from 福岡 - 3 - 江戸時代から受け継がれる味と心。林酒造 銘酒「九州菊(くすぎく)」とは。 Vol. 2

(2010.05.25)

蔵元(林酒蔵)より連絡がありました。平成21酒造年度(平成22年度) 全国新酒鑑評会の審査結果が5月21日に発表され、「金賞」を受賞することができました。本当にうれしい受賞です。聞いたときに思わず拍手をしてしまいました。連載最中にこのうれしいニュースを皆様にいち早くお届けできたことも非常に喜ばしいことです。また、知らせによろこんでくれる方々の気持ちがさらにうれしく、これからもよい酒、愛される酒をお届けできるよう頑張っていきます。今後ともご愛顧のほどよろしくお願いいたします。

連載途中に失礼致しました。前回からひき続き九州菊の昔話にお付き合いくださいませ。

 

米を選び、水を吟味する。

水と米は極めて重要な酒の主原料です。

米は、酒用に造られた酒米と呼ばれる米を使います。酒造好適米は、山田錦、美山錦などがあげられ、これらの品種は、気候や風土を選ぶものが多いです。また、生産地や生産量に限りがあるので、割高になります。産地によりけりで、高ランクのものは入手が極めて難しいのです。また、たくさんの地産米も林酒造では使っています。

名水どころに名酒ありといわれるように、良質な水なくしておいしい酒はできません。酒の味は水のよしあしによってきまるといっても過言ではないのです。林酒造には、英彦山からの伏流水をひく井戸があります。酒造りに適した名水の条件は、麹菌と酵母の働きを助ける水。それらの栄養となるカリウムとリン酸、そして、マグネシウム、カルシウムなどの成分が多く含まれている水がよいとされています。さらに水には硬水と軟水があり、硬度区分されます。硬度とは水にふくまれるカルシウムイオンとマグネシウムイオンとの含有量の合計のことをいう。一般に硬水だと辛口の切れのよい酒(男酒)、軟水だと甘口でマイルドな酒(女酒)ができるといわれます。良質の水の確保が酒造りには重要な条件です。林酒造の水は硬水。酒造りに最高の水が絶えることなく井戸よりこんこんと湧き出ています。

今川は英彦山が源流で崎山、犀川、豊津、行橋を通って玄界灘に注ぐ。

蔵の裏には、今川が流れています。幼いころは親戚中の子供が集まり林家でお泊り会をしていました。古い家だったので歩くたびにきゅーきゅーときしむ家でした。大きな部屋で何十畳とあったのを覚えています。夏休みのたびに遊びに来ては川で泳いでいました。今では笑い話ですが、私が3歳ぐらいのころ、浮き輪で川を泳いでいて、ついつい、うたたねをしていました。あれよ、あれよと、浮き輪の中の私は寝たまま川を流されて下流へと向かいました。車で従兄弟が追っかけてきて、橋から棒をたらして救われたというのを聞きました。流れながらずっと寝ていたそうです。どこまで寝れば気がすむのか。とあきれかえるエピソードですが、ありえるなぁとのんびりした私は思います。また、川に飛び込んではめだかをとり、大きな水槽に放してあげようと、お風呂に放して全滅してショックを受けたのも鮮明に覚えています。子供のころにこういった大自然で遊んでいたからこのようにのびのびと育ったのであろうと感謝しています。今の子供たちに、大自然をこのように学ばせてあげられないだろうか考えたりします。

 

剣道と林酒造。

幼いころに、母親をなくした九郎は、はやくに武道に打ち込みました。柔道、また、剣道については小学校から始め中学校卒業までに剣道6段を習得、家業のかたわら屋敷内に剣道場「練心館」を建てました。長男(4代目)平作は現在、教師(7段と8段の間)となり、孫、曾孫も門下生ですがが、門下生には非行者はいないといいます。また、碁にも励んでいたようです。5代目の龍平(私の従兄にあたる)にいわせると、碁をしている祖父しかみたことがないと……。ビジネスの展開がうまかったのは、碁で陣取りの業を覚えたからであろうかと思ったりもします。

林酒造、横に位置する剣道場「練心館」では剣道を通じて、門下生に剣道を通じての心の指導をします。「心が変われば、行動が変わる。行動がかわれば人生が変わる」という言葉を耳にしたことがあります。

剣は心なり
心正からざれば
剣また正しからず
剣を学ばんと欲すれば
まず心より学ぶべし
(練心館道場訓)

