田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 ベトナム街歩き1ホイアンは和洋中が入り交じった
ノスタルジックな南国の港町
(2014.04.09)

南北に細長いベトナムの真ん中にある大都市ダナンからタクシーで40分、ホイアンは静かな港町だ。フエ王朝時代の16世紀に中国や日本、ポルトガル、オランダなどとの交易で栄え、朱印船貿易で日本人街もあったらしい。17世紀に江戸幕府の鎖国が始まると朱印船も通わなくなり、オランダ東インド会社の商館も閉鎖され、ホイアンは急速に寂れる。時代は過ぎて、ベトナム戦争時代の戦渦も免れ、1999年にユネスコ世界遺産に登録されると、再び観光客が訪れる町となった。
和風、欧風、中華風
ホイアンはトゥボン川が南シナ海に注ぐ三角州にある町だ。10月の雨期になるとしばしば大洪水に見舞われ、川沿いの家は浸水してしまう。そのため1階の天井は高く設計されている。長くこの町に住む人たちの生活の知恵だ。間口が狭く奥行きのある古い家に入ると中は薄暗い。中庭からは涼しい風が入り、外の暑さからしばし逃れることが出来る。吹き抜けになった2階に上がり、道路に面した板張りのテラスから町並みを眺めると、どこか懐かしいアジアの原風景が広がる。ホイアンの町並みは住宅展示場のようでもある。中華風、フランス風、少しだけ日本風。家の壁はどれもカラフルだ。一番多いのが黄色、空のような青、そしてピンクの壁。南国の強烈な日射しに負けない三原色が不思議な調和を見せる町だ。
朝の船着き場
ホイアンの朝は懐かしいポンポン船の音で始まる。朝6時半、リバーサイドのホテルで目覚めながら、久しぶりに聞く音の正体をぼんやりした頭でしばらく考えていた。カーテンを開けベランダに出て、目の前に広がる河口を見てようやく理解できた。向こう岸から木造の漁船ほどの船に人とバイクが鈴なりになって、もう何回も往復している。朝のラッシュアワーだ。人とバイクを満載した船が着く小さな港はそのまま水産場に続き、水揚げされた魚がそのまま市場に並んでいた。
南国の昼下がり
ホイアンの昼は時間が止まったような、死んだ町になる。とにかく暑い。真上から照りつける太陽に逃げ場がない。古い家並が残る宿場町のような旧市街を歩くのは殆どが旅行者だ。町の人はハイビスカスが咲き乱れる軒下に座っておしゃべりしたり、日影で昼寝したり。市場の売り子も棚の隙間で器用に寝ている。時おり二人乗りバイクが通り過ぎ、果物や冷菓、丸ごと揚げた蟹を売るリヤカーに会うが、それらすべてが音のない映画でも見ているような、超現実的な風景だ。涼しい川風が吹き始める夜を楽しむために、まるで町全体が休息しているような印象だ。