from 東北 – 11 - 冬と春、朝日町、apple、名品の背景。

(2010.03.09)

時折みせる穏やかな天気。
東北の地にも春が近づいてきた。
冬から春にかかる、この時期にぜひとも食べたい果実がある。
寒暖の変化があるこの時期に美味しい、その果実とは。

それはリンゴだ。
旬とされる時期より遅れるが
この時期のリンゴは甘みがより深くなる。
朝夕と昼の寒暖の変化がリンゴに蜜を蓄えさせるからだ。
一口齧ると、口の中に甘い液がじわり。
飲み込むと、のど口にたっぷりと甘い蜜が広がる。
果汁という潤いを含んだリンゴは絶妙だ。

さて、リンゴというと青森県のリンゴが全国的に有名だが
知る人ぞ知る、隠れた名品が山形県に存在する。
それは、霊験豊かな湯殿山麓にある朝日町のリンゴだ。
隠れた名品というのに、理由がある。
それは地元の人間でも、なかなか手に入らない。
地元の産直市場では早朝、ぎっしりと並べられたリンゴが
昼過ぎには店頭から消える。
「あっ」という間に売切れてしまうほど、人気がある。

これほど人気なのだから、もっと売ればよいのに───
───しかし、そこには生産者の思いがあった。
大量生産、大量消費、大量廃棄。まさに現代が作り上げた、壊れた経済の図。
「捨てても良いと思って、リンゴは作りませんよ。一個、一個が大切なんです」とは
ある生産者の声。それは儲けるというよりも、
大切なリンゴを必要とする人へ必要な分だけ供給するということ。
リンゴづくりへの愛が、崩れた経済の図式から回避させる。
お客もなるべく他の人にも届くようにと、必要な分だけ買っていく。
飽和が招くデフレ経済を横目に、そのリンゴの価値はみんなの手によって守られる。
品質と価値のバランスがとれた、朝日町のリンゴ。
蜜と生産者のこだわりがつまった、朝日町のリンゴ。
今、一番おいしい時期である。