練心館 屋敷内にある剣道場。門下生約20名が練習に励む。
剣道の理念。
剣道場の様子。

剣道をすることで心の鍛錬を行い素晴らしい人間になって欲しいとの願いがこめられて名付けられた道場。この道場では「技より心を磨く」ことに重点を置いています。九郎の息子、平作は、剣道8段、その孫は、5段、また、曾孫も剣士です。剣道場には、月曜日から木曜日まで門下生が練習に励んでいます。無償でおしえているために、季節になると門下生の御家族から野菜などが届き季節の野菜で家は一杯になります。同じころに同じ野菜をいただくため、その野菜のおすそ分けを我が家もうけています。「剣道は基本が大切である。技術は後で、まずは、日常生活や剣道に取り組む姿勢を最初に身につけることが大切だ」と指導にあたる従兄弟、龍平はいいます。生徒それぞれにどう教えるか試行錯誤しながら指導にあたっています。練心館道場の文字をみると私はいつも思うのです。「心の鍛錬」を果たして自分がしているだろうかと。忙しさにかまけて自分を見直す時間がないのではないかと思うこともあります。会うことはなかった祖父が孫の私にも考える機会をこうやって与えてくれているのでしょう。

 

山あり谷ありの日々。

昭和34年、地方の酒が全国どこでも手に入るようになりました。逆に、大手の酒も地方で手に入るようになっていきました。大手メーカーは造れば売れるという時代になり、「樽買い、樽売り」という、地方蔵が産した酒を自社醸造主としてマーケットにだしていきました。酒は、瓶につめた時点で課税対象となります。それゆえ、大手メーカーにとっても地方蔵にとっても、経営上、利点があるのです。しかしながら、そういった売り方は地方蔵のもち味をどんどんと薄めていきました。大手メーカーの指示のもとで造られていったからです。そんななか、樽売りに頼っていた地方蔵は、大手メーカーとの取引がなくなると姿を消していきました。

このような中でも、林酒造は生き残っていきました。地域に根付いたのは、地域に生かされ、地域に生きる酒蔵であったからです。そして、自分の銘柄でいけるという気概があったから。さらに、行橋酒販会社のおかげで、販路を確保したことも生き残ることができた要因です。

 

地域と生きる。

林酒造は、地元の人にいかに喜ばれるような酒造りをしようかと今も昔も奮闘しています。崎山の農組合や農協と酒造場が一体となって、酒造りに取り組んでいます。そのほかにも地元犀川米を使っての酒造りにも力を入れています。コストや米の質だけでなく地域に与える影響をも考慮にいれているのです。「地酒とは、地元の人に愛されて、かわいがってもらってはじめて地酒といえる」としばらく前に従兄弟、龍平が言っていたのを今思い出しました。納得です。ありがたいことに、京築管内で、林酒造の銘酒九州菊といって知らない人にあまりお目にかかったことがありません。行橋エリアのどのレストランに入っても九州菊はおかれていました。看板に九州菊とかかれているところも少なくありません。さらに、ごみ分別で、「九州菊」用の瓶分別があったときには、正直こちらもたまげてしまいました。地域に生かされ、地域に生き、そして、九州菊は地酒蔵として愛されているのがみてとれます。

私は、北九州市小倉にて九州菊の特約店として酒販業を営んでいます。従兄弟が、林酒造(造り)、行橋酒販会社(卸)、そして、我々は小売を営んでいるのです。京築エリアから離れた小倉にも九州菊のファンがたくさんいます。「遊友会」と呼ばれる会を林田酒店主催で11年ほど前から開いています。先代、林田正義がはじめ、地産池消を元に、地米で酒を造ろうというものです。このとき造られるのは「さきやま」という地米を使った酒。6月の田植え、果物狩り、11月の稲刈り、野菜堀り、そして、2月の新酒会とジャズを楽しむ会を催しています。子供に農と食を学ぶ機会を与え、また、新酒会では親も大いに楽しむ会となり、新酒会にいたっては120名のいりとなりました。北九州に住む九州菊のファンがボランティアとなりこの会を手助けしてくれているのです。本当にありがたいです。
 

子供たちがなれないもちつきをする様子。
もちをみんなで丸めて、さらに、おいしいおもちになりました。
蔵開きの遊友会では、120名を上回る参加者たちがジャズと新酒またしし鍋を楽しみました。
林酒造場にてしぼりたてのお酒をいただきました。

6月初旬には田植えを体験。

今年2月にできた様々な九州菊の酒。
季節限定の生酒。19度もあるのでお気をつけあそばせ。

地域にかわいがってもらえる酒であり続けるために、また、福岡の地酒、九州の地酒、さらには、日本の酒となるべく日々邁進します。

そんな私たちを九郎じいちゃんは、九州菊を飲みながら、碁をうちうち、上からのぞいているのでしょう。私は煙突を見上げました。そこには、雲ひとつない空が大きく広がっていました。

 
 

林平作酒造
住所:福岡県京都郡犀川町崎山992-2
Tel:0930-42-0015

販売部:林田酒店
住所:福岡県北九州市小倉北区京町2-3-17
Tel:093-521-2368
http://www.oh-sake.com/