from 香川 – 13 - 『瀬戸内国際芸術祭2010』女木島(めぎじま)編 桃太郎伝説に包まれた魅惑の島。

(2010.10.26)

女木島(めぎじま)

人口:197人
面積:2.66㎢
瀬戸内国際芸術祭の女木島のテーマ:自然の中で変化する光や風、音などをテーマに五感を呼び覚ます。
主な参加アーティストと展示作品:鈴木康広『ファスナーの船』、禿鷹墳上『20世紀的回想』、愛知県立芸術大学アートプロジェクトチーム『愛知芸大・瀬戸内アートプロジェクト』、レアンドロ・エルリッヒ『不存の存在』、福武ハウス2010『世界のギャラリーとスペシャルプロジェクト』、行武治美『均衡』、木村崇人『カモメの駐車場』、ロルフ・ユリアス『緑の音楽』、サンジャ・サソ『鬼合戦、あるいは裸の桃の勝利』
トリビア:大洞窟(長さ400㍍、面積4000㎡の大きな洞窟、童話桃太郎伝説の桃太郎が、高松市鬼無町から鬼退治に来たとの言い伝えがある)、大展望台、恋人岬、モアイ像、おにの灯台(御影石で作られた石の灯台)、海水浴場など
島の特産品:海産物、ニンニク、さつまいも、トウモロコシ、ピーナツ、みかん

 

高松港から、めおん2(フェリー)に揺られ、約20分の位置に浮かぶ女木島(めぎじま)は、瀬戸内の海路の要衝に位置しています。

女木島は、通称「鬼ケ島」とも言われ、桃太郎伝説が残る島です。いわゆる鬼とは、その昔、倭寇の仲間に加わった海賊ではないかともいわれており、その根城跡としての洞窟が発見されたのは1930年、地元の郷土史家の手で世に紹介されたようです。かつて鬼がいたといういわれのある、鬼ケ島大洞窟、鷲ヶ峰展望台、円山古墳、住吉神社など、島の神秘的な空間や歴史に触れることもできる魅惑の島です。

一方、過疎化が進むと同時に、島の人口は島民の65%が高齢者です。その昔、民社党の初代委員長で副総理の経験もある、政治家「西尾末広」氏を輩出しているとのことであります。

フェリーで港に接岸すると、まずは「鬼が島おにの館」がお出迎えです。観光客へのサービス提供のため、少々目を引く建物となっております。カニのようでもあり、鬼の頭のようにも見えます。昔は、波止場即砂浜だったはずですが、その記憶ははるか過去に去りました。

「オーテ」

しかし、昔から変わらない風景もちゃんと残っています。
海岸沿いには、冬に吹く「オトシ」と言われる季節風や潮風から住宅を保護するため、「オーテ」と呼ばれる頑丈な石垣が残っており、島民の生活を守り続けてきた証です。あちらこちらに、女木島ならではの、独自の風景が残っています。

 
岸壁の、くすんだ灰色のコンクリート製の防波堤上部には、規則正しく列を成している、見渡す限りのカモメの作品群があります。

木村崇人氏作『カモメの駐車場』

微妙に方向が違うのも、場所ごとに風向きに変化があるからなのだろう。試みに、1匹だけ反対にチョンと向けてみましたが、風の吹く方向にちゃんと元通り。風見鶏が同じ方向を向くことで、海岸を吹き抜ける風が流体的に知覚されるようです。構造はベニヤ板にシールを貼っていて、かなり平面的ですが、並んでいるのを遠目でみると、これが結構リアルです。なぜ、カモメなのか。木村崇人さんの話によると、鳥全般というものは、風が吹く方向を向いて留まる習性があり、人間が体感してきた自然の力をみることができる、とのことだそうです。ヨーロッパでは、魔よけの意味合いもあるそうです。この作品は、少し遠くから眺めると、海鳥が均等に休んでいるようで、感動しますよ。

