from 東京(萩野) – 2 - 世界基準レベルの写真家が、未来に残し、伝えたい「東京」。

(2010.09.13)
西川よしえさんが東京で約20年前に撮ったこの双子のヌード写真が、昨年イタリア写真。協会主宰のプロフェッショナルフォトグラファーを対象にしたコンペで見事グランプリを受賞! その当時評価がされなくてプロジェクトとして途中で断念してしまったものだったそうです。

 

峯村隆三さんのコスプレシリーズ。ロケ地:東京タワー。

今からちょうど2年前の今頃のこと。

渋谷の青山学院大学キャンパス近くの閑静な通り沿いにある琉球チャイニーズ『Tama(タマ)』では、いつにも増してどんぐり眼と大口を開け、無邪気にケラケラ笑っている私が居ました。自家製腸詰&ミミガーに負けないくらいの絶妙なワインの肴となったのは、写真家の峯村隆三さんが繰り広げる「虹ネタ」の数々。ハワイで見た幻のミッドナイト・レインボーから、丸い形をした虹、虹は全部で7色と思いきや、国によって色の数が違う(例えばアメリカは5色)といったことまで……。考えてみれば、一人一人の個性を重んじるフランスで、小学校のアートの授業で子供が太陽をブルーのクレヨンで描いたら、白い目で見られるどころか寧ろ自己表現として捉えられるように、はたまた日本で、桃色、朱色、山吹色などといった色を表す言葉が豊富にあるように、色にもお国事情あるのかもしれません。

このディナーに更なる彩りを添えてくださったのは、峯村さんのお友達でイタリア・ミラノ在住の写真家、西川よしえさん。フリーランスカメラマン歴20年以上、写真家としてデビューする前はグラフィック・商業デザインのキャリアをお持ちで、東京のみならず、ハワイ、NY、ミラノ、サンフランシスコ、ロンドン、上海など世界中を飛び回っていたのだそう。世界を飛び回るお二人を相手に、東京談義と相成りました。ひょっとしたら一般人には見えないものが見えて、ユニークな視点や感性を持つ写真家にとって、東京という街はどのように映っているのでしょう? 東京で魅力的に感じる場所はどこですか?

境目に興味がある、と峯村さんが一言。「東京の路地……、例えば六本木のドンキホーテの裏のほうに行ってみると墓地があったり、ランチタイムになると何故かもの凄い行列が出来ていたり。その片側には蔦が生えているような壁がそり立っていて。銀座や築地にも一本裏道を入るととても面白い路地が多くある」。

映画『ブレードランナー』を彷彿とさせるような、近未来的かつ非日常的な高層ビル群が西新宿辺りにある一方で、その直ぐ歩いて行ける所に、小津安二郎さんの映画に出てくるような、人間臭くて古き良き日本の民家が立ち並ぶエリアがある、そんなミックス感なのかな。
 

コスプレシリーズ。ロケ地:羽田空港。
バービー人形コレクション

一方、女性フォトグラファー西川さんの興味は、人、そして背景にあるストーリーだといいます。○○チックとか○○もどきとか、何かのパクリ、真似ごとではない、本当の意味での昭和レトロな雰囲気が漂う喫茶店や、そこで働く人々。浅草など奇をてらっていない下町の風景。リアルなものが無くなってきて、平成生まれの子供たちが段々と大きくなってきている昨今、昭和の面影を残した人やモノを今この瞬間に撮っておきたい。そう熱く語ってくれました。

「だってデジタルっていうのは(写真を)撮った瞬間に終わる、完結してしまうでしょ」。そう、峯村さんの言葉のように、現代は余りにも簡単気軽に写真を撮ることができる時代。
西川さんは近年、一般の方向けのポートレイト撮影というジャンルに目覚め、ポートレートスタジオを開設。記念日の記念撮影とは違った、10年後にも20年後にも残しておきたい今の大切な私を撮影し、一作品として創り上げるという取り組みに力を注いでいらっしゃいます。「インディアンが写真嫌いな訳は、写真を撮られる時に自分の魂が吸い取られるのを恐れたから。私はそういうことを信じています」と西川さんはキッパリ。良い写真とは、写真を撮る側と撮られる側との双方のコミュニケーションや心の通い合いが投影されているもの。そんな魂や気持ちが感じられるような写真を撮り続け、後世に残してゆくことが自分のミッションだとおっしゃいます。
 

