from 東北 – 16 - 深雪、銀山、onsen、郷愁宿る風景へ。

(2011.02.02)

二月、もっとも雪が深くなる季節が訪れる。東北の雪は、しっとりと重い。ゆえに雪景色につつまれ、風情を眺め愉しむことができる。雪化粧の美しいところはどこ、と尋ねられれば、私は決まっておすすめする温泉地がある。

それは、出羽の名湯で知られる、山形県・銀山温泉だ。

歴史を紐解けば、はじまりは江戸時代までさかのぼり、名称は大銀山として栄えた「延沢銀山」に由来する。大正二年には銀山川の大洪水に遭い、ほとんどの旅館が流された歴史も残されている。栄枯盛衰を得て、現在を迎える銀山温泉。

さて、この銀山温泉は四季折々にその姿を変化させるが、深雪に覆われるこの時期はひときわ味わい深い。かけながしの温泉が冷えたからだを心地よく温めてくれる。料理は地元の素材がふんだんにとりいれられた鍋料理を中心に、美味の品々が並ぶ。話はそれるが、私が好みなのは、県産の牛肉のサイコロステーキだ。ほどよい大きさの片に、たっぷりと旨みが凝縮されている。どこのお宿かは、ここではふれないことにする。宿泊された際に、サイコロステーキに出あったときは、「このことか」と思い出していただければ幸いだ。

そして誰もがテレビなどで一度は見たことがあるであろう、大正時代の面影が色濃く残る、ノスタルジックな景観。川を挟んだ両技師に、ふわりと灯るガス灯。対峙して軒を連ねる、外装は和風、内装は洋風という大正モダンのつくりの旅館は木造三層四層の風格ある佇まい。銀世界に彩られたその景観が、さらなる浪漫を演出してくれる。

深雪は静寂の世界をつくりあげ、ざわめく日常から切り離す。雪のため、宿街を散策するというよりは、ゆったりと自分の時間を過ごす。この時間の使い方というのが贅沢であり、この時期の銀山温泉ならではの贈り物であると思うのだ。雪化粧につつまれた銀山温泉は五感の楽しみだけでなく、プラスアルファの喜びも与えてくれる。

本年もはじまったばかりであるが、今年の目標に向かって、今一度、己を見つめなおしてみるのも良いのではないだろうか。