from ナパヴァレー - 2 - ナパヴァレーを舞台とした映画『サイドウェイズ』の裏話。

(2009.10.31)

今回は、10月31日より全国の映画館で上映される、ナパヴァレーを舞台とした映画『サイドウェイズ』について書かせて頂こうと思います。この映画についてはもう既に様々なメディアで紹介され宣伝していますのでご存じの方も多かろうと思います。実はこの映画が昨年秋ナパヴァレーで撮影される際、私はナパ・アドバイザーとして様々な面で制作サポートをさせて頂きました。また、その後今年に入ってからは、スポンサー・タイアップ、ワイナリーとのコンタクト他、映画プロモーション全般に関してもお手伝いさせて頂いてきました。そこで、この映画の上映というタイミングに際して、読者の皆さまに映画をより面白く楽しんで頂くために、一般には公表されていないプロジェクトの一員ならではの裏話を書かせて頂こうと思います。

『サイドウェイズ』 2009年10月31日上映

ワインや映画を好きな方々は『サイドウェイズ』というタイトルを聞くと、あれ?と思われる方も多くおられると思います。この映画は米国20世紀Foxの2004年公開・第77回アカデミ―賞で二つのゴールデン・グローブ賞に輝いた日本版リメイク作品です。それゆえ、私が初めてこの映画製作のことを耳にしたときには、上映後さほど年月が経過していない映画がリメイク?と直ぐには信じられませんでした。しかも比較的地味な映画だし。しかし、現地で『The Bottle Shock』(ナパヴァレーを舞台とした日本未公開2008年の米国映画)の映画プロデューサーからこの映画のシノップスを見せられ、なるほどとビックリしつつも納得した次第です。ちなみに、この時私が入手した英文シノップスの作品タイトルは『テロワール』でした。後になって関係者から聞いた話ですが、オリジナル作品はかなりきわどいセクシャル・シーンが多いゆえ、撮影時に現地ワイナリーの拒絶反応を和らげる目的で、オリジナルとは一線を隔した仮タイトルにしたとのことです。

その後、日本の撮影スタッフが私の著書『ナパヴァレーのワイン休日』を現地に持って行っていた事、映画の冒頭シーンで道雄(小日向文世)が読む本として私の書籍が登場した事等、諸々の経緯を経て私とこの映画のご縁が出来た次第です。また、この原稿を書く直前までは、劇場用映画パンフレットでエッセイ&写真と監修を、『日経エンタテインメント別冊ムック~サイドウェイズ・オフィシャルガイド』(10月26日発売)でも6頁にわたるエッセイ&写真、あるいは現地についてのアドバイスをさせて頂いておりました。

映画スタッフと制作部隊。

この作品は20世紀フォックス映画とフジテレビジョンが共同出資し、木村拓哉主演『HERO』や福山雅治主演『容疑者Xの献身』等フジTVと組みなれたプロダクション・シネバザール、及び米国L.A.のプロティン・イメージ・グループ(P.I.G)が制作にあたりました。それゆえ、撮影現場ではハリウッドの外人スタッフを中心に、総勢約80名の日米混合制作チームが編成されました。脚本は上杉隆之氏で、英文台本を読んだ前述プロデューサーからは、作品賞を受賞したオリジナルより面白いとの評もありました。

監督はCellin Gluck(チェリン・グラック)氏で、彼は日本の映画やCMが海外で撮影される場合などに現地ユニット監督として携わってきた人物で、ロサンゼルスに在住する日系ハーフです。松田優作の『ブラック・レイン』、近年では『20世紀少年』等の作品に関わっています。また、撮影合間のたわいない会話で分かったことですが、彼は6歳まで日本の和歌山市に生まれ育ち、その彼の自宅で私の無二の親友が彼の母親から英語を教わっていたとのことです。この奇遇な出会いから、チェリンと私は気軽にメールや会話を交わす関係となった次第です。まことにSmall Worldな話です。

撮影部隊は、最盛時にはクレーン車・照明機材車・ジェネレーター車・ケイタリング車・出演者キャビン車両等、大型車両だけでも約10台、役者やスタッフの移動車も含めると20台はくだらない大車両編隊となりました。それゆえ、部隊全体が移動すると町や道路を占拠し余計な時間もかかる事から、ナパヴァレー最北の町カリストガにある公園にベース・キャンプを設け、ここからシーンごとに出番の役者と機材車が現場に出向くシステムを組みました。また、ストーリー展開の中心が、カリストガでの撮影であったことから、スタッフ宿泊施設もここから比較的近いソノマのサンタ・ローザにあるホテルが選ばれました。ソノマの方が宿泊施設も安く、規模も大勢のスタッフを収容するのに適しているからです。


ナパヴァレーでのロケ風景。

撮影から上映へ。

撮影は2008年10月3日からロサンゼルスを皮切りにナパヴァレー中心に展開され、11月4日に無事終了しました。その後約3カ月間の編集作業では、日米間でネット回線による動画編集のやり取りがされ、2009年2月26日には出演者を含む制作関係者だけの試写会が五反田のイマジカで行われました。その後、6月9日にカリフォルニア州観光局とのタイアップ・プレス試写会、7月10日にはFox主催の映画関係マスコミ試写会等々を経て、10月5日東京国際フォーラムで現地ワイナリーからのゲストと一般映画ファンを含む完成披露試写会Japan Premierが開催されました。