バタフライ
深紅のバラ

やがて、土地そのものが持っているエネルギーや歴史的な意味といったことに話がエスカレート。鬼門や陰陽師、彫刻なども同様の考えから来ているんだとか。西川さん曰く、ミラノにも宇宙との接点が感じられるスポットがあって、なんとそれは街のシンボル的存在であるドゥオモ! 25、6年前の夏、バカンスシーズンで閑散としたミラノで唯一開いていたという此処にたどり着き、静寂で真っ暗な中を進むうちに、すぽっと闇の中に入るような感覚がして、気付くとそこには宇宙空間が広がっていたそうです! それから10数年経った今年、“アレ”をどうしても表現したくて、政府の許可を得(本当は許可無しで写真を撮ってはいけないらしい)、建築写真ではないドゥオモの撮影に果敢に挑戦中。その中の一枚のモノクロ写真を見せていただくと、一体全体これは何? まるでSF映画に出てくるような国際宇宙ステーション的なフォルムに驚愕したのでした。

そして、路地マニア(?)の峯村さん。女性誌やカタログ撮影以外にも、バービー人形コレクションや都内各地でゲリラ撮影を敢行中のコスプレシリーズ、万博開催中の上海で写真展を開催するなどマルチな活動をされていらっしゃいますが、これから撮ってみたいものは?との問いに、70年代、80年代の車、今ではなかなか見かけない中途半端な車たちを撮ってみたいという答えが返ってきました。メルセデスを始め、初代ジムニー、ホンダシビック、マツダルーチェ、トヨタセリカ、スバル、ハチロク……といった固有名詞群が飛び出し、もう私はついてゆけなくなっていて、テーブルの上に目の前に置いてある沖縄産のピパーツコショウの容器をまじまじと見つめていました。

以前インタビューをさせて頂いたことがある写真家の森山大道さんは、写真は記録で、光と時間の化石おっしゃっていたのが非常に印象的でしたが、写真というタイムレスで決して嘘をつかないメディアを使って作品を生み出し、それを子孫に伝承してゆくという写真家の仕事がこの上もなく尊いものに思われました。ああ、今度生まれ変わったら女流写真家になりたいな!と突発的衝動に駆られて言ってみたら、西川さんに「やめたほうがいいわよ」と返されました(苦笑)。

それでも自分に強く誓ったこと。今度虹が出たら、携帯カメラのシャッターを切る代わりに、自分の首が痛くなるまで空を見上げて、空に穴が開くまで見つめて、目にしっかりと焼き付けおこうと。それこそ、雨あがりの谷中銀座で、お豆腐屋さんやかりん糖屋さん、2対の招き猫像の彫刻などを横目にお散歩をしながら、眼前に虹がパーっと広がるなんてシチュエーションに遭遇したら、もう最高の気分! その時私には、虹は何色(なにいろ・なんしょく)に映っているのでしょうか。

普段はカメラのレンズの後ろ側にいらっしゃるフォトグラファーのお二人に、お願いして、ポージングしていただきました~パチリ。

 

西川よしえさん オフィシャルサイト
峯村隆三さん オフィシャルサイト

 

琉球チャイニーズ Tama(タマ)

琉球チャイニーズというジャンルの生みの親で『Tama(タマ)』のオーナー、玉代勢文廣(やまよせ・ふみひろ)さん。ご自身も中国山東省と琉球出身のご両親を持つ“ミックス”(ハーフとは言わず、敢えてダブルかミックスと言います)。

Tel: 03-3486-5577
住所:東京都渋谷区渋谷2-3-2 

コリコリした触感と胡麻の風味が病みつきになるミミガーの胡麻和え。
パクチーサラダ。
どんなお酒にも相性がピッタリの自家製腸詰。