from パリ(たなか) – 67 - パリの地下鉄あれやこれや。

(2010.08.16)
11号線のアール・ゼ・メティエ(工芸)駅は構内全体が銅張り。付近には工芸博物館と工芸学院があるそうだ。

パリの地下鉄に最初に乗った時に驚いたことがいくつもある。

その1・降りる時に手動でドアを開けること。自動ドア環境に慣れた日本人にとって、今どき客が自分でドアを開けるということ自体にカルチャーショックを感じる。降りる客がいない時はドアを開ける必要はないのだから、まあ合理的ではありますがね。ボタンを押すタイプと、取っ手を回転するタイプがあり、せっかちな客は停車する前から手をかけて待つ。たまに自動式もあるので、降りる駅が近づいたらどのタイプか確認しなくてはいけません。

その2・改札を通した切符は、出口では不要。というか、乗る時の改札口があるだけで、出るときはフリー。これは慣れたら便利なシステムなのだが、切符を後で自分で捨てるのがめんどう。ところで、パリのあの非人間的で暴力的な改札口の構造はなんとかして欲しい。狭いので荷物を持っている時は通過するのにひと苦労するし、機械が切符を読み取れなくて故障はするし、そんな時も駅員は改札口にいないし、偶然いてもサービス精神が希薄だし。いっそドイツのように改札口そのものを廃止したらどうだろう。

その3・案内がないこと。パリに来ると、日本の駅の構内アナウンスや車内放送がいかに過剰か(そしてうるさい)ということがよくわかる。ホームに乗るべき電車が到着したら、足元に気をつけて乗車して、目的の駅でさっさと降りるのは、オトナだったら他人に言われなくても自分で出来ます。これはいいのだけど、駅のホームにはその駅の名前しか表示してない(隣りの駅名は書いてない)ので時々困ることがある。パリの地下鉄で乗り換えるときは、路線の番号(1~14)と終点の駅名の表示板を頼りに、蟻の巣のような地下道を進んで行くのだが、うっかり上りと下りを間違えてホームに辿り着き、目的駅とは逆方向に乗ってしまうことが初めての駅では時々あります、私の場合ですが。こういうときに前の駅と次の駅も表示してあると、確認できて安心だと思うのですがね。

11号線のアール・ゼ・メティエ(工芸)駅。私は蒸気機関車をイメージしたのだが、どうやら潜水艦をモチーフにデザインしたらしい。ここまでやるか? はい、パリでは、やるのです。
潜水艦の窓を覗くと、なにやらアーチの模型と設計図らしきもの発見。
5号線のポルト・ド・パンタン駅を出ると、コンセルヴァトワールや音楽博物館が集まったシテ・ド・ラ・ミュージックがある。
8号線のボンヌ・ヌーヴェル駅。駅名を波打たせて、タイポグラフィで遊んでみました。
14号線ピラミッド駅。改札口も最新式。マチスのダンスは、モザイクにしても美しい。
4号線のシテ駅構内。駅の改札を入ると、鉄の巨大な円筒形の中の階段を下りてホームへ行く。開業当時(100年前)は、超モダンなデザインだったに違いない。天井のカーブに合わせた丸い電灯のアーチが美しい。私が好きな駅だ。

閉鎖された駅のホームが廃墟のままだったり、驚くことは他にもいろいろあります。夏、パリの地下鉄は殆どの車両に冷房がないので、狭い車内は蒸し暑く、汗臭い。運転手はTシャツ一枚、運転席のドアを開けたままで走ったりしてるけど、いいのかな。車輪をよく見ると外側はゴムのタイヤで、ちょっと臭かったりするけど、金属音がしないので少しは静かです。あと、地下鉄に限ったことではないが、駅にトイレがないのが大問題です。たぶんそのせいもあって、構内通路の階段の下なんか、臭くて通れない。フランス人は困ってないのか、パリ七不思議のひとつです。

14路線あるパリの地下鉄で、1号線が開業したのが1900年のパリ万博の時。東京で最初の地下鉄、銀座線が開通したのが1927年、この年までにパリの大半の地下鉄は開通しているので、相当古い。一番新しい14号線は、1998年に開通。この電車は全自動運転なので運転手が乗っていない。一度乗ったことがあるが、ホームにもドアがある景色は、東京でもよく見かけるし、わざわざ無人運転にしなくてもいいと思うのだが、新しもの好きのフランスらしい。他の路線との設備の落差があまりにも大きいのが私には気になります。

メトロと言えば響きはいいが、決して快適とは言えないパリの地下鉄ですが、写真に撮るとやっぱり雰囲気があるのが、なんだか口惜しい思いです。地下鉄の駅全体で建築やデザインに関するフォーマットはありそうだけど、駅によっては横並びではない個性を出しているところが、いかにもフランスっぽくて楽しい。画一的な物をなんとかして崩そうとする表現欲は、見習わなくてはいけません。

10号線のクリュニー・ラ・ソルボンヌ駅の天井いっぱいに、詩人や小説家などのサインがモザイクで描かれている。天井右下に、ポール・ヴァレリーのサインが読める。
丸い天井いっぱいに広がる美しいモザイクなのだが、サインの文字は読みにくい。

ホームの端に、サイン解読の説明文もあるのだが、知っている名前を探すだけで精一杯。
12号線パスツール駅は、オーソドックスな印象。

駅名表示のタイル。ゴシック書体が力強い。
緑のレリーフ額縁もタイル。白とブルーが美しい。タイルのサインは、製造会社の名前かな?