかゆき)さんは、『ワインツーリズム2010ガイドブック』を見せてくださり、「山梨では、お酒を飲んだ後にはおにぎり屋さんで、新潟コシヒカリを使ったおにぎりやお茶漬けなんですよ」と教えてくださった。

また、第5回「B級ご当地グルメの祭典・B-1グランプリ」で最高賞を受賞した「甲府とりもつ煮」の幟が市内のあちらこちらに見られ、やはり泊まってみて、味わってみてこそ「その街の魅力」を知ることができるということを、確信したのです。

宿泊した「ドーミーイン甲府」には、「松林軒豊嶋」という看板がかかった和菓子屋さんが、なぜかその一角にある。『ワインツーリズム2010ガイドブック 甲府中心編』には、現在ホテルの建っている場所は、「甲府で初の本格的な百貨店」松林軒ビルであったことが記されている。1832(天保3)年に鈴木音兵衛氏によって作られた和菓子屋さんとのこと。残念ながら、到着した時間帯には店が閉まっていた。
とある中小路を覗いたところ発見した「おにぎり」の赤提灯。「なぜに、おにぎり???」という疑問が生じた(笑)。
こちらには「かにや銀座店」という暖簾。なるほど、山梨県の皆さんは、お酒を飲んだ後には札幌人のように「ラーメン」ではなく、おにぎりやお茶漬けなのかと納得。

 

甲府駅を出て直ぐに「もつ煮」という看板や暖簾を発見した自分の部下である廣川まどかは、ホテルへの道中「もつ煮~」「もつ煮~」と、「私、もつが大好物なんです」と盛んにアピール。やむなく(笑)、懇親会までの僅か20分の間、「甲州居酒屋さけくら」さんにて「もつ煮」をいただく。お店には、もちろんワインも置いてありました。
『ワインツーリズム2010ガイドブック』。「甲府中心街編」や「甲府バスルート編」など、用途に応じて活用できるように工夫されている。

語らうことを通じて、お互いを理解する。

懇親会では、奥田さんが「渡辺さんが白ワインに目覚めたという一本、用意しておきましたよ」と、丸藤葡萄酒工業さんの「ルバイヤート甲州シュール・リー」 、奥田さん秘蔵の「ルバイヤートワイン誕生50周年記念ワイン」、岡本英史さんが経営するBEAU PAYSAGEの幻の1本などなど、これぞ山梨ワインの真髄というワインとともに、山梨県産料理を堪能。

「北海道では行政が『ワインツーリズム』に関わると聞いて、心配だったのですが、渡辺さん自身がワイン好きであることを様々な場面で知り、安心していました」と、笑顔で語られた奥田さん。

そして、さらに驚きだったのは、山梨県・清里にある「萌木の村(もえきのむら)」代表取締役で、国土交通省観光カリスマに認定されている舩木上次(ふなき・じょうじ)さんが登場され、「「活性化」とは何ぞや?」という質問を自分に浴びせかけ、自分自身が常日頃考えている考え方に間違いはないことを、確信させていただくことができました。舩木さんがおっしゃる通り、「活性化」を含めて「定義」の解釈が人によって異なっているとすれば、活動が進んでいけばいくほど、ベクトルは拡散していくことにもなりかねないことを、再認識させていただきました。

翌日の「ワインツーリズム山梨」と「『北海道ワインツーリズム』推進協議会との意見交換会では、山梨県庁観光部の佐藤浩一(さとう・ひろかず)副主査にも同席いただき、これまでの双方の取組状況、今後の活動方針のほか、双方向でのツーリズムの構築の可能性など、より具体的な提案などもなされ、約3時間強に及ぶ極めて有意義な意見交換が行われました。

なお、佐藤さんからの情報によれば、東京・日本橋には昨年12月に『レストラン Y-wine(わいわい)』という、あの田崎真也ソムリエと山梨県とのコラボレストランがオープン。「山梨県の豊富でクオリティの高い食材」を田崎さんは意気込んでいるそうです。

(参考)「北海道ワインツーリズム」推進協議会HP

「フォーハーツカフェ」で開かれた懇親会。写真左から奥田大輔さん、大木貴之さん、舩木上次さん、筆者、阿部眞久さん。
山梨県産ワインを始めて口にした廣川まどか(写真右から2番目)が、県産ワインや食材を使った料理提供に携わる大木さん(写真左から2番目)、「北海道ワインツーリズム」推進協議会事務局長でありシニア・ソムリエでもある阿部さん(写真左)、ワイン用葡萄生産者である奥田さん(写真右)に、次々と質問を浴びせかけるが、皆さん丁寧に回答してくださった。
「ルバイヤートワイン」の由来である11世紀のペルシャの四行詩集『ルバイヤート』から命名された経緯を裏エチケットに記載された、甲州種100%、3,077本限定醸造の大変貴重な「ルバイヤート50周年記念ワイン」を、奥田さんは我々のためにご用意くださった。立ち込める芳香は、まさに勝沼や塩山といった駅を降りた瞬間、土地から香る葡萄の繊細な香りそのものであった。もちろん、上品な仕上がりで、味も驚くほど洗練されていた。
「折角なので、変わったところを味わってもらいたい」という大木氏は、それぞれのワインの特徴を伝えてくれた。
2007年に3分冊で発刊した『br』と「山梨ワイナリーマップ」がセット販売されている。『ワインツーリズムにでかけよう』BOX SET。それぞれのワイナリーの生産者の皆さんに視点を当て、どのようなワイン造りを目指しているのかを知るための参考書。
3時間強にわたって山梨と北海道の「ワインツーリズム」の取組内容や課題などを熱く語り合った。写真左から笹本貴之(ささもと・たかゆき)さん、大木貴之(おおき・たかゆき)さん、佐藤浩一(さとう・ひろかず)さんと意見交換を進める阿部事務局長と筆者。

「交流」の継続が、「絆」を育む。

2月に山梨に足を運んだことは、人生初の体験でしたが、約7年前にはまだまだ造り始めだった「舞鶴(甲府)城公園」の整備もかなり進み、山梨県側から山頂に雪を冠った「富士山」を眺めることもでき、改めて山梨県という土地の魅力の一部を感じることができました。

山梨県には、何といっても「歴史」があり、比較的狭い地域内にワイナリーが点在していますが、北海道の「歴史」は浅く、広大な土地に点在するワイナリーが所在する地域ごとに魅力ある食材やレストランなども存在します。

北海道のワイン愛好家が山梨県を旅してみて、白ワインであれば「甲州種」、赤ワインであれば「マスカットベリー」など、北海道産ワインとは異なるセパージュを楽しみつつ、双方の個性を自ら感じ取り、そのような動きが拡がることにより、日本全体の「ワインの品質向上」、ひいてはニューツーリズムの創出による副次的効果を含めた経済効果も高まることが期待されるのではないでしょうか。

いずれにせよ、人と人、組織と組織の交流は、「継続」していくことが絆としての「力」となり、さらにその「輪」が拡がっていくことによって、「新たな価値」を創造していくことにつながるのではないかと感じた、今回の山梨県訪問でした。

今回の山梨県訪問でお世話になりました多くの皆さまには、誌面をお借りして、改めて感謝とお礼を申し上げます。ありがとうございました。

舞鶴(甲府)城公園は、ゆっくりではあるが、整備を進めている。甲府市の玄関口にあり、ここから眺めることができた富士山は感動モノでした。
様々な看板や構造物が若干景観を阻害している感はあるが、くっきりと冠雪した「富士山」が見えた。甲府から見る富士山は、ある意味格別な思いを胸に抱かせてくれた。