from 香川 – 11 - 『瀬戸内国際芸術祭2010』男木島編 Ⅰ 坂道に点在する空き家を生かし、繋がる輪!

(2010.09.24)
男木島の全景

男木島(おぎじま)

人口:約200人
面積:1.37㎢
瀬戸内国際芸術祭の男木島のテーマ:漁村の生活
主な参加アーティストと展示作品:ジャウメ・プレンサ『男木島の魂』、大岩オスカール『大岩島』、井村隆『カラクリン』、松本秋則『音の風景』、川島猛とドリームフレンズ『想い出玉が集まる家』、高橋治希『SEA VINE』、オンバ・ファクトリーなど全16作品
トリビア:日本の灯台50選の1つ男木島灯台・男木島灯台資料館、男木島水仙郷、安産の神として広く信仰される豊玉姫神社、男木島の伝統的味噌である『ひしお』、地たこや魚介類、お食事処『円』ではひしお入りの幻のうどんもかかせない!

 

三角の形をした島には、山の急斜面に密集して立ち並ぶ石垣の集落や民家が重なりあうようにして建ち並んでおり、他の島々にはない神秘的な風景が目の前に広がります。
それは、まるで地中海沿岸の南仏の街並にも似た風景を思い出すようで、異国の香りが漂います。ここは、アジアの中の日本、瀬戸内海の1つの島であることを一瞬でも忘れさせられたかのような光景です。さあ、新しい光を求めて……迷路でドキドキ、胸の高鳴りと発見、感嘆と悦びを感じながら散策していきましょう。

高松港から、女木島を経由して、約40分。芸術祭の期間中は、直島(宮浦港)から男木島を経由して豊島(家浦港)へ行く便も増設されていますから、行動プランの幅も広がります。
男木島は、人口約200人、島面積1.37k㎡、明治28年開業、男木島灯台に代表される美しい御影石造りの灯台は全国でも数少なく、「日本の灯台50選」のひとつにも選ばれており、安産の神様として知られる豊玉姫神社や、映画『喜びも悲しみも幾年月』のロケ地としても知られています。

毎年、2月~3月にかけての時期は、水仙の花が咲き誇り水仙の郷としても名高い風光明媚な場所でもあります。急斜面に密集して立ち並ぶ民家と民家の間は、人と人とがようやくすれ違えるほどの路幅で坂道や階段も多くあります。また、島内の3分の1くらいは空き家が点在し、今回のアーティスト達の手によりその空き家が素晴らしい作品へと様変わりし、人の手が加わることで新たな息吹が誕生しています。作品は16作品、港から近く、散策しながら観賞するのがお勧めです。

ジャウメ・プレンサ『男木島の魂』/実施設計は齊藤正 男木島交流会館

 

男木島へ寄港すると、貝の形をした、屋根が白く半透明の建物が出迎えてくれます。
自然に吸い込まれていくように皆が交流し、立ち止り、島への高揚感を感じさせてくれる施設です。晴れた日には一層輝きを増し、管内の半透明になっている空間からも、島の様子や、人の流れ、波止場の風景が感じられます。

スペインを代表とするアーティストのジャウメ・プレンサ『男木島の魂』は、世界がここでも繋がっていることを感じ取ってもらいたいとの願いを込めているのでしょう。
屋根には、日本語、ヘブライ語、中国語、ラテン語、アラビア語といった8ヶ国語が混ざり合い、地球は1つという象徴でもあり、日中は地面に映し出された陰影もノスタルジックで、夜の空間へ投射する様も幻想的です。
 

天井部分は8ヶ国語が混ざり合う。
幻想的な夜の風景。

 

次に波止場に近い作品といえば、大岩オスカールの『大岩島』の作品です。

大岩オスカール『大岩島』

中に入っていくと、そこは別世界!1965年生まれの大岩オスカールは、ブラジルのサンパウロ生まれ。現在はニューヨークで活躍中。来日した際に、日本の事を沢山知りたくて、モノクロ映画『二十四の瞳』や『裸の島』を観て瀬戸内海の海や島のイメージを絵画化した大作です。プラスティックタイトにマッキー(マジック)70本を使用し、下書きなしで描き上げたそうです。旧公民館(当時は映画やお芝居鑑賞など島の憩いの場)として利用されていましたが、現在は使用されず物置になっていたものを、こえび隊や島住民により撤去、改修され、素晴らしい1枚の絵画に様変わりしました。こちらは恒久展示です。

大岩オスカールhttp://www.oscaroiwastudio.com/

 
ジャウメ・プレンサの作品から出発して、男木島の散策の仕方は幾通りかありますが、今回は右回りから作品のご紹介をしていきましょう。道沿いにある、オンバ(乳母車)は、島のあちらこちらに点在しています。

作品を見つけようと、ワクワク、ドキドキしながら細い路地を入っていく。自然迷路で体験する冒険の始まりです。

西堀隆史『うちわの骨の家』の入り口付近

20数年前は駄菓子屋だった建物の壁や天井を、香川県の伝統工芸品である丸亀の竹製の団扇の骨を5946枚使用し、2カ月半かけて、内装全面に張り巡らされています。それは想像もつかないほどの団扇の数々。団扇の骨を観るだけでも暑さも少しは和らぐ気がします。うちわを4本繋げるものから、横に付けて針金で留めていくもの、クロスを壁状に作成するなど組み合わせ方も様々。風にたなびく姿を2階から眺めると、温故知新の意味を考えさせられます。ここも多くの人々の結束力により制作された賜物です。
路地に密集して建てられた民家の間に素敵な場所を発見!!

