from パリ(たなか) – 12 - 夏至の夜の音楽祭3 ポン・デザールのアコースティックな響き。

(2009.07.21)
私はフェスティバルの目玉として、ルーヴルで公演するストラビンスキーの“火の鳥”を聞こう(見よう)と思い、ピラミッドに並んだのでした。マゼールの指揮で10時開演(なんと無料!)だから、30分、いや40分前に並べばなんとかなるだろう。それが、なんとかならなかった。列の20人ほど前で、満員札止め。まあ、しょうがない、途中でいっぱい道草食ったし、でもすぐにはあきらめ切れない。ピラミッドに夏至の太陽が沈むのをしばらく眺めた。思えば、ルーヴルにピラミッドを作ったのも確かミッテランだった。

セーヌに架かる橋でいちばん有名なのは、おそらくポン・ヌフPont Neufだろう。ヌフ(新しい)という名に反して、今ではいちばん古い橋らしいが、堂々たる姿は古さを感じさせない。ポン・ヌフの一つ下流にポン・デザールPont des Artsという鉄骨のアーチが美しい橋がある。人と自転車と犬、猫しか渡れない。ウッドデッキの隙間からはセーヌが覗けたりする。鉄の橋としてはいちばん古いそうだ。重厚なポン・ヌフとは対照的に、連続するアーチに軽快なリズムがあって、私はこの橋が大好きだ。歩いても床の感触が足にやさしい。

この橋の上で何組かの演奏家に出会ったが、みんな押し付けがましくなく、優しげだった。音楽は聞く人へのメッセージだが、それと同じくらい自分、あるいは共演する相手とのコミュニケーションともとれるような音楽だった。芸術の橋という名にぴったりのアコースティックな響きは、演奏者の近くまで寄らないと聞こえない程の音量だが、いつまでも深く記憶に残る音楽だった。

シテ島の先端にある柳の木は、映画ですっかり有名になった。ここにも太鼓のグループが陣取っていた。日射しは強いが、柳の枝を時々靡かせるほどの風が心地よい。向こうに見える橋がポン・デザール、右岸はルーヴル。
ポン・デザールの繊細な鉄のアーチ。機能とデザインが過不足なく結びついた、時代を超越した美しさだ。橋の上にはベンチもあるが、みんな床に座って飲んだり食べたり話したり。橋の下から沸き上がるアフロビートにつられ、上を歩く人のステップが乱れるのがおかしい。
お互いに向き合って話しかけるように、チェロとギターが語り合う。言葉を選ぶように音を出し、応える。思い出すようにゆっくりと、繰り返しながら。お互いの音が重なり、一度限りの和音と旋律が流れる。濃密な愛情表現のようでもあり、なぜか見てはいけないような二人だけの音楽の交歓。
ジャズのレコードジャケットには優れたデザインがよくあるが、ビル・エヴァンスの有名な作品に、ここから撮影したポン・ヌフを白っぽくハイキーに処理したものがある。思わずジャケット買いしたものだが、この橋から眺めるポン・ヌフとシテ島は本当に美しい。若い二人で、果たしてこの景色に負けないデュオが出来るか?
こんな感じのロードムービー、あったなあ。夏至の日の翌日から昼が短くなって、だんだん冬が近くなると思うと、寂しいなあ。彼らは今晩、どこに宿を取るのだろう。
クラリネットのお兄さんだけしっかり音を出してるようで、太鼓もギターもすっかり休憩モード。酒とタバコがないと、音楽なんてやってらんない?