from パリ(石黒) – 1 - フランス人の休暇にまつわるエトセトラ。

(2009.08.28)
ヴァカンスのパリの風物詩、店先の小さな張り紙。

7月から始まった夏のヴァカンス。8月半ばを過ぎると、そろそろ新年度の準備をしなくては。陽射しにも、以前のような勢いは減り、季節も確実に秋への準備に切り替わっているのを感じるところ。今週からはパリにも、少しずつパリジャンたちの気配が戻ってきています。

「ヴァカンスのパリ」は、別名「パリジャンのいなくなったパリ」。7月の半ば過ぎから、張り紙や閉まりっぱなしのシャッターをいたるところで見かけるようになります。

眼鏡屋さん、保険屋さん、お肉屋さん、レストラン……。ヴァカンスを取るのは、職種に限らず、みんな! 1カ月に渡る休暇中に、改装工事を行ない、新年度を気分一新で迎える店も少なくありません。
新聞、雑誌を販売するキオスクもヴァカンス。「皆さん、良いヴァカンスを!」とのメッセージがお茶目。張り紙には、最寄りの販売所の住所も記載されている。
1カ月の夏季休業前は、店じまいに集中。約1カ月間、無人となるわけで、その間の防犯対策も重要。たいてい、店舗ウィンドーを内側から布やクラフト紙で覆って、内部を見えないようにします。

ところで、ヴァカンス中に閉められると困るのが、パン屋。いきつけのパン屋のヴァカンス日程は把握していても、別のパン屋のスケジュールまで、覚えていられない。営業しているといいなと思いつつ、もう1軒のパン屋まで歩いていくと、案の定、ブラインドが下ろされ、入り口に張り紙。

パリとパリ近郊のパン屋さんでは、張り紙の書式が統一されています。

夏季休業日程の下に、通常、近隣のパン屋情報が記載されていて、これは親切!と思いきや、実はこれが曲者だったりする。記載の住所を頼りに向かってみると、やっぱりそこも閉まってるということが、結構ザラ。あー、ここもヴァカンスか……、と納得するものの、3軒、無人たらい回しの果ては、近所のスーパーのパンコーナー。初めから悪あがきせずに、スーパーへ直行しておけば良かったと思うものの、長期ヴァカンスに旅立たずに、ひっそりとしたパリに居残っている時こそ、美味しいバゲットでも食べて、モチベーションを挙げたいところ。

フランスでは、年間7週間の有給休暇が定められ、5週間まで連続して取得できます。しかも、日本のように有給を消化せずに持ち越すのではなく、年間で決められた休暇日数が確実に取れるように法律で保証。これだけでも日本人からすれば、夢のような労働条件。「ヴァカンス」という単語が日本語にも浸透し、長期休暇大国としてのフランスのイメージは揺るぎ無いように思われますが、休暇休日にまつわるちょっとした変動が、最近のフランスで話題になっています。

8月16日からテスト試行されている「日曜日就業法案(Travail Dominical)」。カトリックの休息日である日曜日。現在、政教分離の体制であるといえども、ローマ教会の長女と呼ばれていたフランスでは、古くから日曜日の店舗営業が禁止されていました。これまでも、スポーツ・文化施設では日曜営業が行なわれていましたが、今回の法案では、新たに全ての業種に営業許可が拡大。飲食販売店では、現状の12時までの営業時間に1時間延長して、13時までの営業が可能。ブティックやデパートなどの小売業が日曜営業を始めれば、消費が促進するとの目論み。経済回復のきっかけとしたい政府に対し、社会党を始めとする左派は反対を表明。

日曜日就労は、最低でも通常給料の2倍が支払われ、労働者は日曜日勤務の拒否が理由で解雇されることはない、などなど、労働者にとっても、日曜営業の利便性を享受する一般市民にとって、メリットも。かといって、商業地帯や観光地における日曜営業を特に利用するのは、とりわけてフランス人というわけではないような気もします。というのも、フランス人の日曜日には、「家族との昼食」という伝統が根強く残っているから。

フランスの日曜朝市は、老若男女、沢山の人で賑わう。教会で午前中のミサを受け、帰宅途中に市内広場のマルシェに立ち寄って、昼食の食材を買ったり、手土産の花束を選んで帰る、というのが、敬虔なフランス人の「模範的」日曜日。たとえ教会の部分を省略しても、日曜日の家族ランチは意外なほど、フランス人の日常に息づいています。

 
まさに「日曜日就業法案」テスト施行初日だった16日は、友人の両親が住むパリ郊外で、「家族ランチ」へ。こうやって、家族以外にも、友人を招いたりすることも多い。ガチガチのカトリックではないこの家族も、月に1、2回、日曜日に息子夫婦がパリ郊外の両親の家へ、昼食を共にするために車を走らせる。もはや習慣化している日曜日の家族ランチ。この友人夫婦いわく、家族ランチが毎週末だとさすがにちょっと疲れる、というのが、本音のようでもありますが……。

パリの狭いアパルトマンをしばし離れ、郊外の広々とした雰囲気の中での日曜日ランチは、ある意味贅沢な時間。今の時期なら庭やテラスでランチも可能。この日は、自宅の庭で取れたトマト、キュウリ、ナス、ジャガイモなどを使ったメニュー。招かれると、アペリティフから締めのコーヒーまで、4、5時間を食卓で過ごしてしまうことも。