谷口智子『オルガン』です。

立ち並ぶ家屋内や空き地や路地に沿うようにパイプを配管。望遠鏡や潜望鏡が組み込まれたパイプを覗くと新しい光景が発見できたり、糸電話のようにお互いの発する声や音が聞こえたりと、子供から大人まで楽しめ、島の魅力も再発見できるしくみになっています。

眞鍋陸二 男木島 路地壁画プロジェクト Wallalley(島内計8か所点在)木に樹のイメージを描く『木の記憶』のシリーズ 種の記憶、花の季節、紅葉から冬、倒され切られてからも板になり柱になり家になり第二の人生を生きる木の記憶を想像した作品。

集落の坂を登り進んでいくと、ハッとさせられるような、カラフルな壁画が現れます。
島の息使いや、呼吸が感じられる作品です。島で集めた廃材や廃船などに描いた絵を展示、緑、空の水色、海の青、太陽の赤、黄色、その中に繊細に描かれた木、民家の中に植わっている蒲萄、男木島から見える大槌、小槌など島の気配を壁画に取り入れ、島の景色にする試みです。

眞鍋陸二HPhttp://www.blackcoffee.jp/ebakam/ebakam.html

その路地壁画プロジェクトの向こうには、オンバのマークが現れました。   
オンバファクトリーの入り口に来ました。細い階段の向こうにある開かれた扉の入り口には、なんと、素敵なお庭が広がり、オンバが沢山!!また、カフェも併設されてる室内には、解放された縁側から中庭をゆっくり眺めたり、ひと休憩しながら、海を眺めると抜群のロケーションが広がります。
高台にあるからこそ見える景色には本当に癒されます。
そしてカフェではTシャツや鞄、軍手などオンバマークの入った可愛いアイテムも販売されていて、とても魅力的です。

オンバファクトリーhttp://blog.livedoor.jp/onbafactory/archives/50761004.html

オンバとは乳母車のこと。
工房内には、昆虫や船などをかたどった作品も。

オンバとは、島の言葉で乳母車を意味します。
島内で細い路地や坂の多い男木島では、生活になくてはならない必需品です。

島の人々から実際に使用しているオンバを借りて、持ち主の要望や意見交換しながら5人のアーティスト達が、素敵なオンバにカスタマイズし、日常に非日常が浸透することで、輝きを取り戻すのでしょう。工房内には、昆虫や船などをかたどった作品も展示されています。
こちらでは、アーティストにも身近に会う事ができ、いろんな体験も語ってくれます。
また、月に一度、観光客がオンバで島を巡るツアーも実施しています。
 

谷山恭子『雨の路地』 たらいやバケツを吊り下げて晴れの日も雨が降る光景を実現しています。

かつて男木島では、水が不足すると、山の上の井戸まで水を汲みに行く必要があったエピソードに由来し、島の生活と大切な水との関係を伝える作品です。

谷山恭子http://www.kyococo.com/

 

島の人々にとっては日常の生活。そこへ現代アートを通じて多くの人の言葉が交差し共感しあい、新しい魂が生まれて宿ります。そんな空間にあなたも是非一度足を運んで体感しにきてください。島の息吹を感じながら散策する時間は他の何物にも代えられない大事な宝物になることでしょう。毎日、毎日同じ景色がない島、海、空の風景。
かつて歩いた先人の思いや牛たちの足跡を想像し手繰り寄せながら、島時間を感じてください。引き続き次回も男木島からお届けします。お楽しみに!!

*追記*
9月26日、男木島で大変衝撃的な事態が発生しました。港付近で、火災が発生した為、1人が亡くなりました。大変不幸な事故であり、ご冥福をお祈りいたします。また、前回ご紹介した、男木島の芸術作品の1つ、ブラジル生まれの日系2世で現代美術家・大岩オスカールさんの作品「大岩島」が全焼しました。
また、一部が焼けた建物に展示していた造形作家・井村隆さんの作品「カラクリン」も被害が出ました。現場では、早期の復旧に向け作業に努められています。
一部の作品は、焼失しましたが、28日以降、他の作品は継続して公開しています。

 

瀬戸内国際芸術祭公式サイト

http://www.setouchi-artfest.jp

 
旅・瀬戸内

http://tabiseto.com/ogishimakagawa.html

 
瀬戸内国際芸術祭 交通アクセス

http://setouchi-artfest.jp/access/

 
 

瀬戸内国際芸術祭

開催期間:2010年7月19日 (月)~10月31日(日)

開催場所:瀬戸内海の7つの島/直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、高松港周辺

案内:瀬戸内国際芸術祭 総合インフォメーションセンター Tel.087-813-2244