from パリ(河) - 24 - パン大国と思いきや、
フランス人ってイモ好きなんです。

(2013.03.18)

フランス人の主食は……。

フランスの主食が、パンであることは今更言うまでもないことですよね。クロワッサン、ブリオッシュ、バゲットなど、いろんなパンがありますが、日本のご飯に相当するものは、日本でフランスパンと呼ばれている、皮はかりっとして、中はもちもちの細長いバゲット(Baguette)ということも言うまでもないことでしょう。この国では朝も夕方も、バゲットを小脇に抱えて歩く人たちを見ない日はありません。カフェでもレストランでも、料理を頼むと、バゲットはオーダーしなくても無料でふんだんに振る舞われます。もちろん、おかわりも自由。フランスに来る日本の方々が、料理そっちのけで、口を揃えて賞賛するのもパンの美味しさです。

しかし、フランスにはパンに負けないほどの存在感を示す、もうひとつの主食と言っても過言ではない食材があります。それはじゃがいも。日本人がフランスを語る時、よく「おフランス」というように、フランス人は毎日、繊細な料理を食べていて、「じゃがいもなんてあんまり食べないでしょう」、と誤解されがち。「イモ」と聞けば、ドイツ料理を思い浮かべる人のほうが多いのではないでしょうか。しかし、フランス人のイモに対する情熱には並々ならぬものがあるのです。

じゃがいもにかける情熱。

フランス語でじゃがいもは、「ポム・ド・テール(pomme de terre)」と言います。りんごの形に似ていたことから、「大地のりんご」を意味する、この名称が付けられたそうです。南アメリカ原産のじゃがいもがヨーロッパに初めて入って来たのは16世紀。フランスでは長い間敬遠され、家畜の飼料として使われていましたが、飢饉に見舞われた18世紀、当時の軍所属の薬剤師で農学者でもあった、アントワーヌ=オーギュスタン・パルマンティエが、じゃがいもの栄養価が高いことに目を付け、その普及に尽力したことで、フランス全土で栽培、消費されるようになりました。フランスでは彼の名を冠した、アッシ・パルマンティエ(ひき肉にマッシュポテトを重ねたオーブン焼き)という、国民の愛する伝統料理があります。

今では、家庭でもレストランでも、じゃがいもの付け合わせのない料理を挙げる方が難しいほど、ポピュラーになっていますが、そのレシピの豊富さは、さすがフランスとうなるほど。美食の国は、脇役のイモ料理であっても、ヨーロッパの他の国の追随を許しません。どのメインにどのイモ料理を合わせるか(というよりも、どのイモ料理にどのメインを合わせるか、と言ったほうが正しいかもしれませんが)においても、黄金の組み合わせがあります。フライドポテトは牛肉のステーキ、生肉のタルタル、ムール貝のマリネの必須の付け合わせ。クリーミーなピュレはソーセージ料理とともに。まるごとを茹でたほくほくのじゃがいもは、舌平目のムニエル、ブイヤベース、スモークサーモンなどの魚料理に合わせて。薄切りのじゃがいもをミルクで煮てオーブンで焼いたグラタン・ドーフィノワには子羊料理。その他にも「パン屋風オーブン焼き」、「ドーフィーヌ風揚げ物」、「千切りのガレット」など、魅力的な脇役がたくさんあります。メインの2倍以上のボリュームで出てくるじゃがいもを、眼を輝かせて幸せそうにペロッと平らげ、メインよりもイモの評価で熱弁を振るう…それが、フランス人なのです。


ベルギー名物の「ムール貝のワイン蒸し(MOULES MARINIERES」はフランスでも大人気。必ずフライドポテトが付きます。だし汁におイモを浸して食べてもおいしい。

ライヨール名物「アリゴ(ALIGOT)」は、トム・フレーシュというチーズをマッシュポテトに混ぜ込んだ料理。ソーセージの付け合わせとして良く登場します。大体メインよりも2倍以上のボリュームででてきますが、スレンダーなパリジェンヌでもペロッと食べてしまします。

リヨン駅構内にある、歴史建造物指定のパリの老舗ブラッスリー『トラン・ブルー(Train bleu)』。内装はゴージャスですが、料理はシンプルな伝統料理。ジャガイモ料理も豊富。

トラン・ブルーにて。鴨肉を使った、ちょっとオシャレな「アッシュ・パルマンティエ」。でも、牛肉を使った素朴なパルマンティエのほうがおいしいかな。
じゃがいも料理へのこだわり。

フランス人が特にうるさいのはフライドポテト。日本ではフレンチフライとも呼ばれることからわかるように、フランスが発祥の地と言われています(これはベルギー人と意見が分かれるところ)。こちらではポム・フリット(Pommes frites)、もしくはフリット(frites)という愛称で親しまれています。彼らにとってまず重要なのはその量。フリットが皿からはみでるほどの十分なボリュームでなければ、この世の終わりとでもいうような、ブーイングの嵐。ケチャップなんて、生粋のフランス人には邪道。塩だけでいただきます。太さに関しては、人それぞれ好みがあるけれど、5ミリ~1センチ角ぐらいが定番。挙げ具合は、上手に2度揚げした、外側はきつね色でカリっとしていて、中はほくほくでジューシーなポム・アリュメット(Pommes allumettes)であれば理想的。最近はレストランでも冷凍が多いけれど、生のじゃがいもから手間暇かけて作った自家製のフリットであれば、リピーター客が増えることはもう間違いなしです。

じゃがいもがメイン級の料理もたくさんあります。特に北部のほうでは、チーズを組み合わせたレシピが豊富。代表的なのものとしては、鉄板でトロトロに熱くなったチーズをかけて食べる「ラクレット」や、玉ねぎ、ベーコンと一緒に白ワインで煮込んでルブロションチーズをのせて焼いたグラタン、「タルティフレット」などがあります。フランスに来たら、パンだけでなく、ジャガイモ料理もぜひぜひご堪能ください。


フランスの古典ビストロ料理、生肉のステーキタルタルにもフリット。

街角のお惣菜屋さんのグラタン・ドーフィノワ(Gratin dauphinois)。ニンニクとじゃがいもと牛乳、というシンプルな材料でつくるので、おいしく作るのは結構難しい。