ノスタルジックな水路をたゆたう。
漁師町、富山・内川散策。

(2012.10.19)

富山湾に面する射水市
新湊地区を流れる水路、内川。

出産のため、富山の実家に里帰りしていた7月のこと。姉に「生まれる前に、どこか行きたいところある?」と聞かれ、リクエストしたのが内川でした。内川は、富山湾に面する射水市・新湊地区を流れる水路。

このあたりは江戸時代に北前船の中継地として栄えました。近くには県内有数の漁港である新湊漁港があり、春は白エビ、秋は紅ズワイガニ、冬は寒ブリと、富山湾ならではの四季折々の魚介類が水揚げされます。そんな漁師町を悠然と流れる内川べりを散歩しました。

内川は、特別に人目を惹く観光地というわけではなく、どちらかといえば地域の人の生活の場。しかしながら、歩いてみると何とも心地よいのです。この心地よさのもとは、川が描くゆるやかなカーブではないかと思います。

ゆるく曲がっていく川に沿って、漁船も街路樹も民家も、全てがゆるやかに連なる景観。心癒されます。

ゆるやかに連なる内川の眺め。川岸に柵はなく水面がとっても近い。ここを「日本のベニス」と称する人も。

川沿いには土蔵を利用したカフェも。板貼りの壁や漁に使うガラス玉の飾りが印象的。
ひとつひとつが、
個性的な内川にかかる橋。

内川にかかる橋もひとつひとつ個性的で、いちいち渡ってみたくなります。

神楽橋。72枚のステンドグラスがはめ込まれ、夕暮れ時が最も幻想的に。


左・山王橋。地元作家の彫刻が置かれている。
右・東橋。「立ち止まって時を過ごす憩いの橋」というコンセプトで設計された。

道の途中に、ちいさな祠(ほこら)をいくつも発見。
これは海や街道の安全を願う地蔵堂だそうで、この地が交通の要所であったことを伺わせます。

川沿いのお土産・お食事スポット「川の駅 新湊」で2基の曳山を見ました。
この曳山は、毎年10月1日に行われる新湊曳山まつり(放生津八幡宮の大例祭)で使われます。

夜になると、ちょうちんを灯した「提灯山」に装いを変え、灯りが内川の水面に映る姿は何とも幻想的だとか。


左・地蔵堂はこの界隈に150カ所もあり、古くから信仰されている。
右・「川の駅 新湊」では、2階に上がって曳山を見下ろすことができる。

左・町中にある曳山の保管庫。曳山は全部で13基ある。
右・このあたりは放生津と書いて「ほうじょうず」と呼ぶ。鎌倉時代には政治経済の中心地だった。
内川はつまり山から海へではなく
港から港へ流れて……。

歩いては橋を渡り、川の両岸を行き来しながら散歩していると、橋の先に堤防らしきものを発見しました。「あれ?海ってそっちにあるの?」私はてっきり、内川は南から北へ、つまり山から海に向かって注いでいて、自分はいま川を下り海に向かって歩いていると思っていました。

橋を渡った先は堤防にぶつかる。海はすぐそこ。

しかし、よくよく地図をみると、内川は港と港をつなぐように東西に流れていたのでした。なんとも不思議な気がします。

堤防の向こうに広がる富山湾。

***

のどかなだけでなく、なんとなくノスタルジックな雰囲気も漂う内川エリア。この冬には、長らく空き家だった畳屋さんが、カフェとして息を吹き返すそうです。こうして古いものを残しながら心地よさを増していくのが、内川の魅力なのだろうと思います。少しだけ日常の喧噪を離れて、ゆったりとした時の流れに浸りたい時は、内川で、たゆたう川の流れを眺めてみてはいかがでしょうか。


六角形をした畳屋さん。その記憶を残したまま、もうすぐカフェに。オープン予定は12月20日。詳しくはマチザイノオト

この秋創刊、富山の情報誌『itona』。内川をはじめ、日常と隣りあわせの富山の魅力を地元女子が綴っています(web注文可能)。