from 鳥取 – 18 - 「アゴ」は初夏の香り。

(2009.05.25)

「アゴ」という魚をご存じでしょうか。山陰地方ではトビウオのことを「アゴ」と呼び、5月から8月にかけて水揚げされます。このアゴは料理の食材として優れもので、刺身、団子汁、煮付けなど、バラエティーに富んだ郷土の味を提供してくれます。……という訳で、鳥取県でトビウオを使った料理や加工品はアゴの刺身、アゴの煮付け、アゴちくわ、アゴ野焼きなど、全て「アゴ」づくしになります。

我が家では、妻が漁師町出身のこともあり、この時期の食卓には秘伝のアゴのフルコースが登場します。地元のスーパーではアゴの身と卵が同じ棚に陳列してあり、当然のごとく両方を購入します。一般には刺身や煮付けで食べますが、本来鳥取県民は卵好き。アゴは魚より子が珍重され、卵の煮付けはもちもちとした食感で、美味しく、イクラや数の子、タラコより旨い贅沢な一品です(ただし、卵は食べ過ぎると尿酸値が上がるので、痛風に注意しましょう)。県東部に位置する鳥取市賀露(かろ)の水産物直売所「かろいち」では100グラム200円~300円で「アゴの子」として販売されていますが、妻いわく、「昔はもっと安くて、庶民の味が遠のいている感じ……」。

鳥取県のアゴ漁は、数十個の白色ブリ板を縄に付け、おびき寄せて巻き取る方法で、年間180トン近く水揚げされています。漁師仲間では「アゴまき」と呼ばれていますが、労働はきつく、漁をする船も少なくなってきました。

私も10数年ほど前に水産の一職員として意気揚々とこのアゴまきを体験しました。6月の日本海はべた凪のはずが、網を巻く間早々と船酔いしてしまい、ノックダウン。ただ海からあがってきたアゴは輝きのある紺青の光沢を放ち、食べた刺身は絶妙な旨さだったことを覚えています。

さて、鳥取でアゴがとれる時期は短く集中しているため、多くは加工用に回されます。その代表が「ちくわ」。なんと鳥取市のちくわの消費額は1人当たり日本一で、鳥取市民は全国平均の2倍以上もちくわに支出しています。それを担うのが豆腐ちくわとアゴちくわです。このアゴちくわは原料のすり身にアゴを使い、香ばしい香りや咬みごたえがあることからお土産物としても利用されています。私なりの食感は小骨感触があり骨まで食べられる「濃いくちちくわ」という感じで、宴会の席での即座の酒の肴には貴重な郷土食となっています。アゴちくわを食べる度に、幼い頃、村の集まりで大人に混じりアゴちくわを食べた記憶や囲炉裏の壁にはアゴの大きな胸びれが貼り付けてあったことを思い出します。

今年もアゴ漁が始まり、鳥取に初夏の香りを運んできます。毎年のように食べられる美味しいアゴに感謝しています。

アゴの子煮つけ。魚より子が貴重。
ぜいたくな一品です。
(写真提供  鳥取県漁連女性部連絡協議会)
アゴはこんなお魚です。
アゴの竹輪。
アゴのお刺し身。