from パリ(河) – 11 - バスク紀行1 ビアリッツ → サン・ジャン・ド・リュズ → サン・セバスチャン。

(2010.06.17)
6月のビアリッツの海岸で、波を待つサーファー。

爽やかな初夏の風が吹く6月。パリを離れて、どこかに出かけたくなる季節になりました。

私は毎年、人でごったがえすバカンス前のこの時期に、どこかに小旅行へ出かけることにしているのですが、今年はかねてから憧れてはいたけれど、ちょっと遠いので先延ばしにしていたバスク地方へ、いよいよ行ってみることにしました。

バスク地方は、大西洋側に位置する、ピレネー山脈を挟んでフランスとスペインに跨る地方。独自の文化と言語を守り続けている地域で、特に長いフランコ独裁時代に弾圧を受けたスペイン側バスク地方では、今も「バスク国」としての独立を求める民族運動が続いています。海と山に囲まれているこの地方は、観光資源と食材に恵まれており、特に魚介類、豚肉、赤唐辛子をふんだんに使うバスク料理は、数年前からフランス料理界の注目を集めるようになり、パリでもここ数年、バスク料理を取り入れたビストロが増えました。

さて、私の旅ですが、まずはパリ・モンパルナス駅から始発のTGVで、フレンチ・バスクの玄関口にあたるビアリッツへ向かいました。この街は、ヨーロッパ有数の高級リゾート地のひとつ。19世紀にナポレオン三世の妃、ヴィジニー皇后が別荘を建てて以来、ヨーロッパ、特にイギリスの王侯貴族が集う避暑地として発展しました。バスク地方に属しますが、民族色は比較的薄く、宮殿のような高級ホテルやカジノ、ブランド店が並ぶ華やかな街です。また、世界的に有名なサーフ・スポットでもあり、一年を通して、世界中のサーファーが大西洋の波を求めてやって来ます。
 

ビアリッツの広々とした海岸。サーファーのメッカです。
崖に張り出したオープンテラスのカフェ。海を間近に見ながら、軽いタパスを楽しめる。
海岸沿いのレストランで。前菜のホタテのカルパッチョ。
鯛のソテーと、AOCジュランソン・セックの白ワイン。お昼なのでハーフで我慢。

パリからビアリッツまではTGVでおよそ5時間。列車の中でクロワッサンとカフェオレの朝食を取った後、車窓を流れる景色をぼんやり眺めながら、時々読書、時々うたた寝。正午過ぎにようやく目的地のビアリッツ駅に到着。まずは腹ごしらえと、バスで海岸へと向かい、海を見渡せる素敵なレストランを発見。前菜にホタテのカルパッチョ、メインに鯛のソテー、ワインはバスク地方でぜひ飲んでみたかった、ジュランソンの辛口の白をチョイス。うーん、やっぱりワインはその土地の空気の中で、土地の食材と一緒に味わうとひと際美味しいですね。

食後は海岸を散策。あいにくの曇り空で、まだ水も断然冷たそうでしたが、波に向かうサーファーや海水浴客の姿がちらほらと。広い砂浜に次々と押し寄せる波を眺めていると、徐々に晴れ間が現れ、海が鮮やかな青色に。今年初めて見る、きらきら輝く海は本当に美しく、日々の疲れが癒されました。

夕刻になって、ビアリッツから少し離れた宿、「ドメーヌ・バシロール」へと、タクシーで移動。日本の雑誌で紹介されていたのを見て、どうしても泊まりたかった民宿です。緑に囲まれた可愛らしい納屋風の宿で、部屋ごとに異なるインテリアが施されています。私の部屋は水色でまとめられた素朴な雰囲気の内装で、リネンも清潔でベッドも広く快適。浴室には憧れの猫足付のバスタブが。ロゼワインを飲みながら、バスタイムもゆっくり楽しめました。

ビアリッツからタクシーで15分ほどのところにある可愛い民宿『ドメーヌ・バシロール』 http://www.touradour.com/towns/bidart/domdebassi/fr/laferme.asp 。オーナーはスウェーデン人女性。環境配慮型のホテルとして、この地方のホテルとしては初めてのEUエコラベルを取得。地熱エネルギーを利用した暖房と温水設備、ごみのリサイクル、節水システム、生分解性の清掃剤の使用など、徹底した環境対策を実施している。

翌日は快晴。ビアリッツから鈍行列車に乗って、次の目的地、サン・ジャン・ド・リュズへ。この町はビアリッツとは全く趣の異なる、バスクの地方色溢れた庶民的な港町で、この地方特有の白壁に赤、緑、青色の木組みと鎧戸が組み合わされた、素朴な民家が並びます。フランス側バスクでは鎧戸や木組み、バルコニーをこの3色以外の色で塗ることは禁止されているそう。サン・ジャン・ド・リュズの海はビアリッツの海よりも波が穏やかで、海水浴に最適です。この日は天気が良く、まだ6月というのに、多くの海水浴客で賑わっていました。(でも水はまだまだ冷たかった。)

港町だけあって、魚介類も豊富。特にCHIPIRONという小イカが有名で、さっそく昼食にイカスミ煮を賞味してみました。ワインはなかなか珍しい地酒であるAOCイルレギーのロゼを。初めて味わってみましたが、アルコール度の強い個性のあるロゼでした。イカスミというのは一般のフランス人はほとんど口にしない代物で、隣の席にいた、フランスの他の地方から来た観光客が、黒々した私の皿をいぶかしそうに見ていたのが可笑しかったな。日本人は結構好きなんですけどね、これ。

食後はビーチでパラソルを借りてうたた寝。潮風と波の音、日光浴を楽しむ人々の笑い声が心地よい午後。やっぱりバカンスはいいなあ。(つづく)

サン・ジャン・ド・リュズの海岸。
サン・ジャン・ド・リュズの漁船。
バスク地方では、CHIPIRONという小イカが有名。イカスミが食べられるのもスペインに近いこの地方ならでは。
サン・ジャン・ド・リュズの町並み。
日光浴を楽しむ人たち。中にはトップレスのマダムたちも……。シミと皺が増えることはまったく気にしてません。