田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 山口蓬春記念館 《山口蓬春と風景画・画家の愛した美しき日本のすがた》展 葉山一色の小径を歩けば
聞こえるのは潮騒と風の音だけ
(2013.12.06)
犬も歩けば
三浦郡葉山町一色
伊豆大島がくっきり見える日が多くなり、今年の秋は足早に冬へ突入した。朝から晴れ渡った師走も近いある日、海岸沿いに逗子から葉山まで歩いてみようと思い立った。当面の目標地点を、御用邸近くにある山口蓬春記念館に設定する。逗子海岸を右手に見ながら渚橋を渡り、切り通しを過ぎるとすぐに鐙摺(あぶずり)海岸、ここからが三浦郡葉山町。郡という行政区画が新鮮だ。葉山マリーナからはヨットのマスト越しに白くなった富士山が見える。葉山いちばんの繁華街?元町あたりには海鮮や地中海風料理の洒落た店が多いが、昼飯にはまだ早い、先を急ごう。とは言えバス道路を1時間半も歩くと散歩の楽しみは薄れ、自分で立てた計画を悔やむ。やっぱり途中からバスに乗ればよかったかなぁ。ようやく県立近代美術館葉山の白い建物が見え、バス道路から山側の小径へ入る。
眺めのいい座敷
山口蓬春記念館は、画家の邸宅が改装されて小さな美術館に生まれ変わった和洋折衷の建築だ。手入れの行き届いた梅林の坂を上ると、玄関横に陽当たりのいいテラスが見える。コーヒーでも飲みたいところだ。(飲食サービスはありません、念のため)こじんまりした旅館のような館内には、日本画を飾った小さな部屋が三つ、渡り廊下の奥には、南と北の窓から素晴らしく明るい光が差し込むアトリエがあった。瑞々しい緑が優しい風景画(日本画)を数点見て、二階の座敷へ上がってみた。明るく開放的な縁側からは葉山一色海岸が見える。一人静かに畳に座っていると潮騒が聞こえてきそうなくらいの海の近さだ。田舎の実家にでも帰った気分で、ごろんと横になりたい衝動を抑えて一休みした。傾斜地に広がる庭を一巡りして門を出る。
潮騒の小径
この辺りはクルマが通るのも大変なくらいの(場所によって通れない)曲がりくねった小径が多く、散歩愛好者にとっては楽園だ。古い石塀には黄色いツワブキが咲き、所々に美しい古民家や洋館が残っていたりする。カフェやレストランとして蘇っている所もあるが、大半は予約が必要だ。小径をぶらぶら歩いて、旧役場前のバス停近くで葉山食堂というレストランを発見。お腹もそろそろ限界だし、入ってみた。葉山牛を使ったメニューの中から『たたき丼』を注文。あっさりしたポン酢系のたれに、牛肉の焼き加減もよろしく、量より質の年頃の私にはピッタリの一品でした。地場野菜のサラダとコーヒーがついて1,600円。
散歩の仕上げはトレッキング
葉山という地名の由来は、“端山”から来たという説があるそうだ。端山とは文字通り山の端の意味。葉山を歩いていると山が海の近くまで迫っている景色をよく目にする。一色海岸の裏手にあたる三ケ岡(さんがおか)山ハイキングコース登り口がレストランの裏手にあったので、昼食後ではあったが気楽に登り始めてみたのだが、これが誤算だった。いきなり急登坂が100mほど続き、息は切れ、ふくらはぎは痛い。登り切った後は、明るい尾根伝いの林を20分ほど歩く。右には遠く江ノ島、左真下に一色海岸がパノラマのように開け、苦労を忘れる。下り道も転げ落ちそうな階段を真名瀬海岸へ真っ逆さま。楽しかったけれど、ハイキングというよりはトレッキングと呼んだ方がいいかも。しかし葉山が“端山”であることを、身をもって体験出来ました。帰りはきれいな夕焼けを見ながら、もちろんバスに乗って。
山口蓬春記念館
初冬特別展『山口蓬春と風景画・画家の愛した美しき日本のすがた』
2013年10月25日(金)〜12月23日(月・祝)
住所:神奈川県三浦郡葉山町一色2320
TEL:046−875−6094
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで) 毎週月曜休館
入館料:企画展 一般500円 高校生以下無料
特別展 一般600円 高校生以下無料
葉山食堂
住所:神奈川県三浦郡葉山町一色1758−8
TEL:046−876−3272