特筆すべき事は、これに先立つ9月27日、ナパヴァレー現地の「ワインカントリー・フィルム・フェスティバル」で特別参加作品として上映された事です。また、会場も当初予定していたセントヘレナの老舗映画館『カメオ』では希望参加者を収容しきれず、急遽ナパ市にあるExpoグラウンドの野外試写に切り替えられたことです。当日は、菊地凛子さん、チェリン監督、サンフランシスコの日本総領事の長嶺夫妻らのゲスト出演もあり、現地に住む日本人の方々を含め約500名の観客が訪れ、大変な盛り上がりを見せました。観客は自分たちの町の馴染みあるワイナリーやレストラン等が登場する度に大きな声援や拍手をおくり、とてもリラックスした楽しい試写会となり、現地のマスコミでも話題となりました。その事は、当日スクリーン前舞台でスピーチしたナパ市長からの「この映画上映日9月27日を“サイドウェイズの日”に制定する」という粋な祝辞にもあらわれています。

今後この日本版『サイドウェイズ』は米国他海外での上映も視野にあり、カナダのトロント映画祭等、様々な映画祭に出展される予定となっています。
 
出演者とその裏話

出演者は、鈴木京香さん、菊池凛子さん、小日向文世さん、生瀬勝久さんと今最とも売れている役者さんたちで、これら役者さんがこの期間日本を空ける調整はさぞ困難をきわめたであろうと想像するに難くありません。

斉藤道雄役は小日向文世さん。彼はドラマで演じているごとく普段も変わりなく気取らない性格で、その笑顔絶やすことない人柄はスタッフ全員から親しまれていました。

物語を盛り上げ、笑いをつくるのが上原大介役の生瀬勝久さん。的確なキャスティングというべきか、彼の関西人DNAが役柄にピッタリはまりストーリー盛り上げ役として笑いづくりに寄与していたと思います。出番がない時には休憩所で周りのスタッフたちと会話を楽しんでいた小日向さんに対し、生瀬さんは次の仕事の準備の為か出番のない時にはキャビンにいる事が多かったような気がします。いずれにせよ、この二人は生来のキャラクターが役柄にピッタリとはまり、ボケと突っ込み役を見事に演じていました。

アメリカ生まれの日本人ミナ・パーカー役を演じているのが、一番若い菊地凛子さん。ご存知の通り彼女は日本人女優としては珍しいハリウッド作品『バベル』でアカデミー賞候補となった女優で、一味違った洋風スパイスで映画を盛り上げていました。素顔の彼女は気取りの無いキュートな女性ですが、撮影後久しぶりに全員が集まった試写会では他の役者さんの演技に拍手や笑い声でエールをおくり、試写室の盛り上げに気遣っていたことが印象的でした。彼女はお米が大好きとのことで、ロケの合間にはビニール袋にご飯とふりかけを入れシェイクし食していました。なるほど、ロケ地のキャビン車で手も食器も汚さずにご飯を美味しく食べられる便利な方法と感心したものです。

主役の田中麻有子を演じるのが鈴木京香さん。さすがベテラン女優だけあって、その落ち着きと美しさはオーラを放っていました。プライベートな面でも、人気のレストランやワイナリーに興味を持つ研究熱心な方で、お陰で私も彼女と楽しい時間を過ごすことができました。ナパヴァレーには全米に知られるグルメなレストランが軒を連ね、予約がとりづらく、現地情報に強くコネクションのある私にレストランや一般公開されないワイナリーへの案内役というお鉢が回ってきた訳です。京香さんは白ワインではFlowersやKistler等、カリフォルニアのシャルドネに特に興味を持たれていました。

皆さんに羨ましがられる話をもう一つ。映画撮影が連日つづくある日の夜、鈴木京香さんはセット待ち、しかし既に出番を終えた小日向文世さん、生瀬勝久さんや菊池凛子さんもホテルに戻らず全員がキャビン車に閉じこもっていました。彼らはスタッフにオニギリと稲荷寿司を振舞うため、4人で準備を進めていたのです。

和食から遠ざかっている日本人スタッフには勿論のこと、外人スタッフにとっても味気ないケイタリング車の食事(失礼)には飽きているだろうという優しい配慮からです。そして、鈴木京香さん自らが「濱本さんどうぞ」と私に差し出してくれたのは紙皿に盛りつけられた稲荷寿司とオニギリでした。また、その京香さん自ら作ったという稲荷寿司の揚げとご飯の味付けは、ロケ地のキャビン車でつくったものとは思えない素晴らしい出来栄えであったことはいうまでもありません。
 
なお、私本来のライフ・ワークであるナパヴァレーのライフ・スタイルに加え、今回この映画と深い関わりを持ったことから、“『ナパヴァレーのワイン休日』と『サイドウェイズ』のロケ地を訪ねる”旅が催行されることとなりました。

この旅は、ワインだけでないナパヴァレーの魅力を一冊の本にまとめた私が、自ら語り部としてご案内するエッセンスの濃い旅です。お問い合わせは日新航空サービス青山支店、もしくは私のHPをご参照下さい。

最後に、登場したワイナリーはBeringer、 Darioush,、Domaine Chandon、Frog’s Leap、Groth、Kirkland Ranch、Newton、St.Supery、飲食店はBistro Don Giovanni、bar vino、Café Sara-fonia、ショップはEnoteca、Oakville Grocery、宿やSPA等はCalistoga Village Inn & Spa、Golden Haven Hot Springs、観光名所はOld Faithful Geyser、(ABC順)そのシチュエーションについてはまた次の機会に……。

『サイドウェイズ』映画パンフレット600円(税込み)/東宝
『日経エンタテインメント別冊ムック~サイドウェイズ・オフィシャルガイド』1,300円(税込み)/日経BP