from 秋田 – 2 - 魚にも表情があった。中村征夫写真ギャラリー「ブルーホール」。

(2010.04.08)
静かに流れる映像。小学校の椅子が置かれている。これもまた童心に帰るようで楽しい。
様々な海の生き物が豊かな表情を見せてくれる。

秋田県潟上市飯田川(旧飯田川町)に創業明治12年、味噌、醤油、そしてお酒の醸造元である小玉醸造株式会社がある。味噌、醤油は「ヤマキウ」お酒は「太平山」というブランドで多くの人から長く愛されている。

2009年11月、この小玉醸造の敷地内に同じく潟上市出身の水中写真家、中村征夫さんの常設ギャラリー「ブルーホール」がオープンした。オープン4カ月目の2010年3月には来場者1万人を突破した。
 

小玉醸造は赤い煉瓦の蔵が印象的。
ノスタルジックな木造の建物は事務所。
ガラス張りのエントランスホールが特徴のブルーホール外観。
ブルーホール入り口。障子戸を開けて中へ。

今回はこの「ブルーホール」をご案内しよう。

ブルーホールのある小玉醸造へは、JRであれば羽後飯塚駅から徒歩で約10分、車であれば秋田空港からは約70分、秋田市中心部からは約40分である。

小玉醸造に着くとまず目に入るのが赤い煉瓦の蔵だ。敷地内に新旧いくつもの蔵が建っているが、最も古い蔵は明治中期のものだそうだ。その蔵は現役で醤油の発酵熟成に使われている。

その蔵と道路を挟んだ反対側に木造の事務所の建物がある。この事務所の建物も創業当時の面影を残す雰囲気が漂っていて、ちょっとしたタイムトラベラーの気分が味わえる。入り口には造り酒屋のシンボルである杉玉が吊されている。

事務所の反対側に平成館と名付けられた売店がある。ブルーホールの入場料(大人200円、中高生100円、小学生以下無料)はここで払う。料金を払うと丸いシールが渡されるので、それを胸に貼ってブルーホールへ。

売店を出て左に進むと、すぐに右手にガラス張りの建物が見える。これがブルーホールだ。大正11年(1922年)に建てられた酒蔵を改装したものだそうだ。入り口の大きなガラスによって、これらから水中に入っていくという雰囲気が感じられて楽しい。

ガラス横の引き戸を開けてエントランスホールに入る。蔵の壁の白さと入り口の戸の黒のコントラストが印象的だ。さらに障子戸を開けてホールの中へ。いきなり目に巨大な鯨の親子の写真が飛び込んでくる。しばしその迫力に圧倒される。

ホールは縦に長い建物で、天井は吹き抜け、床には無垢の板が張られ、両側の壁は真っ白だ。柱や壁の煉瓦は古いものがそのまま使われているようで、古い蔵の雰囲気も残されている。両側の壁は作品の展示、ホールの中央部は中村さんの写真集などが置かれていたり、映像が流されていたりと、いすに座ってゆっくり楽しめるようになっている。

私が訪れた時は私も大ファンである作家 椎名誠さんの企画展「地球はまだまだおもしろい」が開催されていた。椎名さんが1983年から2005年にかけて撮影した写真がホールの約半分を使って展示されている。写真はすべてモノクロ。タクラマカン砂漠、アフリカ、パタゴニアなどで撮影した写真に椎名さんの手書きのコメントが添えられている。美しい風景もさることながら、旅先で出会った人々の生き生きとした表情がとても印象的だった。椎名さんの人間味が写真に現れていた。
 

椎名誠さんの企画展「地球はまだまだおもしろい」が開催中。
椎名さんの写真はモノクロ。白い壁とのコントラストも美しい。

奥に進むといよいよ中村征夫さんの展示エリアだ。「水中の賢者たち」というタイトルがつけられていたこの展示はかなりユニークだ。水中写真に漢文が組み合わされて展示されている。会場内の案内版の言葉を引用させていただく。

「中国古典の名言名句集に水中写真を組み合わせた、世界でも類を見ない異色の展覧会です。海の中は厳しい自然環境においてたくみに生き抜く、大小さまざまな生物たちで満ちあふれていますが、その生きようはまさに賢者にふさわしいと言えるでしょう。
生きものたちのユニークな生態を楽しみながら漢文を読む。人生の教訓から愛の歌までを海中生物たちが誘います。どうぞ、名言名句の世界を存分にお楽しみいただきたいと思います。
中村征夫」

写真一枚一枚に漢文と訳文が添えられている。写真を鑑賞し漢文を読む。初めての体験であったが、思わず唸ったり、考え込んだり、実に楽しい時間であった。一枚の写真でこれほどまでに世界が広がるとは。新しい写真の楽しみ方を教えていただいた。

写真を見ていて驚いたのは魚にも表情があるということだった。怒った顔、悲しそうな顔、戸惑った顔、驚いた顔、おどけた顔。実に様々な表情の顔がある。そういった表情を見ていると、一匹一匹の魚も貴い命なのだと実感として伝わってくる。普段当たり前のように食している魚も我々を生かしてくれている貴い命。それもきれいで健康な海があってこそ。環境問題は我々一人一人の問題。中村さんの一枚一枚の写真には、そんなメッセージが込められているような気がした。中村さんのファンになってしまったことは言うまでもない。

静かな海のような雰囲気でリラックスできる心地よい空間「ブルーホール」。足を運ぶ価値は十分にあるスポットだ。おすすめです。

なお、小玉醸造では一日3回(11時・13時・15時)蔵の見学ツアーを行っている。当日の申し込みも可能で、1名でも案内してくれる。(私も一人だったが快く案内していただいた。ありがとうございます。)
また、売店にはきき酒コーナーもあるので、お酒の好きな方はそちらも楽しめる。

吹き抜けの天井と無垢の板張りの床。心地よい雰囲気。
中村さんのウェットスーツ。
ホール中央には写真集などが置かれている。
中村征夫さんの常設展示「水中の賢者たち」。
売店内部。きき酒も楽しめる。
事務所の反対側の売店。ここで入場料を払う。

注:ブルーホール内部は写真撮影禁止です。今回は特別に許可をいただいて撮影をさせていただきました。

 
中村征夫写真ギャラリー「ブルーホール」
HP:http://www.kodamajozo.co.jp/bluehole/bluehole.html

水中写真家・中村征夫のぷかぷかブログ
HP:http://nakamuraikuo.cocolog-nifty.com/blog/

小玉醸造
HP:http://www.kodamajozo.co.jp/