from パリ(田中) – 31 - シテ島の鳥の市、パリの師走。

(2009.11.30)
夏の太陽はどこへやら、16時半過ぎるともう夕焼け空が。10月25日から、こちら冬時間。

今年のパリの秋は暖かい日が多いようだが、11月も残り少なくなるとさすがに街路樹の葉っぱも数えるほどとなり、コート姿やマフラーが目立ってきた。東京では二の酉が24日とか、目黒の大鳥神社へ縁起物の熊手をひやかしに行ったことを思い出す。酉の市も終わると師走、そろそろ本格的な冬の到来だ。パリの天気予報でも12月からは厳しく冷え込む、らしい。

ところで、パリにも酉の市ならぬ鳥の市がある。それも毎週、日曜日に。シテ島の真ん中、メトロのシテ駅そばにある花市場(という程ではないが、花横町みたいな)の裏手に市が立つので、遅い午後に散歩がてら出かけてみた。観光客でいつも賑わっているノートルダム寺院やコンシェルジュリーに挟まれた花市場のあたりは、シテ島とは思えない静けさだ。100メートルに満たない道路の両側に、オウム、インコ、カナリヤ、文鳥、鳩や鶏、初めて見るような原色の鳥が並ぶ。

50ユーロのダイヤはいかが? それにしても塗り絵みたいな小鳥。
放し飼いのオウムもいる。脱走?したりしないんだろうか。
♪人々の愛を受ける為に飼われて 鳴き声と羽根の色でそれに応える カナリアカナリアカナリア♪(井上陽水) カナリヤの声は、なぜか短調に聞こえる。
セキセイインコは物まね上手。コイツの前でうかつなことは喋れません。
おやじの目は猛禽類。恥ずかしがりやのオウム、ピンクに染まって、素敵。
背中の二羽のインコが天使の羽根のような鳥飼のおやじ。それにしては、糞にまみれてるが。天使はフランス語でアンジュ、un ange 男性名詞だ。辞書を引いたら、discuter du sexe des anges(天使の性別を議論する)=ムダな議論をする、という例文が出ていた。

カナリヤのさえずり、オウムの野太い声、ちょっと寒いが南の島へでも来たようだ。こぼれた餌を狙って野生のハトも街路樹に群がってせわしない。鳥かごや巣、えさなどのグッズも揃っていて、子どものころよく行ったデパートの屋上のペットショップみたいな雰囲気。兄と育てた十姉妹のことを思い出す。小指の先程の卵から孵ったヒナに、すり餌を作って与えたりして、みるみる増えたが夏休みにアオダイショウに飲み込まれたりして、いつのまにか減ってしまい、長いこと鳥かごは納屋に放ってあった。小さな動物は愛らしい分、死んだ時に悲しい。

縁日には必ずいたウサギ。子どもにはピーター・ラビットの世界。

子ども連れの客が目立つが、散歩中のカップルもいれば、真剣に品定めしている愛鳥家も多い。子どもたちに圧倒的な人気なのは鳥ではなくウサギだ。藁を敷いた箱に入った小さなウサギを見ると、思わず子どもの歓声が上がり手が延びる。柔らかい毛が気持ちよさそう。日本ではウサギを一羽、二羽と数えるが、鳥の市に参加しているのはそんな理由ではない、だろうな。

話は変わるが、市場の食肉売り場で皮を剥がれたウサギ(ラパン)を見ると、私は条件反射で因幡の白兎のストーリーが頭に浮かぶ。可哀想ではあるが、美味しいマスタードをたっぷり付けて食べるウサギ料理Lapin a la moutardeは、私の大好物です。

花市場には、ちょっと前までは万聖節Toussaint(11月1日)の墓参り用に、白や黄の菊の鉢がたくさん並んでいたが、今はクリスマス用の鉢に入れ替わっている。シクラメン、アザレア、椿などの品揃えは東京の花屋と変らない。派手なポインセチアはまだあまり見ない。リースなどの飾り物を置いている店もあって、酉の市の大きな熊手みたいにデコラティブなものが多く、これを部屋の壁に掛けるのはなんだかちょっと気が引ける。こういった小物や雑貨類のお洒落なセンスは、今やトーキョーの方が進んでいるような気がする。趣味嗜好の違いかなあ、日本は控えめの美学の国だから。

酉の市の熊手と、パリのクリスマスリース、どちらも派手さでいい勝負。
冬の花は今や世界共通? 切り花には、もう春のアネモネやチューリップもあった。