田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》逗子小坪から鎌倉材木座あたり
梅雨の晴れ間、夏の花を見つけに。
(2014.07.02)
海開きも終わって
6月末の重い梅雨空の下、逗子海岸で海開きがあった。地元の小学生が海水浴に招待されるくらいの地味なイベントを、関東では一番早いとTVのニュースが伝えていたが、ローカルな雰囲気がかえって好印象だった。そういえば夏恒例の逗子海岸花火大会も、なんと5月末に関東のトップを切って早々と開催済みだ。(ちょっと早過ぎないか?)この時はもちろん波打ち際のかぶりつきに座って見物した。フィナーレは生憎の凪ぎの時間帯にかかり火薬の煙にずいぶん邪魔されたが、腹に響く2尺玉の音を十分に堪能できた。花火大会、海開きも済んで、逗子海岸沿いの砂浜には海の家の建築ラッシュだ。その波が逗子小坪を超えて、鎌倉側の材木座海岸から由比ケ浜にも押し寄せてきた。毎年見慣れた夏の風景が徐々に姿を現しつつある。ああ、楽しい夏が悩ましい渋滞といっしょにやって来る。
紫陽花と言えば、なぜか鎌倉
梅雨時の鎌倉は、紫陽花で有名な寺が一年で一番の賑わいを見せる。桜の花見は賑わいも興趣のうちだと思うが、背丈があまり高くない紫陽花を行列までして見物するのは如何なものかと、つい天の邪鬼な気分になってしまう。鎌倉の外れ材木座辺りでも紫陽花は咲いているし、夏の花を探しに散歩に出かけてみよう。逗子と鎌倉の境は、坂道や切り通し、トンネルや隧道が多い地形で(谷戸と呼ばれる)湿気も多く、道路沿いや住宅の庭先に紫陽花を見つけるのは意外と簡単だ。しかし鎌倉の有名寺のように丹誠込めて剪定された容姿とか、苔むした石段や古寺などの、年代物の借景の趣きという点では、まあブランド品にはやっぱり敵わない。しかし、そもそも紫陽花なんて自然の中で野性味を楽しむ花じゃなかったかと、負け惜しみ半分、B級気分で訪ね歩いた。光明寺の裏手にある内藤家墓地周辺の紫陽花は、幾つも並んだ江戸期の墓石を抱え込むように咲いて、アンコールワットの遺跡を思わせて荘厳だった。自分のペースで歩きながら花を独り占めできるのは、やっぱりいい。
賑わいの前の海、静かに咲く花
光明寺の広い境内には竹の箒を持った坊さんと私だけ、波の音が聞こえてきそうなほど静かだ。巨大な山門を抜けると紅白のタチアオイの花、まっすぐ海へ向かう小径には薄紫のアガパンサス。もうノウゼンカズラが咲いている。国道の地下道をくぐり抜けると材木座海岸の眩しい砂浜が広がり、海の家は只今建築中。この日は大潮だったのか、遠浅の砂浜が沖合いまでいつもの5倍は広がっている。浜の左には和賀江(わかえ)島の石積みも姿を現して、ここは鎌倉のモンサンミッシェル、とまでは言い過ぎか。光明寺で江戸期の墓所を見た後に、目と鼻の先の材木座で鎌倉時代に築かれた港の遺構(和賀江島)を見るのも、タイムマシンに乗ったようで感慨ひとしおだ。
潮干狩りに熱中するおじさん、水遊びに来た保育園の子どもたちを見ながら逗子マリーナ方面へ向かう。冬晴れの日には江ノ島と白い富士山が一望できるヤシの木の広っぱには、白い夾竹桃が初夏の日射しを照り返して元気に咲いている。ヤシの並木の間には、南国の花アメリカデイゴが紅い花をいっぱい着けていた。大した風もないのに、大きな花が丸ごとぽっとり落ちるのが不思議で、よく見ていたらウグイスが蜜を吸いに遊びに来ていたのだった。犯人はお前か、最近では鳴き声も上手くなって、行動も大胆になったなあ。6月も終わり、今年も半分折り返しだ。