Par-delà le Pont – 5 - サン・ルイ橋(Pont Saint-Louis)愛されるゆえに、壊れ続ける橋。

(2011.02.21)

こんにちは!

立春は過ぎたものの、まだまだ寒い日が続いていますね。
みなさまは、風邪などひかないでお元気に過ごされていますか?
寒いと、どうしても身体が縮こまってしまいますよね。
ふわっと身体全部を優しく広げてくれる暖かい春が、待ち遠しいのです。

ところで、パリから南にくだった地中海沿岸の街ニースでは、
カーニバルが先週の2月18日から始まりました。

このニースに、ヴェネツィア、ヴィアレッジョのカーニバルを合わせて
「ヨーロッパの三大カーニバル」と呼ぶ人もいるみたいですが、
この三つはすべて、2月に開催されるんですねー。
日本ではお祭りというと夏のイメージがありますが、
本当は冬にこそお祭りが必要なのかもしれません。

寒さで閉じた毛穴や心を開放して、明るく楽しい気分にさせてくれるお祭り。
冬だけでなく少しテンションが落ちた時なんかにも、お祭りの気分を思い出すと、
知らない間に笑顔が戻ってエネルギーが湧いてくるのでしょうね。
本当は一年中お祭り的な楽しい気分でいたい気もしますが、それはなかなか難しいのかな?

さて、セーヌ川に架かる、パリ市内30本の橋を追っていく連載。
「マレ/シテ島地区」シリーズ・第5回目の今回は、サン・ルイ橋を渡ります。
どうぞよろしく、お付き合いいただけたら嬉しいです。

サン・ルイ島から。橋の先がシテ島。左端はノートルダム寺院。

前回ご一緒したトゥルネル橋を、左岸からサン・ルイ島に渡ってから、セーヌ河岸をゆっくりお散歩していくと、数分で島の西端に着きます。ここでシテ島へと道をつなぐのが、サン・ルイ橋です。

この橋を境にして、辺りの雰囲気のトーンはかなり変わります。シテ島側は島内のノートルダム寺院や(マリー・アントワネットが処刑される前に過ごした)コンシェルジュリーやパリ警視庁なんかがあって、観光客らしき団体の外国人が目立つ中、浮き浮きとした空気にあふれています。一方でサン・ルイ島側は地元の人が多くて、落ち着いて過ごしたそうな気配を漂わせながら一人で河岸に座っていたり、あてもなさげに散歩していたりといった感じです。シテ島側がお祭り的、サン・ルイ島側がお祭りを眺める貴族の観覧席的、とも言えるのかもしれません。

さて、二つの島を結ぶ唯一の橋であるサン・ルイ橋。建設されたのは1970年ですが、では40年前まではシテ島とサン・ルイ島の間に橋が架けられたことはなかったのか?というと、そうではありません。サン・ルイ橋は、この二つの島の間に架けられた最初の橋から数えると、7番目の橋になるんです。

はじめてこの場所に橋が架けられたのは1630年。サン・ランドリー橋という名前の木製の橋だったのですが、なんと1634年にノートルダム寺院へ向かった行列が通過した時に、崩壊してしまいました。通るだけで橋を壊すとは、いったいどんな行列だったのかと思いますが、とにかく最初の橋はこうして4年でなくなりました。

次の橋は1656年に完成。国王が通行収入を取ったりして、やれやれこれで橋も落ち着いただろうと思っていたら、今度は1709年にセーヌ川が氾濫して大打撃を受け、翌年に取り壊しとなります。次に出来た3番目の橋は、赤く彩色されたパリジャンたちにも人気のオシャレな橋だったようで、洪水にも負けない設計にしたらしく、今度こそ長くもつかな?という期待に応えて、1740年の洪水では何とか踏ん張ったようですが、1795年の洪水ではやっぱり崩壊。もともとここは、川の流れが激しい場所で、なかなか橋も頑張りきれないわけですね。

それでもまだまだ諦めないよということで、1803年に今度はシテ橋という橋が建設されるのですが、数年も経つとたわみがひどくなり、危ないよねということで、早くも1811年に取り壊されます。次の5番目は1842年、二重のアーチになった橋が架けられ、やがて1860年には鉄製の橋になります。この橋は、使用前に慎重に耐久試験をしたので、行列にも洪水にもやられなかったのですが、1939年に今度は給油船が衝突して崩壊してしまいました。

ううむ、なかなかついていませんねえ。いったいいつハッピーな話が出てくるのかと、そろそろ橋が足の悪いおばあさんを助けたみたいな人情噺が出てきてもいいんじゃないかと思うわけですが、そういうこともなく歴史は流れていっちゃうんです。

その後は戦時中の1941年からの、とりあえず仮の橋を架けておく時期を経て、1970年に現在のシンプルなデザインの橋に落ち着きました。

それにしても、この場所の橋、いくらなんでも壊れすぎみたい。これはいったいどうしたことなんでしょうか。

まあ運がなかったってだけで済まされる話でもあるんですが、私はここが非日常の場所だったからなんじゃないかと思うわけです。川の流れが、他のエリアとは違い激しかったこと。そのことを知っている船の皆さんは、この場所ではいつもより集中してエネルギーを注ぎ込んでいたと思うんですね。また、この近くには観光名所となるような場所がたくさんあって、やっぱり通る皆さんのテンションは日常よりも高くなる気がします。

大切な要所だからこそ、エネルギーを注ぎ込むのはいいんですが、逆にみんなが常に注目してパワーを入れ込み過ぎるせいで壊れてしまうこともあるんじゃないかなあ。さらっと淡々とした気分で接しているものの方が、長持ちするってこともあるのかも。パワー全開のお祭りはたまにあるからいいのかもしれない、なんてことを、今のシンプルなサン・ルイ橋のデザインを眺めながら、考えてみたりしました。

とはいっても、やっぱりお祭りは楽しいし、色のない日常ばかりでは飽きてしまうから、時には何を壊しても非日常を全パワーで満喫したいですけれどね。壊れても、サン・ルイ橋と同じように、また作ればいいんだしねー。

シテ島とサン・ルイ島をつなぐサン・ルイ橋、いかがでしたでしょうか。次回は、シテ島から右岸に架かる、アルコル橋を渡ります。

Pont Saint-Louis
サン・ルイ橋

竣工:1970年
長さ:67m
幅:16m
建築家:クルゾー、ジャブイユ
形式:桁橋
素材:鋼鉄
最寄駅:Pont Marie駅(メトロ7号線)
付近の観光スポット:ノートルダム寺院