田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》
ベトナム街歩き2ホイアンの夜
ランタンに彩られる古い港町
(2014.05.19)

ランタンの街
昼間はまるでキリコのシュールな絵のように人通りも少なく、時間が止まったように静まり返っていたホイアンの旧市街にも、陽が沈む頃になると心地よい川風が吹いてくる。暑い昼間は昼寝でもしていたのだろうか、いったい何処にこれだけの人が?と驚くほどの観光客が川沿いの小さな街のあちこちに繰り出して、古い街は再び生き返ったような賑わいを見せ始める。昼間歩いた時にも目立ってはいたのだが、建物の軒先に吊るされたランタンには明かりが灯り、よりいっそうその存在を強調する。赤、黄、紫、橙、白、色とりどり、丸いの、円筒形、ソロバン玉みたいなの、形も大きさも様々だ。
タイムカプセルの街
ホイアンの街を歩くのは、なぜ心地よいのだろう。世界遺産に登録された旧市街では、通りをクルマが走っていないのでのんびり歩ける。二階建ての木造の家の連なりは視野を遮るものもなく、広い空が開放的な気分になる。通りは微妙に曲がっていて、狭い路地もあれば川端もあって散歩するには最高。そして古い瓦屋根のアジア風木造民家は、間口が狭く奥行きは深いので入れば暗いが井戸のある中庭は開放的で、なんだか久しぶりで故郷に帰った時のように優しく迎えてくれる。
17世紀にアジア交易の拠点港として栄えたホイアンは、洪水でドゥボン川に堆積する大量の土砂で次第に港が埋まり、帆船が寄港できなくなるのと同時に次第に廃れる。産業革命とともに大型蒸気船が交易する時代になると古い港町は完全に忘れ去られ、幸か不幸か元港町のままタイムカプセルのように保存された。ホイアンの民家は度重なる洪水にも耐えられるように1階の天井が高く設計されているそうだが、自然の災害だけでなく、産業革命という人類の歴史の大波さえも(結果的に)耐え抜いたことを思うと、運命みたいな大きな力がこの小さな町を守ってくれたのだろうか。