from パリ(たなか) – 37 - ベルヴィルBellevilleでエスニック料理を。

(2010.01.18)
ベルヴィルの駅のすぐ裏通り(11区)にあるベトナム中華屋は、ホソキさんに教えてもらった。間口は狭いが中は迷路のように広く、横浜中華街の市場通りにあるような店の雰囲気。B級な佇まいがたまらない。味は十分満足だし、コストパフォーマンスは高い。ベルヴィルのメインストリートには立派な中華料理屋もあります、念のため。

パリは思っていた以上に人種が多い街だ。メトロの中や街を歩いている時に、この人は一体どこの国の人だろうとしょっちゅう頭をひねる。アジア系の人は見慣れているとは言え、韓国や中国とベトナムの違いは微妙だし、地中海沿岸の旧ユーゴ系やギリシャとトルコ、そして中近東のレバノンあたりも判別が難しい。アフリカ系の国になるともうお手上げだ。去年11月、サッカー・ワールドカップ出場を懸けたプレーオフで、アルジェリアがエジプトに勝った夜、パリの街中でクラクションを鳴らしながら走り回るクルマ(アルジェリア人が乗っているのだろう)が多かったのには驚いた。パリにアルジェリア人がこんなに居たのか、と。同じ夜フランスもアイルランドと引き分けて、なんとかワールドカップ出場を決めたが、アンリの反則もあってか喜びが爆発しなかったのとは対照的だった。

パリという器の中で様々な国籍の人が均質に分散して生活しているわけでなく、どうやら、あるエリアにある人種が集中するようになるのはいろんな都市に共通する現象のようだ。典型的なのは中華街。パリの北東11区と20区の境目に位置するベルヴィルには、ゆるやかな坂の大通りRue de Bellevilleに中華料理屋が軒を連ね、道行く人もアジア人が多いのでここがパリであることを忘れさせる。中華屋の看板は漢字の店もあればベトナム語を表記した店もあるが、料理はベトナム系の方が多いような気がする。まだいろんな店で実際に食べてみたわけではないが、客の大半のアジア系に混じって若いヨーロッパ系人種が器用に箸を使うのには驚いた。ベトナム色が濃いのはフランスの植民地政策の結果であろうが、広東や四川が中心の日本の中華料理とは違うのが私にとっては新鮮で嬉しい。横浜中華街の繊細な薄味もいいが、洗練しすぎない程度の自然な味付けが東南アジアっぽくて、私はパリの中華に結構はまっている。(パリの中華街は3区や13区にもあり、中華料理屋はあちこちで見つけることが出来る)

 

パリッと焼いたベトナム風お好み焼き。これにも香草をたっぷり入れ、レタスで巻いて、甘酸っぱいヌクチャムを付けて食べる。これでもか、と言うくらい香草が盛られて来るのがうれしい。
牛肉のフォーがこの店の人気メニュー。スープは唐辛子も効いてはいるが、見た目ほど辛くない。胡麻ペーストが混ざったような、どろっとした舌触りがなんとも言えずクセになる。魚のすり身団子が入っていて、肉用の辛みソースも付いて来る。別の皿に盛られた、もやし、コリアンダー、レモングラスを山盛り載せて、レモンをたっぷり絞って食べる。旨い!

ベルヴィルでは中華街がいちばん目立つが(漢字パワーを再確認)、通り一本隔てただけで別の国かと思うほどの違いに驚かされる街でもある。まだ4~5回しか行ってないが、行くたびに新たな発見がある。友人のマキちゃんに連れて行ってもらった20区のユダヤ料理のレストランは、そこで食べた料理よりも店内に居合わせた客同士の同胞意識というか、不思議な熱い空気感の方が興味深かった。日曜の早い午後だったがあっという間に満席になり、小さなテーブルに乗り切れないほど小皿が並んで、ゆっくりメニューを選ぶ暇もなかった。キーボードで歌うミュージシャンに客の手拍子が盛り上がり、あまりの騒音に話も出来ず、絶対少数の日本人としては早々に食事を終えて退散した。隣の客はユダヤ料理を自慢げに説明してくれたし、私をトルコ人みたいだと言ったりして友好的ではあったのだが、村の結婚式の宴会でも始まったような賑やかさにはちょっと参った。

ユダヤ料理は食材に細かな決まり事があるらしく、それらをクリアしないと店の看板にユダヤの星が使えない、とマキちゃんが話していた。この坂道を登って行くと見晴らしのいい公園がある。
このオジサンたち、たっぷり時間をかけて、たっぷり飲み食いして、たっぷり歌って楽しむんだろうな、たぶん。なんか鏡とか光り物が多い店内だった。もういちど、ゆっくりユダヤらしい料理を楽しまないと。
席に着くや、小皿料理が次々に運ばれる。切っただけのアボガド、塩揉みラディッシュ、大根漬け、キュウリ酢漬け、卵焼き、ツナ缶と卵など、超簡単なおつまみ系。見た目には楽しいが、みんな食べるのはたいへん。
軽くユダヤ料理を、と思って入ったのだが、なんだか雰囲気にのまれて、昼定食みたいなのを注文するはめになっちまった。マキちゃんはステーキ、それにしてもフリッツだけでなくスパゲッティに目玉焼きまで付いている。私はマグロのカマみたいなグリル。焼き加減は悪くない。なんともワイルドというか家庭的。甘辛いケチャップソースをつけて食べる。

このエリアへ最初に来たのは、丘の斜面に広がるベルヴィル公園だった。頂上からはサクレクールやエッフェル塔などパリが一望でき、とても気持ちがいい。公園の周りには閑静な住宅が目立つが、坂を下るとともに何やら無国籍な色彩が濃くなって、奥行きが深いというのか、いろんな楽しみがある街だ。去年の夏、イナバさんとパエリアを食べに来たこともある。坂道の麓にある小さなスペイン料理店の2階で、注文してから小一時間は待っただろうか。スペイン語しか話さない無口なオヤジが、下の調理室から運んでくれた鍋一杯に盛られたパエリアは、これまでに食べたことのない不思議な味だった。ご飯は柔らかめ、なんかスペインのおふくろの味とでも言うか、ほのぼのと懐かしい味だった。たまたま隣のテーブルが日本人のカップルで、カメラマンをしているという男性の名前がコージ、私もコージ、イナバさんもコージで、みんな漢字は違うが3人コージという偶然の出会いに話がはずんだのを覚えている。もう一度コージ同士で集まって旨いもの食おう、と言って別れたが、まだ再会は果たせていない。

前菜にイカをつまみながら、話も尽きた頃、パエリア3人前、お待ち~。ピンが甘いのは早く食べたい一心からかな、反省。しかし、この分量、食べきれません。残した分は包んでもらってお持ち帰り。
夏の夕方、まだ明るい時間に来たのだが満腹になって帰る頃には日も落ちて、外は人通りもまばら。このレストランの前だけがやけに明るい。ベルヴィルの裏通りを暗くなって一人で歩くのは、ちょっと怖い感じだ。