「おにの館」情報コーナーで、作品鑑賞のルートを教えてもらいました。大まかに分けると、この集落付近には7作品が点在しており、女木島の頂上付近の洞窟内に1作品、その近くに1作品があります。集落内は徒歩で十分探訪できますが、洞窟までは、往復バスが運行されていますので十分に探訪することができます。また、お時間のある方は、歩いて片道30分~40分ほどで到着しますので、いろんな手段で鑑賞するのも、この芸術祭の醍醐味(105日間の冒険)でしょう。

まずは、すぐ北隣の作品を見ましょう。
でも、その手前のモアイ像がやけに気になります。これは?? 芸術祭の作品?
渋谷のモアイ像は髪の毛があったが、これはまさしくイースター島のモアイ像にそっくりです。
 

資料によると、今から約50年前のチリ大地震で、本場イースター島のモアイ像がなぎ倒され、しばらく放逐されていました。その状況を知った、地元香川県企業のクレーンメーカー㈱タダノさんが、修復プロジェクトを立ち上げ、今から15年前、現地に自社製クレーンを輸送し、当時の記録をたどりながら、見事もとどおりに起立修復した、そのときの吊り上げ実験用の像です。その後、高松市に寄贈されて、この女木島でのどかな余生を送っているとのことです。

芸術祭の作品から少し脱線したので、話を戻しましょう。

モアイ像の直ぐ北隣に、禿鷹墳上(はげたかふんじょう)氏作『20世紀的回想』です。

まず、興味を引くのが、その作者名です。禿鷹とは……インパクトあるなあ。上海出身の中国人の方で、れっきとした中国名を持っておられますが、どうも僧名であるようです。

禿鷹墳上氏作『20世紀的回想』

 

作品は、砂浜に、大きめのグランドピアノらしき漆黒の重量感ある物体が鎮座しており、その上部に帆船の帆が4本突き出ています。演奏用の椅子もあります。でも前にいくと尖がっていて、船の形にもなっています。鑑賞者の方々は、例外なく椅子に座って鍵盤に触ろうとしますが、もちろん演奏できるわけでありません。しかし、どこからともなく微かに鐘のような音が……。

上を見ると、4本のマストに横梁が微妙に接触し、微かなマリンバのごとく音を奏でているのです。海風とともに、聞こえる耳爽やかな音域は、暑さも忘れてしまいます。

 

鬼が島の洞窟行きのバスに乗り、頂上付近の「おにの洞窟」向かってみることにします。バスに揺られ、右に左に体を傾けつつ、自然のみずみずしい風景にしばし時間を忘れること約5分くらい。鬼の洞窟前駐車場に到着です。
2~3分、息をきらして階段を登ると、左手には昔ながらの土産屋が1店。あまり大きくなく、建物も昔のまま。時間の歩みが止まったかのような風情と、その背面の瀬戸内海と多島美、高松の街並みの素晴しい眺めが一望できます。

しばらく歩くと、右手の山の斜面、少し低いところが、おにの洞窟です。入り口はそんなに広くありません。洞窟一般に言えることですが、上部の緑豊かな斜面は湿度豊かであり、太陽の日差しによる蒸散の気化熱で、内部の温度が奪われ、涼しくなるのです。

洞窟の中には、ユーモラスな鬼たちの人形が展示されていて、憎めない表情で出迎えてくれます。伝説にある「鬼」とはかけはなれた風貌です。

中は、迷路のように入り組んでいて、少しばかり方向感覚が混乱しそうですが、一応の順路が分かるようになっており、その順路に沿っていくと、いきなり目の前に、人型の物体が現れます。照明に照らされた、人の皮(それも、昔どこかで見た、体中の血管のみが残された人体模型のようである)がいきなり薄暗い岩天井からぶら下がっているのです。

サンジャ・サソ作『鬼合戦、あるいは裸の桃の勝利』

アーティストは、クロアチア出身のサンジャ・サソさんです。作品名は「鬼合戦、あるいは裸の桃の勝利」です。

真鍮製のワイヤーで組まれたリアルな人体は、合戦後の残骸や悲惨さを表現しているのでしょうか。もしくは、鬼の洞窟にこめられた怨念などを具現化しているのでしょうか。

繰り返しにはなりますが、この大洞窟は自然に出来たものではなく、1931年に橋本仙太郎氏により発見されました。高松市内に「鬼無町」という地名がありますが、桃太郎伝説の地の1つであり、桃太郎神社には、桃太郎の墓、家来の犬、猿、雉の墓があるそうです。

山頂部には、女木島、男木島特有の玄武岩の柱状節理が顕在します。
訪れてみて初めて発見することが多く、すごく新鮮でした。
引き続き次の作品を体感することとし、歩みをさらに奥に進めていきましょう。
 

ロルフ・ユリアス作『緑の音楽』
鈴木康広作『ファスナーの船』

 

次の作品は、ロルフ・ユリアス氏作「緑の音楽」です。

物質化した実体の作品ではなく、空気の震え、つまりは音の感覚で訴えかけるインスタレーションです。道から少し離れ、青い木々に包まれた空間で、しばらく体全体の感覚を研ぎ澄ませると、静寂な音(いわゆる山歩きをしたときに聞こえる、自然の生物たちが奏でる微妙な不協和音)に混じって、かすかな音が聞こえてきます。あちらこちらの木々に目立たない仕掛け(音響機器)があり、女木島で採取した自然音のハーモニーです。人為的に集めた音とはいえ、とても心休まる空間に仕上がっていました。

2作品観賞後、バスで下山すると、なにやら港が騒がしい!
なんと、今回の芸術祭で注目すべき作品の1つ、鈴木康広『ファスナーの船』が港に近づいて来たのです。みんな一目見ようと、駆け足になり港へお出迎えです。

 

ファスナーの金具そっくりの珍しい姿の船が、話題を集めています。
海面を描く航路は、まるでファスナーで海面を開いていくようで、とてもユニークです。

現代美術家の鈴木康広さんが出品した作品、飛行機から海上の船の航路を見た際に、アイデアが浮かんだというから、発想力の柔軟さに驚きます。

船そのものは、漁船をベースに強化ウレタンで形を作り、全長約11m、重さ5.3㌧の実物です。ファスナー船内は、ちょっと狭いですが、まるで自分が小人になり、本物のファスナーの中に入り、海上を切り開いている気持ちになり、不思議な空間が楽しめます。定員は9人、1日6便、高松市浜ノ町の高松ビジターバースから運行しています。乗船料は、中学生以上は1,000円、小学生は500円です。乗船時間は約15分程度です。会期中10月31日までしか味わえない貴重な体験、お早めにどうぞ!!

瀬戸内国際芸術際2010の開催期間も残りわずかとなりました。
刻々と変貌する景色。夏から秋へと季節も変わり、彼岸花が田畑を彩る季節になり、あちらこちらで稲刈りの時期を迎えています。アートを通じて、海、空、島、食、人、あらゆるものが交差しあう喜びを感じに来てください。次回も引き続き芸術祭便りをお届けします。

今回の記事は、友人からの寄稿文とのコラボレーションでした。

 

 

瀬戸内国際芸術祭2010
開催期間:2010年7月19日 (月)~10月31日(日)

開催場所:瀬戸内海の7つの島/直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、高松港周辺

案内:瀬戸内国際芸術祭 総合インフォメーションセンター Tel.087-813-2244

瀬戸内国際芸術祭2010公式サイト
http://www.setouchi-artfest.jp

 
旅・瀬戸内
http://tabiseto.com/ogishimakagawa.html

 
瀬戸内国際芸術祭 交通アクセス
http://setouchi-artfest.jp/access/